日銀が政策金利を1.0%から1.25%へ引き上げたことで、預金金利が上昇する一方、住宅ローンなどの借入金利も上昇します。
では日本の家計全体で見ると、利上げはプラスなのでしょうか。それともマイナスなのでしょうか。
みずほリサーチ&テクノロジーズの試算では、今回の0.25%の利上げによって家計全体の収支は年間約4,000億円改善するとされています。
1世帯平均では年間約6,000円のプラスです。
この数字だけを見ると、利上げは家計にとって歓迎すべきことのようにも見えます。
ところが実際には、住宅ローンを抱える世帯などから金利上昇への不安が出ています。
家計全体ではプラスなのに、なぜ苦しくなる人がいるのでしょうか。
ここには平均値だけでは分からない家計の資産と負債の違いがあります。
家計全体では預金が多い
日本の家計部門は、全体として見ると大きな金融資産を保有しています。
特に預金は家計金融資産の重要な部分を占めています。
金利が上昇すると、銀行へ預けているお金から受け取る利息が増えます。
一方で住宅ローンや自動車ローンなどの金利が上昇すると、家計が支払う利息も増えます。
日本の家計全体では、借入よりも金利上昇の恩恵を受ける金融資産の方が大きいため、受取利息の増加が支払利息の増加を上回ります。
これが家計全体で年間約4,000億円のプラスになる理由です。
1世帯平均では年間約6,000円のプラス
家計全体の年間約4,000億円という金額を世帯単位で見ると、1世帯平均では年間約6,000円の収支改善になると試算されています。
月額にすれば約500円です。
ただし、この数字を見て自分の家計も年間6,000円得をすると考えるのは適切ではありません。
平均値は、さまざまな家計の数字を合計して世帯数で割ったものだからです。
実際には数万円プラスになる世帯もあれば、数万円マイナスになる世帯もあります。
平均値は全体像を見るためには便利ですが、個々の家計を説明する数字ではありません。
預金1,000万円の人と100万円の人では違う
例えば普通預金金利が0.4%から0.5%へ上昇したとします。
預金1,000万円なら、単純計算した税引前の年間利息は4万円から5万円になります。
増加額は1万円です。
一方、預金100万円なら年間利息は4,000円から5,000円となり、増加額は1,000円です。
同じ0.1%ポイントの金利上昇でも、預金残高によって受け取る恩恵は10倍違います。
金利上昇の影響を見るには、金利だけでなく元になる資産額を見る必要があります。
住宅ローン5,000万円なら話が変わる
今度は負債側を見てみます。
住宅ローン比較サービスを手掛けるMFSの試算では、5,000万円を35年返済で借り、金利が1.2%から0.25%ポイント上昇すると、毎月返済額は約6,000円増えるとされています。
年間では約7万2,000円です。
仮にこの世帯が1,000万円の預金を持っていて、普通預金金利上昇によって年間の税引前利息が1万円増えたとしても、それだけでは住宅ローンの負担増を補えません。
資産側ではプラス。
負債側ではマイナス。
両方を差し引いて初めて、その家計にとって利上げがどのような意味を持つのかが分かります。
平均値では世代差も消えてしまう
前回確認したように、金利上昇の影響には大きな世代差があります。
今回の0.25%の利上げについて、みずほリサーチ&テクノロジーズの試算では29歳以下の世帯は年間約2万2,000円の収支悪化です。
30代では約2万3,000円の悪化です。
一方、60代と70代以上では年間約2万円の改善とされています。
ところが、これらを家計全体で合計すると年間約4,000億円のプラスになります。
全体の平均値だけを見れば、若い世帯の負担増が見えにくくなるのです。
同じ世代でも家計によって違う
さらに注意したいのは、同じ年代でも状況が大きく異なることです。
例えば同じ30代でも、住宅ローン5,000万円を抱えている世帯と、住宅ローンがなく預金を多く持っている世帯では金利上昇の影響は違います。
60代でも同様です。
住宅ローンを完済し多額の預金を持っている人なら、金利上昇の恩恵を受けやすくなります。
