企業の決算発表では、売上高や利益が前年同期と比べて増えたか減ったかに目が向きがちです。
しかし、株式市場がより強く意識するのは、過去の実績よりもこれからの業績です。
特に重要なのが、企業が発表している通期業績予想が今後上方修正される可能性があるかどうかです。
上方修正の可能性を考える際には、進捗率だけを見るのではなく、会社予想、市場予想、業績が伸びた理由、株価への織り込みまで確認する必要があります。
進捗率は上方修正を考える入口になる
まず確認したいのが進捗率です。
進捗率とは、企業が通期の業績予想に対して、決算時点までにどの程度の利益を稼いだかを示すものです。
単純に考えれば、3月期決算企業の場合、第1四半期終了時点なら25%、中間期なら50%程度が一つの目安になります。
例えば、通期の予想純利益が100億円で、第1四半期までに40億円を稼いでいれば、進捗率は40%です。
単純な25%という目安を大きく上回っています。
こうした企業では、現在の会社予想が慎重すぎる可能性があります。
実際に記事で紹介されているカシオ計算機は、第1四半期決算時に通期見通しを上方修正したにもかかわらず、修正後の予想純利益に対する進捗率がなお40%近い水準となっています。
カプコンも通期予想を上方修正していないものの、新作ゲームの販売が好調で、純利益の進捗率は50%に達しています。
こうした数字は、次の決算で会社予想が見直される可能性を考える材料になります。
進捗率は前年と比較する
ただし、進捗率が高ければ必ず上方修正されるわけではありません。
企業には季節性があるからです。
例えば、玩具やゲーム、百貨店などはクリスマスや年末商戦の影響を受けやすく、特定の四半期に利益が集中することがあります。
逆に、年度前半に利益が集中しやすい企業もあります。
したがって、現在の進捗率だけを見るのでは不十分です。
前年同期や前々年同期の進捗率と比較することが重要です。
毎年第1四半期の進捗率が40%程度になる会社であれば、今年40%だからといって特別に業績が好調とはいえません。
一方、過去は25%程度だった企業が今年は40%になっていれば、何らかの変化が起きている可能性があります。
大切なのは絶対的な数字よりも、その企業自身の過去との比較です。
月次売上高や受注残も確認する
決算書以外にも業績を先取りする材料があります。
代表的なのが月次情報です。
小売業や外食産業では、既存店売上高や客数、客単価などを毎月公表している企業があります。
四半期決算を待たなくても、足元の販売状況をある程度確認できます。
建設業や機械メーカーなどでは、受注残が重要です。
受注しただけではすぐに売上高や利益にならない事業では、現在抱えている受注が将来の業績につながります。
そのため、受注残が継続的に増えている企業では、今後の売上高や利益の拡大を予測する材料になります。
進捗率は過去から現在までの数字ですが、受注残は将来を見る数字でもあります。
両方を見ることで、業績の方向性をより立体的に把握できます。
会社予想と市場予想の差を見る
もう一つ重要なのが、会社予想と市場予想の比較です。
会社予想とは企業自身が発表する業績見通しです。
企業によって姿勢は異なりますが、不確実な要因を考慮して慎重な予想を出すケースがあります。
これに対して、証券会社のアナリストは企業への取材や業界動向などを踏まえて独自に業績を予想します。
複数のアナリスト予想を平均したものが市場予想です。
例えばカプコンについては、会社予想の純利益が580億円なのに対し、2026年9月29日時点の市場予想は633億円とされています。
市場はすでに会社予想を上回る利益を想定していることになります。
この差は非常に重要です。
会社が580億円から610億円へ上方修正したとしても、市場が633億円を期待していれば、投資家にとっては期待以下ということもあり得ます。
上方修正そのものではなく、市場の期待を上回ったかどうかが株価を左右するわけです。
利益が増えた理由を確認する
進捗率を見る際に最も注意したいのが、一過性利益です。
今期は米国の関税政策を巡る還付金を計上する企業があります。
原油価格上昇によって在庫評価益が膨らむケースもあります。
こうした利益によって進捗率が高くなっていても、その利益が翌年度以降も続くとは限りません。
一方で、商品の販売数量が増えた、値上げが浸透した、海外事業が成長した、新しい市場が拡大したといった要因なら、利益成長が継続する可能性があります。
記事では、カシオ計算機の海外での時計販売や、JX金属のAI向けデータセンター投資拡大に伴う半導体材料の伸びが紹介されています。
単に利益が増えたという結果だけではなく、なぜ増えたのかを見ることが重要です。
株主還元にも業績への自信が表れる
業績だけでなく、経営陣の資本政策にも注目できます。
増配や自社株買いを打ち出すには一定の資金が必要です。
中期経営計画などで継続的な増配や株主還元の強化を掲げている企業では、経営陣が将来のキャッシュフローについて一定の見通しを持っている可能性があります。
もっとも、株主還元策だけで将来の業績を判断することはできません。
業績の伸びとキャッシュフロー、設備投資、財務状況などと合わせて確認する必要があります。
好業績でも株価が上がるとは限らない
最後に確認したいのが株価です。
ここが株式投資の難しいところです。
業績が良い会社と、これから株価が上がる会社は必ずしも同じではありません。
市場参加者がすでに好業績を予想していれば、その期待は株価に織り込まれている可能性があります。
そこで参考になる指標の一つが予想PERです。
同業他社やその企業自身の過去と比較してPERがかなり高ければ、高成長や業績上方修正への期待がすでに株価へ反映されている可能性があります。
その場合、実際に上方修正されても、市場予想を下回れば株価が下落することがあります。
決算発表後に「好決算なのになぜ株価が下がるのか」という現象が起きる理由の一つです。
市場は決算発表された数字だけではなく、その数字と事前の期待との差を評価しているからです。
結論
業績の上方修正を考えるとき、進捗率は非常に有力な手掛かりになります。
ただし、進捗率だけで判断するのは危険です。
過去の進捗率との比較、月次売上高、受注残、会社予想と市場予想の差、利益増加の理由、株主還元、予想PERなどを組み合わせて確認する必要があります。
特に重要なのは、会社の業績が良いかどうかだけではありません。
市場がどこまでの好業績をすでに予想しているのかを考えることです。
株価は現在ではなく将来を映そうとします。
だからこそ決算を見る際には、発表された利益の数字を確認するだけではなく、その先にある通期業績と市場の期待を読む視点が重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年10月3日 朝刊「業績の上方修正を先取り 進捗率や市場予想を見極め」