企業のレジリエンスとは何か 災害が起きても事業を止めない会社が強くなる理由編

経営

企業経営では、売上を伸ばすことやコストを下げることが重視されます。

しかし、気候変動による豪雨、洪水、猛暑、干ばつなどが頻繁に発生するようになると、もう1つ重要な経営課題が浮かび上がります。

「何か起きたときに、会社は事業を続けられるのか」という問題です。

工場が止まる。物流が止まる。電力が止まる。原材料が届かなくなる。

こうした事態が発生したときに企業の強さを左右するのが「レジリエンス」です。

レジリエンスとは何か

レジリエンスは、一般的に回復力や復元力と訳されます。

企業経営では、災害や事故などの予期しない事態が発生しても、その影響をできるだけ小さくし、事業を継続したり、早期に復旧したりする能力と考えると分かりやすいでしょう。

重要なのは「災害を完全に防ぐ」という考え方ではないことです。

自然災害そのものを企業が防ぐことはできません。

そこで、災害が発生することを前提として「被害を受けても事業を続けられる会社」をつくります。

平常時の強さだけではなく、非常時の強さを見る考え方なのです。

BCPとは何が違うのか

レジリエンスとよく一緒に使われる言葉に「BCP」があります。

BCPとは事業継続計画のことです。

地震、洪水、感染症、サイバー攻撃などが発生した場合に、重要な業務をどのように継続し、どのように復旧させるのかをあらかじめ決めておきます。

例えば、本社が使用できなくなった場合の代替拠点を決めておくこともBCPの1つです。

重要なデータを別の場所に保存したり、緊急時の連絡網を整備したりすることも考えられます。

これに対してレジリエンスは、より広い考え方です。

BCPという計画を作るだけでなく、設備、人材、調達、物流、資金などを含め、会社全体として危機に耐え、適応し、回復できる状態をつくることを意味します。

BCPはレジリエンスを高めるための重要な手段の1つと考えることができます。

事業を止めないためには何が必要なのか

企業のレジリエンスを考えるときには、まず自社の事業が何に依存しているのかを確認する必要があります。

例えば製造業であれば、工場だけを守ればよいわけではありません。

原材料が届かなければ生産できません。

電力や水が止まっても工場は動きません。

完成した製品を運ぶ道路や港が使えなければ、顧客へ商品を届けることもできません。

さらに、情報システムが停止したり、従業員が出勤できなくなったりする可能性もあります。

企業活動は多くの社会基盤や取引先によって支えられています。

レジリエンスを高めるには、自社だけではなく、事業全体のつながりを見る必要があるのです。

復旧の速さが企業の強さを左右する

災害による被害を完全にゼロにすることは難しいでしょう。

そこで重要になるのが「どれくらい早く復旧できるか」です。

同じように工場が被災した企業でも、数日で生産を再開できる会社と、数カ月停止する会社では経営への影響が大きく異なります。

復旧が遅れれば、その期間の売上が失われるだけではありません。

顧客が別の企業から商品を調達するようになり、復旧後も取引が戻らない可能性があります。

事業停止期間を短くすることは、売上を守るだけでなく、顧客との関係を守ることにもつながります。

そのため平常時から「何日までなら停止に耐えられるのか」「いつまでに重要業務を復旧させるのか」を考えておくことが重要になります。

効率性だけを追求すると弱くなることがある

従来の企業経営では、無駄をなくすことが重視されてきました。

在庫を減らし、生産拠点を集約し、最も安い仕入先から大量に調達すれば、コストを下げることができます。

平常時には合理的な経営です。

ところが、非常時にはその効率性が弱点になる場合があります。

仕入先が1社しかなければ、その企業が被災しただけで原材料が入らなくなる可能性があります。

生産拠点が1カ所しかなければ、その工場が停止したときに代替生産ができません。

在庫がほとんどなければ、物流が数日止まっただけでも生産が止まる可能性があります。

つまり、効率性を極限まで高めることと、レジリエンスを高めることは必ずしも同じ方向ではないのです。

平常時の余裕が非常時の強さになる

そこで注目されるのが、企業が一定の余裕を持つという考え方です。

例えば、仕入先を複数確保しておく。

一定量の安全在庫を持つ。

生産拠点を分散する。

非常用電源を準備する。

重要なデータを複数の場所に保存する。

平常時だけを見れば、こうした仕組みには追加のコストがかかります。

しかし、災害によって事業全体が停止した場合の損失と比較すれば、そのコストの意味は変わります。

これまで「無駄」と考えられてきた余裕が、非常時には企業を守る経営資源になるのです。

気候変動でレジリエンスの重要性が高まる

レジリエンスは以前から企業経営で重要な考え方でした。

しかし、気候変動によって、その重要性はさらに高まっています。

豪雨や洪水だけでなく、猛暑、干ばつ、水不足など、企業が想定しなければならないリスクが広がっているからです。

しかも、自社の地域で災害が起きなくても影響を受ける可能性があります。

海外の生産地域で洪水が起きれば部品が届かなくなるかもしれません。

干ばつによって河川輸送が止まれば、原材料価格が上昇する可能性もあります。

企業の気候リスクは、自社の所在地だけを見て判断できなくなっています。

サプライチェーン全体を通じて考える必要があるのです。

レジリエンスは保険ではなく経営戦略

レジリエンス対策は「万一のための保険」のように見えるかもしれません。

しかし、気候災害や供給網の混乱が繰り返し発生するようになれば、単なる非常時対策ではなくなります。

どの仕入先から調達するのか。

どこに工場を置くのか。

在庫をどれくらい持つのか。

どのエネルギーを利用するのか。

これらはすべて通常の経営判断です。

つまり、レジリエンスを高めるということは、危機管理部門だけの仕事ではありません。

調達、生産、物流、財務、人事、情報システムなどを含め、経営全体で取り組む課題なのです。

結論

企業のレジリエンスとは、災害や供給途絶などの予期しない事態が発生しても、事業への影響を抑え、重要な業務を継続し、早期に回復できる力です。

これまで企業は、在庫削減、生産拠点の集約、調達先の絞り込みなどによって効率性を高めてきました。

しかし、気候変動によって災害や供給網の混乱が経営上の現実的なリスクになれば、効率性だけでは企業の強さを測れません。

仕入先を複数持つ。在庫に余裕を持つ。生産拠点を分散する。非常用の電力を確保する。

平常時にはコストに見えるものが、非常時には事業を継続する力になります。

これから問われる企業の強さとは、何も起きないときに最も効率よく稼げることだけではありません。

何かが起きても止まらず、止まったとしても早く立ち直れること。

気候安全保障の時代には、この回復力そのものが重要な経営資源になっていくのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月25日 朝刊 「気候安全保障」時代の企業経営

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