会社法の改正に向けた議論が進んでいます。
今回の見直しで注目したいのが、株主総会です。
これまで株主総会といえば、会社がホテルやホールなどの会場を用意し、株主がそこへ集まり、経営陣から説明を受けたうえで議案について決議するという形が一般的でした。
しかし、デジタル化の進展や機関投資家の存在感の高まりによって、この仕組みそのものが変わろうとしています。
特に重要なのが、会場を設けない完全オンライン型の株主総会、総会前に議決権行使の結果を事実上確定させる仕組み、そして会社が実際に株式を保有している実質株主を確認する制度です。
一見すると株主総会を効率化するための制度改正に見えますが、その背景には、会社と株主との関係そのものの変化があります。
株主総会は会社の重要事項を決める場所です
株式会社では、会社を所有する株主と実際に経営する経営者が分かれています。
日常的な経営判断は取締役などが行いますが、取締役の選任や定款変更など重要な事項については株主総会で決議します。
そのため株主総会には、会社の意思を決定するという重要な役割があります。
一方で、上場企業では数万人、数十万人という株主を抱えるケースもあります。
すべての株主が一つの会場に集まって議論することは現実的ではありません。
現在では事前に書面やインターネットで議決権を行使する株主も多く、株主総会当日を迎える前に議案の賛否が事実上決まっていることもあります。
こうした実態に法律を合わせようとしているのが今回の見直しです。
完全オンライン株主総会とは何か
完全オンライン株主総会とは、物理的な会場を設けず、インターネット上だけで開催する株主総会です。
株主は自宅などからパソコンやスマートフォンを使って参加します。
現在の会社法では、株主総会を招集するときには原則として開催する場所を定めることになっています。
そのため、会社法だけを前提にすると会場を設けない株主総会は想定しにくい仕組みになっています。
そこで産業競争力強化法による特例によって、一定の上場会社について完全オンラインでの開催が可能になっています。
今後の会社法改正では、こうした仕組みを会社法そのものに取り込み、対象を広げる方向で議論されています。
完全オンラインにすると地方の株主も参加できます
オンライン化の大きなメリットは、株主がいる場所による制約が小さくなることです。
例えば東京で株主総会が開催される会社の株式を北海道や九州に住む人が保有しているとします。
会場へ参加するには交通費と時間がかかります。
オンラインであれば、自宅から参加できます。
海外に住んでいる株主にとっても同様です。
個人投資家が増えていけば、株主総会に参加したい人の居住地域も広がります。
オンライン化は株主総会への参加機会を広げる可能性があります。
一方で会社側の権限が強くなる可能性があります
オンライン化には問題もあります。
例えば株主から大量の質問が送られてきた場合、そのすべてを株主総会で取り上げることはできません。
会社側が質問を選ぶ必要があります。
すると会社にとって都合の悪い質問が意図的に取り上げられないのではないかという問題が出てきます。
実際の会場であれば、ほかの株主が質問者や議長の対応を見ることができます。
オンラインでは会社側が情報の流れを管理しやすくなります。
株主総会の効率化と株主の権利保護をどのように両立させるのかが重要になります。
通信障害が起きた場合も問題になります
完全オンラインで株主総会を開けば、インターネット回線やシステムに障害が発生する可能性があります。
例えば決議の直前に通信障害が起き、多くの株主が参加できなくなったらどうでしょうか。
そのたびに株主総会の決議が取り消される可能性があると、企業はオンライン総会を利用しにくくなります。
そこで議論されているのが、安全港と呼ばれる考え方です。
会社が事前に必要な通信障害対策などを講じていた場合には、一定の問題が起きても直ちに決議の取り消しにつながらないようにする仕組みです。
デジタル化を進めるには、こうしたトラブルが起きた場合の法律上の扱いも決めておく必要があります。
株主総会前に決議が固まる仕組みも検討されています
もう一つ注目されているのが、株主総会前の議決権行使を利用して決議を成立させる仕組みです。
