不動産を売却したり建て替えたりするため、建物の入居者に立ち退いてもらうことがあります。
その際に支払われるのが立退料です。
では、事業者が入居者に立退料を支払った場合、その金額には消費税がかかるのでしょうか。
消費税では、単にお金の支払いがあったかどうかではなく、その支払いが何の対価なのかを考えることが重要です。
消費税が課税される基本的な考え方
消費税は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供などを課税対象としています。
重要なのが対価性です。
何かを売った、貸した、サービスを提供したことに対してお金を受け取ったのであれば、原則として消費税の課税関係を検討することになります。
反対に、損害や損失を補償するために支払われる金銭など、資産の譲渡や役務提供の対価ではないものについては、消費税の課税対象にならない場合があります。
立退料は、この対価性を考える代表的な事例です。
立退料にはいくつかの性格がある
一口に立退料といっても、その中身は1つではありません。
例えば、賃借人が建物を明け渡すことで賃借権などの権利が消滅することに対する補償があります。
また、店舗などから立ち退くことで営業を休止しなければならなくなった場合、その間に生じる収益減少などを補償することもあります。
さらに、引っ越し費用など、実際に移転するために必要となる費用を補償するケースもあります。
このような立退料は、一般的には資産を売った対価でも、何かを貸した対価でも、サービスを提供した対価でもありません。
そのため、原則として消費税の課税対象にはなりません。
支払った側も仕入税額控除できない
ここで注意したいのが、立退料を支払った事業者側の処理です。
例えば、不動産会社が土地を売却するため、建物の居住者に立退料を支払ったとします。
立退料を受け取る側にとって消費税の課税対象にならないのであれば、支払った不動産会社側でも通常の課税仕入れにはなりません。
したがって、立退料に消費税が含まれているものとして仕入税額控除することもできません。
事業のために支払った費用だからといって、すべてが仕入税額控除の対象になるわけではない点が重要です。
立退料という名称だけで判断してはいけない
さらに注意したいのが、契約書や会計処理で立退料と記載されていれば、必ず消費税の課税対象外になるわけではないことです。
消費税では、名称ではなく取引の実態を確認します。
例えば、賃貸借契約を解除して賃借人が建物から退去するのではなく、賃借人としての地位を第三者へ譲渡するケースを考えてみます。
その対価として金銭を受け取ったのであれば、実質的には建物賃借権などの譲渡に対する対価と考えられることがあります。
この場合には、単なる損失補償とは性格が異なります。
資産の譲渡等の対価として消費税の課税対象になる可能性があるため、取引内容を確認する必要があります。
補償なのか譲渡の対価なのかが分かれ目
立退料の消費税を考えるときには、まず何に対してお金を支払っているのかを整理することが大切です。
建物から退去することによって失われる権利や収益、移転費用などを補償しているのであれば、一般的には消費税の課税対象外です。
一方、賃借権などを第三者へ譲渡することへの対価であれば、資産の譲渡として課税関係が生じる可能性があります。
同じ立退料という名称でも、消費税の処理が同じになるとは限りません。
不動産取引では契約内容まで確認する
不動産取引では、立退料だけでなく、解約金、違約金、補償金、協力金などさまざまな名称のお金が動きます。
こうした金銭について消費税を判断するときに、勘定科目や契約書に書かれた名称だけを見るのは危険です。
何らかの資産や権利を譲渡した対価なのか、役務提供の対価なのか、それとも損害や損失に対する補償なのかを確認します。
消費税では、お金の名称よりも、そのお金が支払われる原因となった取引の実態を見ることが重要です。
結論
建物の賃借人が退去する際に受け取る一般的な立退料は、賃借権の消滅、営業上の損失、移転費用などを補償する性格を持つため、原則として消費税の課税対象にはなりません。
そのため、立退料を支払った事業者側でも、原則として仕入税額控除の対象にはなりません。
ただし、立退料という名称であっても、実際には賃借権などを第三者へ譲渡する対価である場合には課税対象となる可能性があります。
立退料の消費税を判断するときは、名称ではなく、補償なのか資産や権利の譲渡に対する対価なのかという取引の実態を確認することが重要です。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 令和8年・役に立つ消費税実務問答集