会社が従業員へ給与を支払うときには、所得税を差し引いて支給します。
差し引いた税金は会社のお金ではありません。
会社が従業員などに代わって国へ納付する税金です。
この仕組みが源泉徴収です。
源泉徴収というと給与や賞与を思い浮かべることが多いかもしれませんが、対象になるのはそれだけではありません。
利子や配当、一定の報酬などについても源泉徴収が必要になる場合があります。
そして源泉所得税で注意したいのが納付漏れです。
本来徴収して納付すべき税金を期限までに納めていなければ、本来の税額だけを納付すれば終わるとは限りません。
不納付加算税や延滞税が加わる場合があるからです。
住友生命保険で判明した約14億9,000万円の追徴課税も、源泉所得税の納付漏れが問題となった事例です。
源泉徴収とは何か
所得税は、基本的には所得を得た本人が負担する税金です。
しかし、すべての所得について本人が後からまとめて税金を納付する仕組みにすると、徴税事務が複雑になります。
そこで一定の所得については、お金を支払う側が所得税をあらかじめ差し引き、国へ納付する仕組みが設けられています。
これが源泉徴収制度です。
例えば会社員の給与であれば、会社が給与から所得税を差し引きます。
従業員には差し引き後の金額を支払い、会社は差し引いた所得税を国へ納付します。
会社は税金そのものを負担する人ではなくても、税金を徴収して納付する役割を担うことになります。
会社には源泉徴収義務がある
源泉徴収の対象となる所得を支払う者は、原則として支払いの際に所得税を徴収し、所定の期限までに国へ納付します。
企業にとって重要なのは、自社の法人税とは性格が違うことです。
法人税であれば、自社が得た所得について自社が税金を負担します。
一方、源泉所得税では、給与や報酬などを受け取る人の所得税を支払者が徴収し、納付します。
つまり企業は、自社の税金だけでなく、他者に関係する税金についても適切な処理を求められているわけです。
この役割を正しく果たさなければ、会社側に税務上の問題が生じます。
源泉所得税には納付期限がある
給与などから源泉徴収した所得税は、原則として徴収した日の属する月の翌月10日までに納付します。
例えば9月に支払った給与から源泉徴収した所得税であれば、原則として10月10日が納付期限になります。
ただし、給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者については、一定の手続きをすることで納期の特例を利用できる場合があります。
この場合、給与などに係る源泉所得税を年2回にまとめて納付できます。
重要なのは、会社が税金を計算しているだけでは不十分だということです。
正しい税額を源泉徴収し、期限までに納付して初めて一連の手続きが完了します。
納付漏れでは本税だけが問題になるわけではない
源泉所得税を期限までに納付していなかったことが後から判明したとします。
この場合、まず本来納付すべきだった源泉所得税を納める必要があります。
しかし、それだけで終わるとは限りません。
納付が期限後になったことについて、不納付加算税が課される場合があります。
さらに、納付が遅れた期間などに応じて延滞税が発生する場合もあります。
つまり、
本来納付すべき源泉所得税
不納付加算税
延滞税
という複数の負担が発生する可能性があります。
税務ミスによる追加負担を考えるときには、本税だけを見るのではなく、付随する負担まで考える必要があります。
不納付加算税とは何か
不納付加算税は、源泉徴収などによって納付すべき税金を法定納期限までに納付しなかった場合に課される加算税です。
原則として、納付すべき税額に対して10%が課されます。
ただし、税務当局から納税の告知を受けることになる前に自主的に納付した場合には、一定の要件のもとで5%となります。
また、法定納期限から1カ月以内に納付していることなど、一定の要件を満たす場合には不納付加算税が課されないこともあります。
したがって、納付期限を過ぎた場合の取り扱いは一律ではありません。
重要なのは、ミスに気付いたときに放置しないことです。
早期に事実関係を確認し、必要な対応を取ることが追加負担を抑えるうえでも重要になります。
延滞税とは何が違うのか
不納付加算税と延滞税は混同されやすいものですが、性格が異なります。
