顧客から強いクレームを受けても、すぐに警察を呼ぶわけではありません。
商品について厳しい苦情を言われた。
担当者の説明に納得してもらえない。
返金を求められた。
こうした問題は、まず会社として事実を確認し、通常のクレーム対応として解決を図ります。
一方で、暴力や脅迫などが始まれば状況は変わります。
その段階では、
お客様にどう納得してもらうか
という接客の問題ではなく、
従業員や周囲の人の安全をどう確保するか
という問題になります。
カスハラ対応では、どこまでを会社内部で対応し、どこから警察との連携へ切り替えるのかを事前に考えておくことが重要です。
警察を呼ぶことは接客の失敗ではない
接客の現場では、
顧客とのトラブルで警察を呼ぶのは大げさではないか
と考えてしまうことがあります。
できれば会社の中で解決したい。
警察沙汰にはしたくない。
他の顧客にも知られたくない。
こうした心理が働きます。
しかし、暴力や脅迫など安全に関わる問題まで接客で解決しようとすると、従業員を危険な状態に置く可能性があります。
カスハラ対応では、顧客への説明を続ける段階と、安全確保を優先する段階を分けて考える必要があります。
警察との連携は、担当者が顧客対応に失敗したから行うものではありません。
会社だけでは対応すべきでない状態になったときに、外部機関へエスカレーションする手段の一つなのです。
暴力があれば安全確保を優先する
警察との連携を考える代表的な場面が暴力です。
たとえば、
担当者を殴る。
突き飛ばす。
物を投げる。
設備を壊す。
といった行為が起きれば、通常のクレーム対応を続ける状況ではありません。
重要なのは、担当者に、
もう少し話を聞いて落ち着かせてください
と対応を続けさせないことです。
まず従業員や周囲にいる人の安全を確保します。
可能であれば顧客との距離を取り、上司や警備担当者などへ連絡します。
状況に応じて警察への通報を検討します。
顧客であるという理由で、暴力まで接客の一部として受け入れる必要はありません。
脅迫があった場合も同じ
実際に暴力を振るわれていなくても、脅迫的な発言があれば注意が必要です。
たとえば、
危害を加えることをほのめかす。
従業員やその家族を怖がらせるような発言をする。
店舗や会社に危害を加えるような発言をする。
といったケースです。
このような状況では、
まだ実際には何もされていない
という理由だけで通常の接客を続けることが適切とは限りません。
暴力が発生してから対応するのでは遅い場合があります。
危険につながる言動があるのであれば、上司などへ直ちに共有し、必要に応じて警察との連携を検討します。
威圧行為にも注意する
危険を判断するときには、発言だけではなく行動も見る必要があります。
たとえば顧客が、
机を強く叩く。
物を蹴る。
担当者へ異常に近づく。
大声を出し続ける。
といった行動を取ることがあります。
明確に暴力を振るわれていなくても、従業員が強い恐怖を感じることがあります。
このような場合には、一人で対応を続けるのではなく、上司や警備担当者などへエスカレーションします。
状況がさらに悪化しそうであれば、安全確保を優先します。
重要なのは、
実際に殴られるまでは接客で対応する
という考え方にしないことです。
退去要求に応じない場合
店舗などでは、顧客がその場から帰らないケースもあります。
会社側が必要な説明を行い、
これ以上の対応はできない
と伝えているにもかかわらず、
納得するまで帰らない
責任者が要求を受け入れるまでここにいる
などとして居座る場合です。
最初は通常のクレームだったとしても、長時間居座ることで業務に大きな影響が出ることがあります。
他の顧客への対応ができない。
従業員が拘束される。
店舗の営業に支障が出る。
こうした状態です。
参考資料では、帰らないという居座りが続くケースについて、上司などへエスカレーションし、必要に応じて警察への相談を検討する流れが示されています。
つまり、担当者が延々と説得を続けることを前提にしてはいけないのです。
まず会社として退去を求める
居座りが発生した場合には、
もう帰ってほしいと思っていた
という担当者の気持ちだけではなく、会社として対応することが重要です。
必要な説明が終わっていることを確認します。
そのうえで、これ以上対応できないことを明確に伝えます。
さらに退去を求めても応じないのであれば、上司などへ引き継ぎます。
このような手順をあらかじめマニュアルに定めておけば、現場担当者は、
いつまで対応すればよいのだろう
と迷い続ける必要がありません。
居座りについても、どの段階で上司へ報告し、どの段階で外部との連携を検討するのかを決めておく必要があります。
