新築マンション価格の高騰を受けて、国土交通省は令和9年度税制改正要望で必要な措置を求めています。
背景にあるのが、都心の大規模マンションを中心とした短期売買です。
国土交通省の調査では、購入後1年以内の売買が令和6年1月から6月の実績で東京圏6.3%、東京都8.5%、東京23区9.3%、都心6区12.2%を占めました。
一方で、マンション価格の高騰には土地価格、建築費、人件費、供給量、住宅需要、金利など複数の要因があります。
短期転売への税制措置を検討する場合には、投機的な取引を抑えることだけでなく、実需層の住宅取得、市場の流動性、税制の公平性まで考える必要があります。
現在の税制でも短期売却には高い税率がある
現在、個人が土地や建物を売却した場合には、所有期間によって短期譲渡所得と長期譲渡所得に分けられます。
売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら、原則として短期譲渡所得です。
税率は所得税30%と住民税9%を合わせた39%です。
一方、5年を超える長期譲渡所得では、所得税15%と住民税5%を合わせた20%です。
別途、復興特別所得税があります。
つまり現在でも、短期間で不動産を売却した場合には、長期間保有した場合より重い税負担が生じる仕組みになっています。
政策上の短期売買は1年以内
今回のマンション高騰対策で注目されているのは、税法上の5年という基準とは異なります。
国土交通省は購入後1年以内に売買された新築マンションを短期売買として調査しています。
都心6区では12.2%でした。
これは、マンションを購入して数年後に売却する取引ではなく、購入直後の非常に短い期間で売買される取引に焦点を当てたものです。
今後の税制措置を考える場合にも、現在の短期譲渡所得課税との違いを整理することが重要です。
新しい税制を設けるなら保有期間が最大の論点になる
仮に購入後1年以内の売却に追加的な税負担を設けるのであれば、まず問題になるのが保有期間の線引きです。
1年以内なのか。
2年以内なのか。
3年以内なのか。
それとも現在の5年という区分を見直すのか。
期間を短くすれば、極めて短期的な転売に対象を絞ることができます。
一方で、1年を超えるまで売却を待つという行動が起きる可能性があります。
期間を長くすれば投機抑制の対象は広がりますが、通常の住宅売却まで影響を受けやすくなります。
自宅の売却をどう扱うのか
制度設計で避けて通れないのが自宅です。
購入後1年以内に売却されたマンションが、すべて投機目的とは限りません。
転勤による引っ越し。
離婚による住み替え。
出産による住宅の変更。
親の介護。
収入減少。
こうした事情によって短期間で自宅を売却することがあります。
投機対策を強化する一方で、こうした実需による売却まで過度に制限しない仕組みが必要になります。
自宅を除外すると別の問題もある
自宅を対象外にすれば問題が解決するわけでもありません。
投資目的の購入者が、形式上自宅として扱う可能性があるからです。
実際に住んでいるのか。
どの程度の期間居住していたのか。
住民票だけではなく生活実態を確認するのか。
こうした問題が出てきます。
例外を増やせば実需層を守りやすくなりますが、制度は複雑になります。
税制では、制度の公平性と分かりやすさを両立させる必要があります。
個人と法人をどう扱うのか
もう一つの大きな論点が、取引主体です。
個人には短期譲渡所得と長期譲渡所得の区分があります。
一方、法人には個人と同じ5年を基準とした区分はありません。
法人によるマンション売却益は、原則として法人全体の所得の中で計算されます。
個人だけに新しい負担を設ければ、投資家が法人を利用する方向へ行動を変える可能性があります。
しかし法人を一律に対象にすると、不動産売買を通常の事業として行う企業まで影響を受けます。
投資家と不動産事業者をどう区別するのかという問題もあります。
新築だけを対象にするのか
国土交通省の今回の要望は、新築マンション価格の高騰を背景としています。
そのため新築マンションだけを対象にする制度も考えられます。
しかし新築への投資が不利になれば、投資資金が築浅中古マンションへ移る可能性があります。
新築から中古へ資金が移れば、中古価格が上昇することも考えられます。
そのため新築市場だけでなく、中古市場への波及効果も確認する必要があります。
短期転売だけが価格高騰の原因ではない
マンション価格の高騰を考えるときには、短期転売だけを見てはいけません。
都心の土地は供給に限りがあります。
建築資材価格が上昇しています。
建設業の人手不足によって人件費も上昇しています。
住宅需要が強い地域では、限られた供給に多くの購入希望者が集まります。
こうした要因によって価格が上昇しているのであれば、短期転売への課税だけでは価格問題のすべてを解決することはできません。
金利上昇も市場を変えている
さらに現在は金利上昇という大きな市場環境の変化があります。
住宅ローン金利が上昇すれば、同じ所得でも借りられる金額は小さくなります。
投資家にとっても借入コストが上昇します。
そのため住宅需要と投資需要の双方に下押し圧力がかかります。