不納付加算税は、期限までに源泉所得税を納付しなかったことに対する加算税です。
一方、延滞税は税金の納付が遅れた期間に応じて発生するものです。
簡単に考えれば、不納付加算税は「期限を守らなかったこと」に関係し、延滞税は「納付が遅れている期間」に関係する負担と整理できます。
そのため、納付漏れが長期間発見されなければ、追加負担が大きくなる可能性があります。
住友生命ではなぜ巨額になったのか
住友生命の事例では、海外投資家に対して2023年9月に支払った社債の利子に関する源泉所得税が問題となりました。
民間国外債等の利子については、一定の要件を満たし、必要な手続きを行えば源泉所得税が非課税となる制度があります。
しかし、必要となる利子受領者確認書の提出が遅れました。
その結果、源泉所得税の納付漏れを指摘され、追徴税額は不納付加算税と延滞税を含め約14億9,000万円に上ったとされています。
ここで注目したいのは、単純な書類の提出遅れと巨額の税負担が結び付いていることです。
取引金額が大きければ、わずかな事務手続きのミスでも税額への影響は大きくなります。
源泉所得税は経理部門だけの問題ではない
源泉所得税というと、給与計算を担当する人事部門や経理部門だけが関係するように思えるかもしれません。
しかし、実際にはさまざまな部署の取引が源泉徴収に関係します。
外部の専門家へ報酬を支払う場合があります。
海外の企業や投資家などへ支払いをする場合もあります。
財務部門が資金調達を担当し、利子を支払うこともあります。
そのため、支払いを実行する部署だけで源泉徴収の要否を判断するのではなく、新しい取引が発生した段階で税務担当者へ情報が届く仕組みが重要です。
税務部門が支払い後に取引を知ったのでは、必要な手続きに間に合わない可能性があります。
海外への支払いでは特に注意が必要
海外への支払いでは、源泉所得税の判断が複雑になることがあります。
国内法だけでなく、租税条約や特例制度などの確認が必要になる場合があるからです。
支払先が海外だから源泉徴収が不要とは限りません。
逆に、国内法では源泉徴収の対象でも、租税条約や特例によって税率が軽減されたり、免税になったりする場合があります。
そして、その軽減や免税を受けるために所定の書類提出が必要になることがあります。
つまり、
誰に支払うのか
何の対価なのか
国内法ではどう扱われるのか
租税条約などは適用されるのか
必要な書類は何か
いつまでに手続きをするのか
という一連の確認が必要になります。
海外取引では税率だけを確認するのではなく、手続きまで確認することが重要です。
源泉所得税は毎月の管理が重要になる
法人税は通常、事業年度を単位として申告します。
一方、源泉所得税は支払いの都度、源泉徴収の要否を判断し、原則として毎月納付する必要があります。
そのため、年に1度の決算時だけ確認していては遅い場合があります。
毎月の支払いの中に源泉徴収対象取引がないかを確認する仕組みが必要です。
特に通常とは異なる高額な支払いについては、支払い前に税務担当者が確認する仕組みを設けることも考えられます。
税金を支払った後で処理するのではなく、お金を支払う前に税務判断を行うことが重要です。
結論
源泉所得税の納付漏れが発生すると、本来納付すべき税額だけを支払えば済むとは限りません。
不納付加算税や延滞税が加わり、企業の負担がさらに大きくなる可能性があります。
特に高額な取引や海外取引では、1件の処理ミスが巨額の追徴課税につながることがあります。
重要なのは、源泉所得税を給与計算だけの問題と考えないことです。
利子、報酬、海外への支払いなどを含め、会社から外部へお金を支払うときには、源泉徴収が必要ではないかを確認する仕組みが求められます。
そして、軽減や非課税となる制度を利用するときには、税率だけでなく必要な書類や提出期限まで確認する必要があります。
税務リスクを減らすためには、税金を計算する能力だけでなく、取引の発生から支払い、源泉徴収、納付までを一つの業務フローとして管理することが重要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月28日朝刊 「書類遅れで14億円追徴 住友生命の教訓、地道なチェック不可欠」