身寄りのない高齢者を支える仕組みとして、民間の高齢者終身サポート事業が広がっています。
一方で、自治体も新たな支援に乗り出しています。
東京都練馬区では2026年4月、身近に頼れる親族がいない高齢者などを対象として、見守りや入院時の支援、死後の手続きなどを支える事業を始めました。
さらに7月には民間団体などと連携し、自治体の制度だけでは対応できない人にも選択肢を広げる取り組みを始めています。
自治体と民間はどちらか一方を選ぶ関係ではありません。
公的支援で何ができるのかを確認し、不足する部分を民間サービスで補うという考え方が重要になってきます。
自治体も身寄りのない高齢者への支援を始めている
これまで高齢者への行政サービスというと、介護保険や生活支援などが中心でした。
身元保証や死後事務については、家族や親族が対応することが暗黙の前提になっていた面があります。
しかし、単身高齢者が増えれば、この前提は成り立たなくなります。
入院するときに頼れる人がいない。
介護施設への入居手続きを手伝ってくれる人がいない。
亡くなった後に様々な手続きをする人がいない。
こうした問題に自治体も対応する必要が出てきました。
高齢者支援は、生きている間の福祉だけでなく、入院から死後までを含めたものへ広がりつつあります。
練馬区では2026年4月に事業を開始
東京都練馬区では2026年4月、身寄りのない高齢者などに対する終身サポート体制を強化しました。
社会福祉協議会に委託する形で、見守りサービス、死後の手続き、入院などの支援を提供しています。
サービスによって無料で利用できるものや、1時間3,000円で利用するものなどがあります。
民間の終身サポートと比べ、利用者の負担を抑えられる可能性があることが特徴です。
自治体が関与する仕組みであることも、利用者にとって安心材料の1つになります。
自治体のサービスには利用条件がある
ただし、希望すれば誰でも自治体の終身サポートを利用できるわけではありません。
練馬区の制度では、高齢者で身近に頼れる親族がいないことなどが前提になります。
さらに、住民税非課税世帯であること、または課税総所得額が160万円以下で流動資産が2,000万円以下であることなどの条件があります。
ここが民間サービスとの大きな違いです。
公的な制度は、支援の必要性が高い人へ限られた行政資源を届ける必要があります。
そのため、年齢、所得、資産、親族の状況など一定の要件を設けることがあります。
民間サービスは選択肢が幅広い
一方、民間の高齢者終身サポートでは、所得や資産によって利用対象を限定しないサービスが多くあります。
費用を負担できれば、幅広いサービスから自分に合ったものを選べます。
身元保証。
病院への同行。
日常生活支援。
緊急時対応。
介護施設への入居支援。
葬儀。
納骨。
家財処分。
公共料金などの契約終了。
提供範囲は事業者によって異なりますが、自分の希望に応じてサービスを組み合わせられる点は民間の強みです。
その代わり、費用や事業者の信用力を自分で確認する必要があります。
公的サービスは低コストが大きな特徴
自治体が関与するサービスの大きな特徴は、利用者の負担を抑えられる可能性があることです。
特に老後資金に余裕のない単身高齢者にとって、高額な民間サービスを長期間利用することは難しい場合があります。
年金収入が限られていれば、介護費や医療費だけでも負担は大きくなります。
そこに身元保証や生活支援の費用まで加われば、家計を圧迫する可能性があります。
一定の要件を満たす人に低額または無料の支援を提供する公的な仕組みには重要な意味があります。
所得や資産が少ないことによって必要な支援を受けられない状況を防ぐ役割があります。
民間は柔軟性に強みがある
反対に、民間サービスの強みは柔軟性です。
利用者が費用を負担することを前提として、様々なサービスを選択できます。
例えば、まだ元気な段階から定期的な見守りを依頼することも考えられます。
病院への付き添いを依頼したい人もいるでしょう。
介護施設探しから入居後の支援まで頼みたい人もいます。
死亡後についても、葬儀だけでなく納骨や家財整理など幅広い対応を希望する場合があります。
行政サービスではすべての個別需要に対応することは難しいため、こうした部分では民間事業者の役割が大きくなります。