すでに金利上昇によってマンション価格の上昇が落ち着き始めているのであれば、税制措置の必要性や効果も変わる可能性があります。
税制改正を考えるときには、制度導入時点の市場環境まで考える必要があります。
税制を導入すると投資家の行動も変わる
税制は人の行動を変えます。
短期転売への負担が重くなれば、投資家は短期間で売却することを避ける可能性があります。
1年を超えて保有する。
一定期間賃貸する。
中古マンションへ投資する。
別の地域へ投資する。
法人による投資を検討する。
税制を変更すれば、市場参加者も新しい条件に合わせて行動します。
そのため制度の効果を判断するときには、当初想定した取引だけでなく、投資家が別の行動を取っていないかを確認する必要があります。
政策効果は価格だけで測れない
短期転売対策の効果を見るとき、マンション価格が下がったかどうかだけを確認するのは十分ではありません。
購入後1年以内の売買割合はどうなったのか。
抽選倍率は変化したのか。
実際に居住する人が購入しやすくなったのか。
中古市場へ投資資金が移っていないか。
取引件数は減少していないか。
売却時期を先送りする動きが出ていないか。
こうした複数の指標を見る必要があります。
海外にも参考になる制度がある
海外では、住宅投機を抑えるため購入時や売却時に追加的な税負担を設けている国や地域があります。
シンガポールでは、住宅の保有状況や購入者の属性に応じた追加買い手印紙税があり、短期間で売却した場合には売却者印紙税もあります。
一方、香港では短期転売などを抑えるための特別印紙税などが導入されましたが、住宅市場の環境変化を受けて2024年に需要抑制策が撤廃されました。
海外の事例から分かるのは、住宅税制は市場環境に応じて見直されることがあるということです。
日本でも、導入した制度を永久に維持するのではなく、市場の変化を確認しながら見直す仕組みが重要になります。
税制と供給政策を組み合わせる
マンション価格高騰への対応を税制だけに頼る必要はありません。
住宅供給を増やす政策もあります。
再開発や建て替えを進める方法もあります。
土地を有効活用する方法もあります。
不動産取引の実態を把握し、市場の透明性を高める方法もあります。
投機需要が問題なら需要側の対策を行い、供給不足が問題なら供給側の対策を行う。
問題の原因に応じて政策を組み合わせることが重要です。
最も重要なのは制度の対象を明確にすること
短期転売への税制措置を検討する場合、税率そのものだけに注目するのは適切ではありません。
誰を対象にするのか。
どの物件を対象にするのか。
何年以内の売却を対象にするのか。
自宅をどう扱うのか。
法人をどう扱うのか。
どの程度の負担を求めるのか。
こうした項目によって制度の効果は大きく変わります。
特に投機目的の取引と、生活上やむを得ない住宅売却をどこまで区別できるのかが重要です。
制度導入後の検証も必要になる
税制は導入して終わりではありません。
短期売買が本当に減ったのか。
マンション価格はどう変化したのか。
実需層は購入しやすくなったのか。
中古市場へ資金が移っていないか。
取引量が過度に減っていないか。
こうした点を継続的に確認する必要があります。
もし当初の目的が達成されていなければ、制度を見直す必要があります。
反対に市場環境が変化して過度な規制になった場合には、負担を軽減することも選択肢になります。
結論
新築マンションの短期転売への税制措置を考える場合、最も重要なのは短期売買そのものを一律に抑えることではありません。
どのような取引が住宅価格の高騰に影響しているのかを見極め、その取引にできるだけ限定して政策を設計することです。
現在でも個人の不動産売却には短期譲渡所得と長期譲渡所得の区分があり、短期譲渡所得には39%の税率が適用されます。
今後、新築マンションの購入後1年以内など、さらに短い期間の売却を対象とする措置が検討される可能性があります。
しかし、短期売買には投機目的の取引だけでなく、転勤や介護、離婚などによる自宅売却も含まれます。
新築だけを対象にすれば中古市場へ投資資金が移る可能性があり、個人だけを対象にすれば法人への取引移転が起きる可能性もあります。
さらにマンション価格の高騰には、土地価格、建築費、人件費、供給不足、実需、金利など複数の要因があります。
そのため短期転売への税制措置だけで価格高騰の問題を解決することは難しく、住宅供給政策や市場の透明性向上などと組み合わせて考える必要があります。
今後具体的な税制案が示されたときには、税率だけを見るのではなく、対象期間、対象物件、対象者、居住用住宅の扱い、制度導入後の検証方法まで確認することが重要です。
新築マンションの価格高騰という一つの問題を考えるだけでも、税制、住宅政策、金融政策、不動産市場が複雑につながっています。
短期転売対策は、その中の一つの政策手段です。
制度を評価するためには、短期売買が減ったかどうかだけでなく、実際に住みたい人が住宅を取得しやすくなったのか、市場の正常な取引が維持されたのかまで確認する必要があります。
参考
税のしるべ 2026年9月14日 国交省が新築マンション高騰対応で税制措置を要望、主に短期売買を問題視か