少子化によって、運転免許を取得する若者が減少しています。
自動車教習所にとっては大きな逆風です。
ところが、その一方で増加が期待される需要があります。
高齢者講習です。
70歳以上の運転者は、運転免許を更新するときに高齢者講習を受ける必要があります。
高齢化が進めば、免許を取得する若者が減る一方で、免許を維持するために教習所を利用する高齢者の存在が大きくなります。
自動車教習所は、若者に運転を教える場所から、高齢者が安全に運転を続けるための再教育を行う場所へ役割を広げつつあります。
70歳以上では免許更新の仕組みが変わる
運転免許は、一度取得すればそのまま永久に使えるわけではありません。
一定期間ごとに更新する必要があります。
特に高齢者については、年齢に応じた制度が設けられています。
70歳以上の運転者が免許を更新する場合には、高齢者講習を受ける必要があります。
さらに75歳以上では、一定の場合に運転技能検査が必要となるほか、認知機能検査の対象にもなります。
高齢になるほど、単純に更新手続きをするだけではなく、安全に運転できるかを確認する仕組みが重要になるのです。
高齢化で講習を受ける人が増える
日本では高齢化が進んでいます。
高齢者人口が増えれば、運転免許を持つ高齢者も一定規模で存在することになります。
特に地方では、自動車を日常生活に利用している高齢者が少なくありません。
買い物に行く。
病院へ通う。
役所へ行く。
家族を送迎する。
公共交通機関が少ない地域では、自動車が生活を支える重要な手段になっています。
高齢になったからといって、簡単に運転をやめられない人もいるのです。
そのため、高齢者が安全に運転を続けるための講習需要は今後も重要になります。
若者が減る教習所にとって重要な需要になる
自動車教習所の主要な利用者は、これまで普通免許を初めて取得する若者でした。
しかし、18歳人口は減少していきます。
若者の免許離れも進んでいます。
その結果、従来型の普通免許教習だけでは利用者を確保することが難しくなります。
一方、高齢者講習は免許更新と結び付いた需要です。
若者向けの教習需要が縮小するなかで、高齢者向けサービスの重要性が相対的に高まります。
教習所の利用者構成そのものが変わり始めていると考えることができます。
千葉では毎月400人強の高齢者が利用
参考記事では、千葉県市原市のSBSドライビングスクール姉崎の取り組みが紹介されています。
同校は2019年に物流大手のSBSホールディングスの傘下に入りました。
その後、高齢者講習の地域拠点として指導員や教育設備への投資を増やしています。
現在では毎月400人強の高齢者が利用するとされています。
年間に単純換算すれば4,800人を超える規模になります。
高齢者講習が教習所にとって無視できない事業になっていることが分かります。
高齢者の運転を一律に禁止するのは難しい
高齢ドライバーによる事故が報道されると、高齢になったら免許を返納すべきだという議論が起こることがあります。
しかし、年齢だけを基準として一律に運転をやめてもらうことには難しい問題があります。
特に地方では公共交通機関が十分ではありません。
自動車を運転できなくなれば、買い物や通院が難しくなる人もいます。
家族が近くに住んでいるとは限りません。
タクシーを日常的に利用すれば、大きな費用がかかる場合もあります。
運転をやめることが、そのまま生活の自由を大きく制限することにつながる地域があるのです。
免許返納か運転継続かの2択ではない
高齢者の運転問題は、免許を返納するか、そのまま運転を続けるかという2つの選択肢だけで考える必要はありません。
重要なのは、安全に運転できる期間をどのように延ばすかという考え方です。
自分の運転能力の変化を理解する。
危険になりやすい場面を学ぶ。
自動車の安全機能を正しく利用する。
運転する時間帯や場所を限定する。
こうした方法によって事故の危険性を下げられる場合があります。
そのための重要な場所が高齢者講習です。
再教育という考え方が重要になる
若いときに運転免許を取得した人のなかには、その後何十年も運転を続けている人がいます。
その間に道路交通環境は変化します。
交通ルールが変わることもあります。
自動車の機能も大きく変化します。
そして、運転者自身の身体能力も変化します。
視力、反応速度、判断力などは若いころと同じとは限りません。
だからこそ、一度免許を取得したら終わりではなく、一定の年齢になった段階で運転を学び直すという考え方が重要になります。
安全運転支援機能を学ぶ場所にもなる
現在の自動車には、さまざまな安全運転支援機能が搭載されています。
衝突被害軽減ブレーキなど、事故を防ぐための技術は進歩しています。
高齢者にとって、こうした機能は安全運転を支える重要な手段になります。
しかし、安全装置があるから事故が起きないわけではありません。
どのような状況で作動するのか。
どのような場合には作動しない可能性があるのか。
運転者自身が理解する必要があります。
教習所は、運転技術だけではなく新しい自動車技術を学ぶ場所としても重要になる可能性があります。
公共交通の整備と一緒に考える必要がある
高齢者の運転問題を教習所だけで解決することはできません。
地域の公共交通も重要です。
バスや鉄道を利用できる地域であれば、運転をやめても生活を維持しやすくなります。
一方、公共交通がほとんどない地域では、免許返納を勧めるだけでは生活上の問題が残ります。
公共交通を整備する。
自動車の安全機能を普及させる。
高齢者への運転再教育を充実させる。
この3つを組み合わせて考える必要があります。
教習所が減ると高齢者講習にも影響する
ここで問題になるのが、自動車教習所そのものの減少です。
若者が減れば、普通免許教習の利用者が減ります。
経営が厳しくなった教習所が閉校します。
しかし、その教習所が高齢者講習も担当していた場合、地域の高齢者が講習を受ける場所も失われます。
別の教習所まで遠距離を移動しなければならなくなる可能性があります。
特に地方では大きな問題です。
若者の減少によって教習所が閉校した結果、高齢者の免許更新にまで影響するという構造が生まれるからです。
教習所の役割が免許取得から生涯教育へ変わる
これまで自動車教習所は、免許を持っていない人が免許を取得するための場所という性格が強い施設でした。
しかし人口構造が変化すれば、この役割も変わります。
若者には初めての運転教育を行う。
高齢者には安全に運転を続けるための再教育を行う。
外国人には日本の交通ルールを教える。
企業ドライバーには安全運転研修を行う。
運転免許取得の入口だけではなく、運転者が生涯にわたって交通安全を学ぶ場所へ変わっていく可能性があります。
結論
高齢者講習の重要性が高まる背景には、日本の人口構造の大きな変化があります。
少子化によって普通免許を取得する若者が減る一方、高齢化によって安全運転の再教育を必要とする人の存在感が高まります。
特に地方では、自動車が買い物や通院などに欠かせないため、高齢になったら一律に免許を返納すれば解決するという問題ではありません。
公共交通の整備。
自動車の安全機能の活用。
高齢者への再教育。
これらを組み合わせる必要があります。
そのなかで自動車教習所は重要な役割を担います。
これまでの教習所は、若者が免許を取るための場所でした。
これからは、高齢者ができるだけ安全に運転を続けるための場所という役割も大きくなります。
人口減少によって教習所が減る時代だからこそ、高齢者講習を含めた交通安全教育の拠点を地域にどのように残すのかが重要な課題になっていくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年9月28日 「車免許『要らない』 消えゆく教習所 若者の車離れ鮮明、シニアと外国人中心に」
日本経済新聞 2026年9月28日 「高齢者向け再教育の拡充を」