なぜ利上げで20代30代の負担が増えるのか 預金の多い高齢世帯との世代差を考える編

政策

日銀が政策金利を1.25%へ引き上げると、家計には2つの方向から影響が及びます。

預金金利が上昇して受取利息が増える一方、住宅ローンなどの借入金利も上昇して支払利息が増えます。

そのため利上げが家計にとって得なのか損なのかは、一律には決まりません。

大きな分かれ目になるのが年齢です。

みずほリサーチ&テクノロジーズの試算では、今回の0.25%の利上げによって60代と70代以上の世帯では年間約2万円の収支改善が見込まれる一方、29歳以下では約2万2,000円、30代では約2万3,000円の収支悪化が見込まれています。

なぜ同じ利上げなのに、世代によって正反対の結果になるのでしょうか。

利上げには受取金利と支払金利がある

金利上昇を考えるときには、家計を2つに分けて見る必要があります。

1つは金融機関へお金を預けている預金者としての家計です。

もう1つは住宅ローンなどでお金を借りている借り手としての家計です。

預金金利が上昇すれば受取利息は増えます。

住宅ローンなどの金利が上昇すれば支払利息は増えます。

受取利息の増加が支払利息の増加を上回れば家計にはプラスです。

反対ならマイナスです。

つまり重要なのは、金利そのものではなく、その家計がどれだけ金融資産と負債を持っているかです。

高齢世帯は預金を多く持っている

高齢世帯が利上げの恩恵を受けやすい最大の理由が、預金残高の大きさです。

記事によると、2025年の60代と70代以上の預金額は1世帯あたり約1,600万円でした。

39歳以下の世帯と比較すると約3倍です。

例えば1,600万円の預金を持っていれば、普通預金金利が0.1%上昇するだけでも、単純計算した税引前の年間利息は1万6,000円増えます。

預金残高が大きいほど、金利上昇による恩恵も大きくなります。

長期間の低金利時代にはほとんど意識されなかった預金金利が、高齢世帯の家計収支に再び影響するようになってきました。

高齢世帯は住宅ローン残高も小さくなりやすい

もう一つの理由が負債です。

60代や70代以上になると、住宅ローンを完済している世帯も増えます。

住宅ローンが残っていたとしても、30代や40代のころと比べて元金残高が減っているケースがあります。

そのため金利が上昇しても支払利息の増加が比較的小さくなります。

預金は多い。

借入は少ない。

この資産と負債の組み合わせが、高齢世帯にとって利上げがプラスになりやすい理由です。

20代30代は資産形成の途中にある

一方、20代や30代は金融資産を形成している途中です。

就職してからの期間が短いため、60代や70代以上と比較すると預金残高は小さくなりやすくなります。

預金金利が上昇しても、元になる預金残高が少なければ受取利息の増加も限定的です。

例えば預金100万円で金利が0.1%上昇しても、単純計算した年間利息の増加は税引前で1,000円です。

預金1,000万円なら1万円です。

同じ金利上昇でも、保有する金融資産によって受け取れる金額には大きな差があります。

若い世帯は住宅ローン残高が大きい

若い世帯にはもう一つ特徴があります。

住宅を購入して間もない世帯では、住宅ローン残高が大きいことです。

例えば5,000万円を借りて住宅を購入した直後なら、借入残高はほぼ5,000万円あります。

そこに金利上昇の影響がかかります。

前回までに見たように、5,000万円を35年返済で借り、金利が1.2%から0.25%ポイント上昇した場合、毎月返済額が約6,000円増えるという試算があります。

年間では約7万2,000円です。

預金金利上昇による数千円の受取利息増加より、住宅ローンの負担増の方が大きくなる可能性があります。

自動車ローンなどの負債もある

若い世帯の負債は住宅ローンだけとは限りません。

自動車ローンなどを利用している場合もあります。

変動金利型の商品などでは、市場金利の上昇が借入コストへ波及する可能性があります。

住宅購入や子育てなど大きな支出が重なる時期に借入金利が上昇すれば、家計への影響は大きくなります。

利上げによる世代差は、単に若い人の預金が少ないから生じるのではありません。

