人手不足が深刻になるなか、パートなどの短時間労働者は増えています。
厚生労働省によると、2025年の短時間労働者数は1,614万人となり、2019年と比べて5%増加しました。
働く人が増えているのであれば、日本全体の労働力も増えているように思えます。
ところが実際には逆の現象が起きています。
短時間労働者の人数と1人当たりの労働時間を掛け合わせた労働供給量は、2019年と比べて2%減少しました。
人数は増えているのに労働力は減っている。
この一見矛盾した現象を理解するには、就業者数だけではなく1人当たりの労働時間を見る必要があります。
短時間労働者は1,614万人に増えた
2025年の短時間労働者は1,614万人でした。
2019年と比べて5%増えています。
小売り、外食、給食、介護など、多くの業界でパートやアルバイトは欠かせない存在になっています。
高齢者の就業も増え、短時間で働くという選択肢は幅広い世代に広がっています。
フルタイム勤務が難しい人でも働ける環境が広がることは、人口減少が進む日本にとって重要です。
しかし、人数の増加だけで労働力の実態を判断することはできません。
1人当たりの労働時間は7%減少
短時間労働者1人当たりの総実労働時間は、2025年に月79.1時間でした。
2019年と比べると7%減っています。
短い時間だけ働く高齢者が増えたことなども影響しています。
さらに、最低賃金の大幅な引き上げが進んだ2023年以降は、3年連続で減少しました。
人数が5%増えても、1人当たりの労働時間が7%減れば、全体の労働時間が増えるとは限りません。
ここに現在の労働市場の特徴があります。
労働力は人数と時間で考える
簡単な例で考えてみます。
100人が1人100時間働けば、全体の労働時間は1万時間です。
働く人が105人に増えたとしても、1人当たりの労働時間が90時間になれば、全体では9,450時間です。
人数は増えているのに、提供される労働時間は減っています。
実際の労働市場でも同じことが起きています。
人手不足を考える際には、何人働いているかだけでは不十分です。
何人が何時間働いているのかを見る必要があります。
全体では2%の労働供給減
短時間労働者の人数と平均労働時間を掛け合わせると、全体の労働供給量は2019年と比べて2%減少しています。
2%という数字だけを見ると、小さな変化に思えるかもしれません。
しかし、短時間労働者は1,600万人を超えています。
母数が大きいため、2%の減少でも経済全体への影響は小さくありません。
記事では、この減少分は短時間労働者34.8万人分の労働力に相当するとされています。
数十万人規模の働き手がいなくなったのと同じ程度の労働時間が失われていることになります。
なぜ1人当たりの労働時間が減るのか
労働時間が減少している理由は1つではありません。
短時間勤務を希望する高齢者が増えていることも影響しています。
育児や介護などと仕事を両立するため、短い時間だけ働く人もいます。
さらに年収の壁も関係します。
配偶者の社会保険の扶養に入り続けたい人は、130万円などの基準を意識して勤務時間を調整します。
2026年10月から106万円の賃金要件は撤廃されましたが、週20時間という社会保険加入に関係する労働時間要件も残っています。
複数の要因が重なって、1人当たりの勤務時間が短くなっています。
最低賃金上昇も勤務時間に影響する
2026年度の最低賃金の全国加重平均は1,177円です。
時給が上昇すれば、同じ時間働いた場合の年収は増えます。
通常であれば歓迎すべきことです。
ところが年収を一定額以内に抑えたい人の場合、時給上昇は勤務時間を減らす理由になります。
年収130万円以内に抑えるとすれば、時給が上がるほど年間に働ける時間は短くなります。
企業が人手不足対策として時給を引き上げても、一部の従業員が勤務時間を減らせば、企業が確保できる総労働時間は増えない可能性があります。
人数を増やすだけでは解決しにくい
企業側から考えると、1人当たりの勤務時間が減った分、新しい人を採用すればよいようにも思えます。
しかし人口減少が進む日本では、それが次第に難しくなっています。
例えば10人がそれぞれ週2時間ずつ勤務時間を減らせば、週20時間分の労働力が失われます。
これを補うためには、新たな短時間労働者を採用する必要があります。
その新しい人も週20時間未満を希望すれば、さらに多くの人数を確保しなければなりません。
採用できる人の総数が減っていく社会では、人数を増やして労働時間を補うモデルには限界があります。
採用と教育のコストも増える
同じ総労働時間を少ない人数で確保する場合と、多くの短時間労働者で確保する場合では、企業の負担も異なります。
人数が増えれば、採用面接、入社手続き、研修、シフト作成、給与計算、勤怠管理などの対象者も増えます。
新人を教育する時間も必要です。
1人当たりの勤務時間が短くなれば、企業は単に人数を増やせばよいという問題ではありません。
管理コストや教育コストまで増加します。
人手不足を見る指標を変える必要がある
日本では就業者数や失業率などが労働市場を示す代表的な数字として使われます。
もちろん重要な指標です。
しかし、短時間勤務が増える社会では、人数だけを見ると実態を見誤る可能性があります。
1人が週40時間働く場合と週10時間働く場合では、企業に提供される労働力は大きく異なります。
これからは就業者数と同時に、総労働時間を見ることが一段と重要になります。
働く人が増えているのに人手不足が改善しない理由の1つも、ここから説明できます。
働きたい人が時間を増やせる環境が重要
短時間勤務そのものに問題があるわけではありません。
高齢者、子育て中の人、介護をしている人などが、自分の生活に合わせて働けることには大きな意味があります。
問題なのは、本人にはもっと働く意思や余裕があるにもかかわらず、制度上の壁を理由に勤務時間を減らしている場合です。
年収130万円を超えたくない。
週20時間以上働きたくない。
こうした理由だけで労働時間を抑える人が多数いれば、日本全体では大きな労働力の損失になります。
働くことのできる人が希望に応じて時間を増やせる制度にすることが重要です。
結論
2025年の短時間労働者は1,614万人となり、2019年と比べて5%増えました。
一方、1人当たりの総実労働時間は月79.1時間となり、7%減少しています。
その結果、短時間労働者全体の労働供給量は2%減りました。
これは短時間労働者約34.8万人分の労働力に相当します。
パートが増えているのに人手不足が続く背景には、こうした1人当たりの労働時間の減少があります。
日本の労働力を考えるとき、これから重要になるのは人数だけではありません。
1人がどのくらい働いているのか。
そして、もっと働きたい人が制度上の壁によって勤務時間を抑えていないか。
人口減少が進む日本では、新しい働き手を増やすことと同時に、既に働いている人が希望するだけ働ける環境を整えることが重要になっています。
参考
日本経済新聞 2026年10月1日朝刊 労働臨界「働き控え」なお400万人超 「年収の壁」106万円撤廃