新築マンション価格の高騰を抑えるため、短期売買への税制上の対応が注目されています。
短期間の値上がり益を狙ってマンションを購入し、すぐに転売する取引を抑えるのであれば、購入後1年以内などの売却に追加的な税負担を設ける方法も考えられます。
しかし、ここで難しい問題が生じます。
購入後すぐにマンションを売却する人が、すべて投資家とは限らないからです。
自宅として購入した人でも、転勤や離婚、介護などによって短期間で売却せざるを得ないことがあります。
投機対策を強化しながら、こうした実需による売却をどう守るのかが制度設計の大きな論点になります。
自宅でも短期間で売却することはある
住宅は一般的には長期間住むことを前提として購入します。
しかし人生は購入時の計画通りに進むとは限りません。
勤務先から突然転勤を命じられることがあります。
結婚や離婚によって家族構成が変わることもあります。
子どもが生まれて住宅が狭くなったり、親の介護のため実家近くへ引っ越したりすることもあります。
購入から1年以内であっても、自宅を売却する合理的な理由はいくつも考えられます。
転勤による売却は投機とは性格が違う
例えば東京で勤務する会社員が自宅として新築マンションを購入したとします。
ところが半年後、勤務先から地方への転勤を命じられました。
単身赴任する方法もありますが、家族全員で転居することになれば、東京のマンションを売却することも選択肢になります。
購入後1年以内に売却すれば、国土交通省の調査上は短期売買に該当します。
しかし、最初から値上がり益を狙って購入したわけではありません。
このような売却まで投機的な転売と同じように扱うべきかという問題があります。
離婚や家族構成の変化もある
住宅は家族の人数や生活スタイルに合わせて購入するものです。
そのため家族構成が変われば、必要な住宅も変わります。
夫婦で購入したマンションを離婚によって売却するケースがあります。
子どもの誕生によって広い住宅へ住み替える場合もあります。
反対に家族が別々に暮らすことになり、広いマンションが不要になることもあります。
こうした事情は購入時には予測できないことがあります。
保有期間だけを基準として課税を強化すると、生活上の事情による売却まで負担が重くなる可能性があります。
介護による住み替えも考えられる
高齢の親の介護も住宅売却のきっかけになります。
親の近くへ引っ越す必要が生じたり、親と同居するためにより広い住宅へ住み替えたりする場合があります。
自宅マンションを購入した直後に親の健康状態が変わることもあります。
こうした売却も短期売買という数字だけを見れば、投資目的の転売と区別できません。
高齢化が進むなかでは、介護を理由とした住み替えにも配慮する必要があります。
収入減少で売却せざるを得ない場合もある
住宅ローンを利用してマンションを購入した場合、収入の変化も重要です。
失業や勤務先の業績悪化などによって収入が大きく減少すると、住宅ローンの返済が難しくなることがあります。
返済を続けられなくなる前にマンションを売却し、借入金を返済するという判断もあります。
このような人に短期売却を理由として追加的な税負担を課せば、家計の立て直しをさらに難しくする可能性があります。
投機抑制を目的とする税制が、経済的に困っている実需層へ重い負担を与えない仕組みが必要になります。
自宅ならすべて除外すればよいのか
それなら自宅として購入したマンションは短期転売対策の対象外にすればよいという考え方があります。
しかし、ここにも問題があります。
投資目的で購入した人が、形式上は自宅として扱おうとする可能性があるからです。
住民票だけを移せばよいのか。
実際に何カ月住めば自宅と認めるのか。
電気や水道の利用状況まで確認するのか。
自宅と投資物件を明確に区別するためには、居住実態をどのように確認するのかという問題が生じます。
例外を増やすほど制度は複雑になる
転勤、離婚、介護、失業などを例外として認める方法も考えられます。
しかし例外を増やすほど制度は複雑になります。
例えば転勤の場合でも、会社命令による転勤だけを認めるのか、自ら希望した転勤も認めるのかという問題があります。
介護についても、どの程度の状態なら例外とするのかを決めなければなりません。
収入減少についても、何%以上減少すれば対象になるのかという線引きが必要になります。
公平性を高めるために細かなルールを設けると、納税者にも税務当局にも大きな事務負担が発生します。
現在の税制にも自宅への特例がある
現在の不動産税制でも、自宅の売却には一定の特例が設けられています。
代表的なのが、一定の要件を満たしたマイホームを売却した場合に、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例です。
この特例は、所有期間の長短にかかわらず適用できる場合があります。
つまり現在の税制でも、投資用不動産と生活の基盤である自宅をまったく同じように扱っているわけではありません。
今後、短期転売への新しい税制措置が検討される場合にも、既存の居住用財産に関する特例との関係を整理する必要があります。
投機対策と住宅政策を両立させる必要がある
住宅は一般の商品とは少し性格が違います。
生活の基盤であると同時に、高額な資産でもあります。
投資対象として売買される一方、自宅として生活に不可欠な存在でもあります。
そのため投機的な取引を抑えるために税負担を重くすると、普通に生活するため住宅を購入した人まで影響を受ける可能性があります。
反対に実需層を広く除外すると、その仕組みが投機目的の取引に利用される可能性があります。
この両者のバランスを取ることが制度設計では重要になります。
結論
マンションを購入後1年以内などの短期間で売却したからといって、その人が投機目的で購入していたとは限りません。
転勤、離婚、出産、介護、失業や収入減少などによって、自宅を短期間で売却せざるを得ないケースがあります。
そのため短期転売への課税を一律に強化すると、投機とは関係のない実需層まで負担が重くなる可能性があります。
一方、自宅をすべて対象外にすれば、投資目的の購入者が制度を利用する可能性もあります。
現在の税制には、一定の要件を満たすマイホームの売却について最高3,000万円の特別控除などが設けられています。
今後、新しい短期転売対策が具体化する場合には、こうした既存制度との関係も重要になります。
投機的な取引を抑えながら、生活上やむを得ない住宅売却をどこまで保護するのか。
新築マンション高騰対策では、この線引きが制度設計の難しいポイントになりそうです。
参考
税のしるべ 2026年9月14日 国交省が新築マンション高騰対応で税制措置を要望、主に短期売買を問題視か