2026年10月から始まる新TOPIXでは、浮動株時価総額が銘柄選定の重要な基準になります。
そこで上場企業にとって重要になるのが、「市場で実際に流通する株式をどれだけ確保できるか」という問題です。
会社全体の時価総額が大きくても、創業家や親会社、取引先などが株式の多くを固定的に保有していれば、浮動株時価総額は小さくなる可能性があります。
では、企業はどのようにして浮動株を増やすのでしょうか。
政策保有株式の縮減や大株主による株式売却など、企業の資本政策がこれまで以上に重要になります。
固定株が多い企業とはどのような会社か
上場会社の株式は、すべてが日々の市場で売買されているわけではありません。
例えば創業家が経営権を維持するために大量の株式を保有している会社があります。
親会社が上場子会社の株式を大量に持っている場合もあります。
取引関係を維持する目的で、取引先企業同士が株式を保有しているケースもあります。
こうした株式は長期間保有される可能性が高く、市場で日常的に売買される株式とは性質が異なります。
固定的な株式保有が多い企業では、会社全体の時価総額と、投資家が実際に売買できる株式の規模に大きな差が生じることがあります。
政策保有株式とは何か
浮動株を考えるうえで重要になるのが政策保有株式です。
政策保有株式とは、純粋な投資目的だけではなく、取引関係の維持や強化などを目的として企業が保有する株式です。
日本企業では長年、取引先同士で株式を持ち合う慣行がありました。
こうした株式は、短期間で頻繁に売買されることを前提としていません。
そのため政策保有株式が多い企業では、市場で流通する株式が相対的に少なくなる場合があります。
近年は企業統治改革の流れから、政策保有株式について保有する合理性を説明することが求められるようになっています。
新TOPIXによって、株式の流動性という面からも政策保有株式を見直す動機が強まる可能性があります。
政策保有株式を売却すると何が起きるのか
取引先などが保有していた政策保有株式を市場で売却すれば、その株式は幅広い投資家が保有できるようになります。
例えば発行済株式数1億株の会社で、固定的に保有されている株式が6,000万株、市場で流通する株式が4,000万株だったとします。
固定株のうち1,000万株が売却され、幅広い投資家へ移れば、市場で流通する株式が増える可能性があります。
浮動株が増えれば、同じ株価でも浮動株時価総額は大きくなります。
新TOPIXでは、この変化が銘柄選定に影響する可能性があります。
ただし、大量の株式を一度に市場で売却すれば株価を押し下げる可能性もあります。
実際の売却方法や時期も重要になります。
大株主による株式売却という方法もある
創業家や親会社などの大株主が保有株式の一部を売却することでも、浮動株が増える可能性があります。
例えば創業家が会社の株式の50%を保有していたとします。
その一部を幅広い投資家へ売却すれば、市場で売買される株式が増えます。
企業側にとっては、流動性を高める効果が期待できます。
一方、大株主にとっては議決権比率が低下します。
経営権や重要な意思決定への影響力が変わる可能性もあります。
したがって、「浮動株を増やしたいから大株主が株式を売ればよい」という単純な問題ではありません。
経営権とのバランスを考える必要があります。
株式の売り出しで投資家層を広げる方法もある
大株主が保有する株式を幅広い投資家へ売却する際には、株式の売り出しが利用されることがあります。
売り出しでは、大株主などが保有する既存株式を投資家へ販売します。
会社が新しい株式を発行する増資とは異なります。
既存株主が保有する株式の持ち主が変わる仕組みです。
売り出しによって株式が多数の投資家へ分散すれば、株主数が増え、流動性が高まる可能性があります。
個人投資家への売り出しを行えば、新しい投資家に企業を知ってもらう機会にもなります。
浮動株を増やすだけでなく、投資家層を広げる効果も期待できます。
親子上場の見直しも浮動株に関係する
親会社が上場子会社の株式を大量に保有している場合も、浮動株は少なくなりやすくなります。
例えば親会社が上場子会社の株式の60%を保有していれば、市場で流通する可能性のある株式は残りの部分が中心になります。
親会社が保有株式の一部を売却すれば浮動株が増える可能性があります。
反対に完全子会社化を選べば、子会社は上場廃止になります。
近年進んでいる親子上場の見直しは、企業統治だけでなく株式の流動性とも関係する問題です。
上場を続けるのであれば、どの程度の株式を市場に流通させるのかという資本政策が重要になります。
浮動株を増やせば必ずTOPIXに入れるわけではない
新TOPIXでは浮動株時価総額が重要ですが、浮動株を増やせば必ず採用されるわけではありません。
浮動株時価総額は、浮動株の量だけで決まるわけではないからです。
株価も重要です。
浮動株が増えても株価が大きく下落すれば、浮動株時価総額が期待したほど増えない場合があります。
さらに年間売買代金回転率など、実際の株式売買についての基準もあります。
企業には、
企業価値を高める
株価を市場から評価してもらう
浮動株を確保する
売買を活発にする
という複数の取り組みが求められます。
経営の安定と流動性にはバランスが必要
固定的な株主が多いことには、企業にとってメリットもあります。
長期保有する株主が多ければ、短期的な株価変動に左右されず経営戦略を進めやすい場合があります。
創業家が一定の議決権を持つことで、経営方針の一貫性を保てる企業もあります。
一方で固定株が多すぎれば、市場で流通する株式が少なくなり、流動性が低下します。
新TOPIXでは、この流動性がより重要になります。
企業には、
安定株主をどの程度確保するのか
市場にどの程度株式を流通させるのか
というバランスを考えた資本政策が必要になります。
個人投資家も株主構成を見る意味がある
浮動株の問題は企業だけのものではありません。
個人投資家が企業を分析するときにも株主構成は重要です。
大株主が非常に高い割合の株式を保有している会社では、市場で売買される株式が少ない場合があります。
その結果、少額の売買でも株価が大きく動く可能性があります。
また、大株主が将来保有株式を売却すれば、大量の株式が市場に出てくる可能性もあります。
売上高や利益、配当だけでなく、
誰が株式を保有しているのか
大株主の保有比率はどれくらいか
浮動株は十分にあるのか
を見ることも、企業を理解する重要な材料になります。
結論
企業が浮動株を増やす方法としては、政策保有株式の縮減、大株主による保有株式の売却、株式の売り出しなどが考えられます。
固定的に保有されていた株式が幅広い投資家へ移れば、市場で流通する株式が増え、浮動株時価総額が大きくなる可能性があります。
新TOPIXでは、この浮動株時価総額が銘柄選定の重要な基準になります。
しかし、浮動株を増やせばよいという単純な問題ではありません。
創業家や親会社などの保有株式には経営権を安定させる役割もあります。
企業には、経営の安定性と株式市場での流動性を両立させる資本政策が求められます。
新TOPIXによって、企業は売上高や利益だけでなく、「誰が自社株を持ち、どれだけの株式が市場で流通しているのか」まで意識する必要が高まります。
株主構成そのものが、企業価値を左右する重要な経営課題になっていくのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月25日朝刊 新TOPIX、競争促す
日本取引所グループ 2025年3月26日 TOPIX等の見直しについて