最低賃金1,177円時代の扶養内勤務を考える

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2026年度の最低賃金の全国加重平均は1,177円となり、前年度から56円上昇します。

最低賃金の引き上げは、働く人の所得を増やす重要な政策です。

同じ時間働いても、以前より多くの給与を受け取れるようになります。

ところが、扶養内勤務を続けたい人にとっては、別の問題が生じます。

時給が上がれば、一定の年収に到達するまでに働ける時間が短くなるからです。

最低賃金が1,000円前後だった時代と1,177円の時代では、扶養内勤務の意味も変わってきます。

130万円まで働ける時間は約1,104時間

年収130万円を1つの目安として単純計算してみます。

時給1,177円の場合、130万円に達する年間労働時間は約1,104時間です。

52週で割ると、週平均約21時間です。

月平均では約92時間になります。

実際には勤務先や社会保険の適用条件、賃金の範囲などを確認する必要がありますが、時給上昇と労働時間の関係を見るうえでは分かりやすい数字です。

週20時間という社会保険加入に関係する労働時間要件とも近い水準になっています。

時給が上がるほど時間は短くなる

同じ130万円でも、時給によって必要な労働時間は変わります。

時給1,000円なら年間1,300時間です。

時給1,100円なら約1,182時間です。

時給1,177円なら約1,104時間です。

時給1,300円なら1,000時間です。

時給1,500円なら約867時間です。

賃金が上がるほど、130万円という金額に到達するまでの時間は短くなります。

扶養内に年収を抑えることを最優先にすれば、賃上げが続くほど勤務時間を減らさなければならなくなります。

106万円の壁は撤廃された

2026年10月から、短時間労働者の社会保険加入をめぐる106万円の賃金要件は撤廃されました。

これまで106万円という金額を意識して勤務時間を調整していた人にとっては、大きな制度変更です。

しかし、これで年収の壁がすべてなくなったわけではありません。

配偶者の社会保険の扶養に関係する130万円の壁は残っています。

さらに社会保険加入に関係する週20時間という労働時間要件もあります。

これからは106万円という金額より、130万円と週20時間という2つの基準が意識されやすくなります。

金額の壁と時間の壁が接近している

最低賃金が低かった時代には、130万円の壁と週20時間という基準には比較的距離がありました。

しかし、時給が上昇すると両者は接近します。

時給1,177円で週20時間、年間52週働いた場合の年収は、単純計算で約122万円です。

時給1,250円なら約130万円になります。

つまり時給1,250円程度になると、週20時間働くだけで年間賃金が130万円程度になります。

都市部など時給水準が高い地域では、こうした状況が既に現実的なものになっています。

扶養内勤務を考えるとき、年収だけを管理すればよい時代ではなくなっています。

時給上昇が勤務時間減少につながる

本来、時給が上がれば収入は増えます。

しかし、年収130万円以内を強く意識する場合は違います。

時給が上がった分だけ勤務時間を減らせば、年間収入はほとんど変わりません。

企業側から見ると、賃上げをしているのに1人から確保できる労働時間が減ることになります。

働く側から見れば、同じ年収をより短い時間で得られるため、余暇や家事の時間を増やせます。

個人にとって合理的な選択が、社会全体では労働力不足を強めることがあります。

ここに年収の壁の難しさがあります。

扶養内なら必ず得とは限らない

扶養内勤務には現在の社会保険料負担を抑えられるメリットがあります。

そのため、短期的な手取りだけを比較すると有利に見えることがあります。

しかし、働き方を考える際には現在の手取りだけでなく、将来まで含めて考える必要があります。

厚生年金に加入すれば、加入期間や報酬に応じて将来受け取る老齢厚生年金が増えます。

健康保険でも、一定の要件を満たせば傷病手当金などの保障があります。

社会保険料は単なる負担ではなく、将来の年金や保障を得るための保険料という側面があります。

壁の直前で止めることだけが選択肢ではない

年収の壁を考えると、130万円を超えるか超えないかという2択になりがちです。

しかし、実際にはもう1つの考え方があります。

壁を十分に超えるまで働くことです。

130万円を少しだけ超えると、新たな社会保険料負担によって手取りの増加を感じにくい場合があります。

一方、そこからさらに勤務時間を増やして年収を高めれば、手取りも再び増えていきます。

壁を超えること自体ではなく、超えた後にどこまで収入を増やせるかを見ることが重要です。

生涯所得で考える

例えば扶養内勤務を20年間続ける場合と、社会保険に加入して勤務時間を増やす場合では、現在の手取りだけでなく将来の収入にも違いが生じます。

給与が増えれば現役時代の収入が増えます。

厚生年金への加入期間が長くなれば、老後の年金額にも反映されます。

さらに長く働いた経験が、昇給や職務の拡大につながる場合もあります。

一方、家庭の事情によって短時間勤務を優先することにも十分な合理性があります。

重要なのは、目先の数万円だけで判断せず、長い期間で比較することです。

家族全体で考える必要がある

扶養内勤務は本人だけの問題ではありません。

配偶者の勤務先に家族手当や配偶者手当がある場合、本人の年収によって支給条件が変わることがあります。

社会保険の扶養条件も関係します。

したがって、働く時間を増やす場合には、自分の給与だけを見るのではなく、世帯全体の収入と負担を確認する必要があります。

税金。

社会保険料。

配偶者の勤務先の手当。

将来の年金。

これらを合わせて判断することが重要です。

扶養内勤務そのものが悪いわけではない

扶養内勤務を選ぶこと自体に問題があるわけではありません。

育児や介護をしている。

健康上の理由がある。

学習や資格取得に時間を使いたい。

家事とのバランスを重視したい。

人によって働ける時間や生活上の優先順位は異なります。

重要なのは、制度上の壁だけを理由に、本来希望しているより勤務時間を短くしていないかを確認することです。

結論

最低賃金の全国加重平均が1,177円となる時代では、扶養内勤務のあり方も変わってきます。

年収130万円に達する労働時間は、単純計算で年間約1,104時間、週平均約21時間です。

週20時間という社会保険加入に関係する労働時間要件とも近づいています。

106万円の賃金要件が撤廃されても、130万円の壁と週20時間という基準は残ります。

さらに賃金が上昇すれば、一定の年収以内で働ける時間は一段と短くなります。

これから扶養内勤務を考えるときには、壁の直前で働くことだけを前提にするのではなく、壁を超えて収入を増やす選択肢も比較する必要があります。

現在の手取りだけではありません。

将来の厚生年金や社会保険の保障、世帯全体の収入、生涯所得まで含めて考えることが重要です。

最低賃金1,177円時代は、扶養内に収めるために何時間働くかではなく、自分は本来どのくらい働き、どのくらいの収入を得たいのかを改めて考える時代でもあります。

参考

日本経済新聞 2026年10月1日朝刊 労働臨界「働き控え」なお400万人超 「年収の壁」106万円撤廃

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