資産形成の途中である一方、大きな負債を抱えやすいライフステージにいることも関係しています。

29歳以下は年間約2万2,000円の負担増

みずほリサーチ&テクノロジーズは、今回の0.25%の利上げによる家計への影響を世代別に試算しています。

29歳以下では年間約2万2,000円の収支悪化です。

30代では約2万3,000円の収支悪化です。

一方、60代と70代以上では年間約2万円の収支改善とされています。

同じ0.25%の利上げでも、約4万円を超える世代間の差が生じる計算になります。

金融政策が家計に与える影響を見るときに、平均値だけでは分からない理由です。

世代だけで決まるわけではない

ただし20代30代なら必ず損をし、60代70代以上なら必ず得をするわけではありません。

あくまで平均的な資産と負債の違いから生じる傾向です。

30代でも多額の預金を持ち、住宅ローンがなければ金利上昇がプラスになる可能性があります。

反対に60代でも多額の住宅ローンや事業借入を抱えていれば、金利上昇による負担が大きくなることがあります。

重要なのは年齢そのものではありません。

その人の金融資産と負債の組み合わせです。

家計のバランスシートで考える

金利上昇局面では、家計も企業と同じようにバランスシートで考えることが重要になります。

左側には預金や株式、投資信託などの資産があります。

右側には住宅ローンなどの負債があります。

金利が上昇したとき、資産側から得られる収益がどれだけ増えるのか。

負債側で支払う利息がどれだけ増えるのか。

この両方を見る必要があります。

預金金利が上がったから得をした。

住宅ローン金利が上がったから損をした。

どちらか一方だけでは家計全体への影響は分かりません。

利上げは世代間の所得移転にも見える

金利上昇を家計全体で見ると、興味深い構造が浮かびます。

預金を多く持つ世帯には利息収入が増えます。

借入を多く持つ世帯には支払利息が増えます。

日本では高齢世帯ほど金融資産が多く、若い世帯ほど住宅ローンなどを抱えやすいため、結果として利上げの恩恵と負担が世代によって異なります。

これは金融政策が世代間の家計収支にも影響することを意味します。

政策金利は単なる金融市場の数字ではありません。

世代ごとの生活にも違った形で影響するのです。

若い世帯ほど金利上昇への備えが必要になる

住宅ローンを抱える世帯では、今後の追加利上げも考えておく必要があります。

今回の0.25%だけでなく、さらに0.25%、0.5%と金利が上昇した場合に家計がどうなるのかを確認します。

毎月返済額はいくら増えるのか。

年間ではいくら増えるのか。

教育費や生活費を払っても余裕が残るのか。

こうした金利上昇時の試算をしておくことが重要です。

超低金利を前提に借入額を最大化する住宅購入は、金利上昇局面ではリスクが高くなります。

結論

日銀の利上げが20代30代の負担を増やし、60代70代以上には恩恵をもたらしやすい理由は、世代ごとの資産と負債の違いにあります。

高齢世帯は預金を多く保有し、住宅ローンなどの負債が少ない傾向があります。

そのため預金金利の上昇による受取利息の増加が、借入金利上昇による負担を上回りやすくなります。

一方、若い世帯は預金などの金融資産が少ない一方、住宅ローンなどの負債が大きくなりやすいため、利上げによる負担増が先に表れます。

今回の0.25%の利上げによる試算でも、29歳以下は年間約2万2,000円、30代は約2万3,000円の収支悪化に対し、60代と70代以上では年間約2万円の改善とされています。

ただし本当に重要なのは年齢ではありません。

自分の家計にどれだけ資産があり、どれだけ負債があるかです。

そして興味深いことに、こうした世代差があっても日本の家計全体で見ると今回の利上げはプラスになるという試算があります。

次に重要になるのが、家計全体では得をするのに、なぜ苦しく感じる人がいるのかという平均値の問題です。

参考

日本経済新聞 2026年9月19日朝刊 預金金利上昇、高齢者に恩恵

日本経済新聞 2026年9月19日朝刊 住宅ローン、若年層に重荷

日本経済新聞 2026年9月19日朝刊 3メガ銀、普通預金0.5%

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