身の危険を感じたら対応者を交代する
カスハラのエスカレーション基準では、顧客の具体的な行為だけでなく、従業員自身が感じている危険も重要です。
たとえば、
手が震えている。
強い恐怖を感じている。
顧客と二人でいることが怖い。
会話を続けることが難しい。
という状態です。
このような場合に、
まだ暴力を振るわれていないから大丈夫
と判断してはいけません。
担当者が強い恐怖を感じた場合には、速やかに対応者を交代し、複数人での対応などへ切り替えることが重要です。
危険性が高い場合には、その場から離れることも必要になります。
カスハラ対策では、
顧客対応を最後まで続けること
よりも、
従業員の安全を確保すること
を優先すべき場面があります。
110番通報を考える場面
警察への連絡にも、緊急性によって違いがあります。
参考資料では、警察との連携として、110番通報への対応、警告や注意喚起、被害届の提出や刑事告訴、証拠収集、被害者保護などを挙げています。
たとえば暴力が実際に起きているなど、緊急に安全を確保する必要がある場合には、110番通報を検討する場面になります。
重要なのは、
まず本社の許可を取らなければ警察を呼べない
という仕組みにしてしまわないことです。
緊急時には、現場で迅速に安全確保へ動ける体制が必要です。
そのため会社は、
どのような状況なら緊急対応へ切り替えるのか
を事前に決め、従業員へ周知しておく必要があります。
緊急でなければ警察相談という方法もある
すべてのケースで緊急通報が必要になるわけではありません。
今すぐ危害を受ける状況ではなくても、
同じ顧客が繰り返し来店する。
威圧的な行為が続いている。
今後さらに問題が深刻化する可能性がある。
といった場合があります。
このようなケースでは、会社内部だけで抱え込まず、警察への相談を検討することがあります。
つまり、
警察に連絡するイコール直ちに110番通報する
ということではありません。
緊急時の通報と、問題が深刻化する前の相談を分けて考えることが重要です。
警察へつなぐためにも記録が重要
警察など外部へ相談する段階になると、それまでの記録が重要になります。
いつ問題が起きたのか。
顧客が何を要求したのか。
会社はどのような説明をしたのか。
どのような暴言や威圧行為があったのか。
退去を求めたのか。
その後どのような行動があったのか。
こうした経過を記録しておけば、何が起きているのかを説明しやすくなります。
通話録音、防犯カメラ、ボイスレコーダーなどの記録が残っていれば、事実関係を確認する材料にもなります。
カスハラ対応における記録は、社内で情報を共有するだけではなく、問題が外部機関との連携へ進んだときにも役立つのです。
現場担当者に警察を呼ぶ責任まで負わせない
会社が避けなければならないのは、
危険だと思ったら自分で警察を呼んでください
と現場担当者だけに判断を任せることです。
顧客から強く威圧されている本人が、
これは警察を呼ぶほどなのか
と冷静に判断するのは簡単ではありません。
だからこそ、
暴力があった場合。
脅迫的な言動があった場合。
退去要求に応じず居座った場合。
従業員や周囲の人に危険が及ぶ場合。
といった判断基準を会社として整理します。
さらに、
誰が上司へ連絡するのか。
誰が警察へ連絡するのか。
他の従業員や顧客をどのように安全な場所へ移すのか。
といった役割も考えておく必要があります。
警察との連携も、個人の判断ではなく会社のカスハラ対応体制の一部として位置付けることが重要なのです。
結論
カスハラ対応で警察を呼ぶことを検討するのは、通常の接客やクレーム対応ではなく、安全確保を優先すべき状態になったときです。
暴力がある。
脅迫的な言動がある。
強い威圧行為がある。
退去を求めても居座る。
従業員や周囲の人に危険が及ぶ。
こうした状況では、担当者一人に対応を続けさせるべきではありません。
上司などへエスカレーションし、必要に応じて警察との連携へ切り替えます。
緊急性が高ければ110番通報を検討し、直ちに危険が迫っていない場合でも、問題の深刻化に備えて警察へ相談するという考え方があります。
重要なのは、
お客様だからできる限り接客で解決する
という考え方に固執しないことです。
顧客への説明よりも従業員の安全を優先しなければならない場面があります。
どの段階で接客から安全確保へ切り替えるのかを会社としてあらかじめ決めておくことが、カスハラ対応で警察と適切に連携するための基本なのです。
参考
企業実務 2026年8月25日 その場で迷わない 現場で使う カスハラ対応マニュアル