一方、住宅ローンや事業借入が多く残っている人なら、支払利息の増加が受取利息の増加を上回る可能性があります。
年代は一つの目安にすぎません。
最終的には一人ひとりの資産と負債で決まります。
金利上昇の影響は資産額より純資産で考える
自分への影響を考えるときには、預金残高だけを見るのではなく負債も合わせて確認することが重要です。
例えば預金が1,000万円あれば、かなり金融資産を持っているように見えます。
しかし住宅ローンが5,000万円残っていれば、金利上昇による支払利息の影響も大きくなります。
反対に預金1,000万円を持ち、借入がまったくなければ、金利上昇の恩恵を受けやすくなります。
家計の金利感応度は、資産と負債をセットで見なければ分かりません。
負担増は毎月の家計に直接表れる
利上げを苦しく感じるもう一つの理由があります。
借入金利の上昇は、毎月の家計支出に直接影響しやすいことです。
住宅ローン返済額が月6,000円増えれば、その6,000円は毎月の可処分所得から出ていきます。
食費や光熱費、教育費などを支払った残りから捻出しなければなりません。
一方、預金金利上昇による利息は、日常生活のなかで毎月大きく実感するとは限りません。
同じ金額でも、毎月の支出増と預金口座に入る利息では家計が受ける感覚が異なることがあります。
物価上昇も同時に考える必要がある
さらに現在の利上げは、物価上昇が続くなかで行われています。
住宅ローンの支払額が増えるだけなら、ほかの支出を減らすことで対応できるかもしれません。
しかし食料品やサービスなどの価格も上昇していれば、家計には複数の負担が同時にかかります。
預金金利が上昇して利息が増えても、それ以上に生活費が上昇すれば、暮らしが楽になったとは感じにくくなります。
金利と物価を別々に考えるのではなく、実質的な購買力で考える必要があります。
自分の金利収支を計算してみる
金利上昇局面では、自分の家計について簡単な金利収支を作ってみると分かりやすくなります。
まず預金などから受け取る利息がどの程度増えるのかを確認します。
次に住宅ローンやその他の借入で支払う利息がどの程度増えるのかを確認します。
受取利息の増加から支払利息の増加を差し引きます。
これによって自分の家計が利上げの恩恵を受ける側なのか、負担が増える側なのかを把握できます。
家計全体の平均値より、自分自身のバランスシートを見ることの方が重要です。
平均値は政策を見る数字で個人には自分の数字が必要
家計全体で年間約4,000億円のプラスという数字には意味があります。
日本経済全体への影響を考えるうえでは重要だからです。
しかし住宅購入や資産運用など個人の意思決定に、その平均値をそのまま使うことはできません。
平均的な日本人が得をするかどうかではなく、自分がどのくらい預金を持ち、どのくらい借入を持っているかを見る必要があります。
金利のある世界では、家計にも自分自身の貸借対照表を見る感覚が必要になってきます。
結論
今回の0.25%の利上げによって、日本の家計全体では年間約4,000億円、1世帯平均では年間約6,000円の収支改善になるという試算があります。
しかし、これはすべての世帯が6,000円得をするという意味ではありません。
預金を多く持ち、借入が少ない世帯では利上げがプラスになりやすくなります。
一方、預金が少なく住宅ローンなどの借入が多い世帯では、支払利息の増加が受取利息の増加を上回る可能性があります。
その違いが世代別では、60代や70代以上の収支改善と、20代30代の収支悪化として表れています。
利上げの影響を判断するときに重要なのは、日本の平均的な家計ではありません。
自分自身の資産と負債です。
そして家計だけでなく、利上げによって大きく収益環境が変わる業種があります。
それが銀行です。
次に重要になるのが、日銀が利上げすると銀行はなぜ利益を増やしやすくなるのかという仕組みです。
参考
日本経済新聞 2026年9月19日朝刊 預金金利上昇、高齢者に恩恵
日本経済新聞 2026年9月19日朝刊 住宅ローン、若年層に重荷
日本経済新聞 2026年9月19日朝刊 3メガ銀、普通預金0.5%