練馬区は民間事業者の紹介にも踏み込んだ
練馬区では2026年7月、全国高齢者支援団体連合会などと提携し、より多様なサービスを展開する民間事業者を紹介できる体制を整えました。
練馬区によれば全国初の取り組みです。
この仕組みが興味深いのは、公的サービスと民間サービスを完全に分けていないことです。
自治体の制度には所得や資産などの要件があります。
その要件を満たさない人でも、身元保証や終身サポートを必要とする場合があります。
そこで民間の選択肢につなぐわけです。
自治体がすべてのサービスを直接提供するのではなく、相談の入口となり、必要に応じて民間につなぐ役割を担う形です。
自治体か民間かの2択ではない
終身サポートを考えるとき、「自治体と民間のどちらがよいのか」という2択で考える必要はありません。
まず自治体の相談窓口を利用する。
利用できる公的制度を確認する。
社会福祉協議会などの支援を確認する。
それでも不足する部分について民間サービスを検討する。
このように段階的に考えることができます。
例えば、基本的な見守りは公的な仕組みを利用し、死後事務については別途専門家と契約するという組み合わせも考えられます。
自分に必要な役割ごとに支援者を決める発想が重要です。
自治体によって制度が違う
注意したいのは、高齢者終身サポートに関する自治体の取り組みが全国一律ではないことです。
練馬区のような制度が、そのまま全国どこでも利用できるわけではありません。
自治体によって対象者、所得要件、資産要件、提供するサービス、料金などは異なります。
そもそも同様の制度を設けていない自治体もあります。
そのため、自分が住んでいる自治体にどのような支援制度があるのかを確認する必要があります。
地域包括支援センターや社会福祉協議会などが最初の相談先になります。
元気なうちに相談しておく
公的な支援についても、入院や介護が必要になってから初めて調べるより、元気なうちに確認しておくほうが安心です。
自分が制度の対象になるのか。
どのような支援を受けられるのか。
利用には事前登録が必要なのか。
緊急時にはどこへ連絡すればよいのか。
死後の手続きまで対応してもらえるのか。
あらかじめ確認しておけば、突然の入院などにも備えやすくなります。
高齢者支援は、困ってから探すだけではなく、元気な時期から関係を作っておくという考え方が重要になっています。
行政は相談の入口としても重要になる
今後、自治体に期待されるのは、自らサービスを提供することだけではありません。
高齢者がどこへ相談すればよいか分からないという問題を解消する役割も重要です。
身元保証は民間事業者。
財産管理は専門職。
介護は介護事業者。
生活支援は社会福祉協議会。
死後事務は別の専門家。
このように窓口が分かれていれば、高齢者自身がすべてを理解して選ぶことは簡単ではありません。
自治体などが相談の入口となり、必要な支援へつなぐ仕組みが整えば、利用者にとって分かりやすくなります。
結論
単身高齢者の増加によって、終身サポートは民間だけのサービスではなくなり始めています。
自治体や社会福祉協議会も、見守り、入院支援、死後の手続きなどに取り組み始めています。
公的サービスの特徴は、一定の要件を満たす人が低額または無料で利用できる可能性があることです。
一方、民間サービスには、利用者の希望に応じて幅広い支援を選べる柔軟性があります。
大切なのは、どちらか一方を選ぶことではありません。
まず公的な支援を確認し、不足する部分を民間サービスや専門職で補う。
自分に必要な支援を組み合わせていくことです。
これまでの老後は、困ったときには家族に頼ることが暗黙の前提でした。
これからは、行政、社会福祉協議会、民間事業者、専門職などを組み合わせ、自分自身で支援のネットワークを準備する時代になります。
家族の代わりとなる1人を探すのではなく、家族が担ってきた役割を社会の複数の仕組みで支える。
それが単身化する高齢社会における新しい終身サポートの形になっていくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年10月3日朝刊 単身シニア、難しい身元保証 入院や介護に民間サービス
日本経済新聞 2026年10月3日朝刊 施設の9割が要請