現在でも多くの株主は株主総会の会場へ行かず、事前に書面やインターネットで議決権を行使しています。
その結果、総会が始まる前の段階で議案の可決に必要な賛成票が集まっていることがあります。
それならば、その時点で決議が成立したものとして扱えるのではないかという考え方です。
これによって株主総会当日の議事運営に伴う企業側の負担を減らせる可能性があります。
ただし、不祥事などが発生した企業では、株主総会当日に経営陣が株主から直接説明を求められること自体に重要な意味があります。
効率化を進めすぎれば、経営陣への緊張感が弱まる可能性もあります。
株主名簿を見ても本当の株主が分からないことがあります
今回の会社法改正で、もう一つ重要なのが実質株主です。
実質株主とは、株主名簿に名前が載っている人とは別に、実際に投資判断や議決権行使の指図をしている投資家などを指します。
特に機関投資家では、株式の保管や管理を資産管理銀行などに任せることがあります。
その場合、株主名簿には資産管理銀行などの名前が記載され、実際に投資判断をしている運用会社などの名前が直接表れないことがあります。
会社から見ると、自社の株式を実質的に誰が保有しているのか分かりにくいわけです。
なぜ会社は実質株主を知りたいのでしょうか
最大の理由は、株主との対話です。
近年の企業統治では、会社と株主が継続的に対話することが重視されています。
会社側は経営戦略や資本政策を説明し、投資家側は企業価値向上のための意見を伝えます。
ところが実際に議決権行使の判断をしている投資家が分からなければ、会社は誰と対話すればよいのか分かりません。
そこで会社側が名簿上の株主などに対し、議決権行使を指図する権限を持っている者について情報開示を求められる制度が検討されています。
実現すれば、日本企業が機関投資家との対話を進めるうえで重要な仕組みになる可能性があります。
海外ではすでに実質株主を確認する制度があります
実質株主を確認する仕組みは、日本独自の考え方ではありません。
英国では、会社側から実質株主に関する事実確認を求められた場合、一定の情報を提供する仕組みがあります。
欧州連合でも、会社が株主を特定できるようにする制度整備が進められています。
米国でも一定規模以上の機関投資家には、保有銘柄や株数などを証券当局へ報告する制度があります。
資本市場が国際化するほど、会社が自社の株式を実質的に誰が保有しているのか把握することの重要性は高まります。
日本の制度改正も、こうした世界的な流れの中で考える必要があります。
株主総会の役割そのものが変わる可能性があります
今回の改正議論で興味深いのは、単に株主総会をオンライン化するだけではない点です。
会社と株主の対話の中心が、年に1回の株主総会から日常的な面談や説明会へ移りつつあります。
株主総会まで何も話さず、当日に初めて経営方針を説明するという時代ではなくなっています。
機関投資家との面談や決算説明会などを通じて普段から意見交換を行い、その積み重ねの結果として株主総会で意思を確認する形に変わっていく可能性があります。
そう考えると、完全オンライン総会、事前の議決権行使、実質株主確認制度は別々の制度ではありません。
すべて会社と株主の関係が変化していることの表れと見ることができます。
結論
会社法改正で議論されている株主総会の見直しは、単なるデジタル化ではありません。
完全オンライン化によって場所の制約をなくし、事前の議決権行使を活用することで総会運営を効率化し、さらに実質株主を確認できるようにすることで会社と投資家の日常的な対話を促そうとしています。
一方で、効率化すればするほど会社側が議事運営をコントロールしやすくなり、株主が経営陣を直接追及する機会が弱くなる可能性があります。
これから重要になるのは、株主総会を開催すること自体ではなく、会社が株主に十分な情報を提供し、株主の意見を経営に反映できる仕組みをつくれるかどうかです。
株主総会は年に1度だけ会社と株主が向き合う場所から、日常的な対話の結果を確認する場所へ変わっていくのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年9月7日 朝刊 会社と株主 変わる会社法下 株主総会の景色変えるか
日本経済新聞 2026年9月7日 朝刊 実質株主の確認、海外先行