業績連動型退職金とは何か 会社の利益によって退職金の積立額が増減する仕組み編

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退職金というと、勤続年数が長くなるほど増え、役職や人事評価などによって金額が決まるものだというイメージがあります。

ところが、会社の業績によって毎年の退職金の積立額を増やしたり減らしたりする仕組みが登場しています。

ワタミは2026年度から、部長職以上の社員を対象に業績連動型の退職一時金制度を導入しました。

会社の営業利益が計画を上回れば退職金の積立額が増え、反対に業績が悪化すれば積立額が減ります。営業赤字になれば、その年の積立額がゼロになることもあります。

退職金に会社の業績を直接反映させるという珍しい制度です。

そもそも退職一時金とは何か

退職一時金とは、会社が従業員のために退職金の原資を準備し、従業員が退職するときにまとめて支給する仕組みです。

一般的な退職金制度では、勤続年数や役職、人事評価などをもとに退職金額が決まります。

大企業などではポイント制が採用されることもあります。

たとえば、毎年の役職や評価などに応じてポイントを付与し、

勤続中に獲得したポイント

掛ける

1ポイント当たりの金額

という考え方で退職金を計算します。

つまり、従来の退職金制度では基本的にその人が会社でどのように働いてきたのかが重視されてきました。

これに対して業績連動型退職金では、そこに会社全体の業績という要素が加わります。

ワタミの制度はどのような仕組みなのか

ワタミが2026年度から導入した制度では、グループの部長以上の社員が対象になります。

ポイントは、期初に会社が予想した連結営業利益と実際の営業利益を比較することです。

たとえば、会社が年度初めに

営業利益40億円

を見込んでいたとします。

そして、ある部長の通常の年間積立額が

50万円

だったとしましょう。

実際の営業利益が48億円になれば、計画を20パーセント上回ったことになります。

この場合、年間積立額も20パーセント増えて、

50万円から60万円

になります。

反対に営業利益が32億円なら、計画を20パーセント下回っています。

この場合は、

50万円から40万円

へ積立額が減ります。

会社の業績と退職金の積み立てを直接結びつけているわけです。

なぜ退職金を業績連動にするのか

最大の狙いは、管理職に会社の業績を自分自身の問題として考えてもらうことです。

通常の給与や賞与でも業績連動はできます。

しかし、退職金は数年、場合によっては数十年後に受け取るお金です。

そこに業績を反映させれば、

今年の会社業績

が、

将来受け取る自分のお金

にも影響することになります。

管理職にとって会社の利益を増やすことが、より直接的に自分自身の経済的利益につながります。

これがインセンティブとして働くことが期待されています。

営業赤字なら積立額がゼロになる

この制度の特徴は、業績が悪化した場合には退職金の積立額が減ることです。

特に営業赤字になった場合、その年の積立額はゼロになります。

たとえば、本来なら毎年50万円ずつ積み立てられる人でも、会社が営業赤字になれば、その年度については新たな積み立てが行われません。

ただし、それまで積み立ててきた退職金まで減らされるわけではありません。

過去の積立分

その年に新しく積み立てる分

を分けて考えることが重要です。

業績が悪かったからといって、それまで蓄積してきた退職金がゼロになる仕組みではありません。

業績が良ければ際限なく増えるわけではない

一方で、会社の利益が大幅に増えたからといって、退職金の積立額が際限なく増えるわけでもありません。

ワタミの制度では増額の上限を20パーセントとしています。

通常の年間積立額が50万円なら、最大でも60万円です。

これは会社側から見れば、退職金コストが急激に増えることを防ぐ仕組みでもあります。

業績連動制度では、

従業員へのインセンティブ

会社側の負担管理

のバランスが重要になります。

確定給付企業年金と組み合わせている

もう一つ重要なのは、退職後の資金すべてを業績連動にしているわけではないことです。

ワタミでは、全社員が確定給付企業年金に加入しています。

確定給付企業年金は一般にDBと呼ばれます。

DBは、一定のルールに基づいて将来受け取る給付額を決める企業年金です。

部長に昇格すると、このDBに加えて業績連動型の退職一時金が上乗せされます。

つまり、

安定性のあるDB

業績によって変動する退職一時金

を組み合わせています。

老後資金としての安定性をある程度確保しながら、管理職に対するインセンティブも取り入れる設計といえます。

なぜ一般社員ではなく部長以上なのか

今回の制度で注目したいのは、対象が一般社員ではなく部長以上の管理職であることです。

会社の営業利益は、一人の従業員だけで決まるものではありません。

一般社員の場合、自分が努力しても会社全体の利益に与えられる影響は限定的です。

そのような人の退職金を会社全体の業績に大きく連動させれば、

自分ではコントロールできない要因によって退職金が減る

という不公平感が生じる可能性があります。

一方、部長以上の管理職は事業計画やコスト管理、人員配置、売上拡大などに関わり、会社の業績に対する責任も大きくなります。

そのため、会社業績と報酬を結びつける合理性も高くなります。

退職金制度そのものが変わり始めている

今回の動きは、退職金制度全体の変化という大きな流れの中で見る必要があります。

従来の日本企業では、

長く勤めるほど退職金が増える

という制度が一般的でした。

これは終身雇用や長期勤続を前提とした仕組みともいえます。

しかし、人材の流動性が高まり、転職することが珍しくなくなってきました。

そのため企業では、従来型の退職一時金や確定給付企業年金を見直し、確定拠出年金などへ移行する動きも出ています。

退職金を給与に振り替える企業もあります。

つまり退職金は、

長く勤めた人への後払い賃金

という性格だけではなく、

人材を採用するための報酬

会社への貢献を促すインセンティブ

転職しても持ち運べる老後資産

など、さまざまな役割を求められるようになっています。

業績連動にはリスクもある

もちろん、業績連動型退職金にはデメリットもあります。

会社業績は管理職の努力だけで決まるわけではありません。

景気後退や自然災害、戦争、原材料価格の高騰など、個人ではどうすることもできない要因によって利益が落ち込むことがあります。

その結果、本人が十分に働いていても退職金の積立額が減る可能性があります。

そのためワタミでは、自然災害や戦争などの不可抗力によって営業赤字になった場合については考慮することも検討しています。

業績連動制度を公平に運用するには、

何を本人の責任と考えるのか

どこまで外部環境を考慮するのか

という難しい問題があります。

退職金は老後資金から報酬制度へ変わるのか

退職金はこれまで、従業員の老後生活を支えるための安定した資金という性格が強い制度でした。

そのため、会社の短期的な業績によって大きく変動することとは相性がよくない面があります。

一方、企業側から見ると退職金も人件費の一部です。

給与や賞与と同じように、従業員の行動を変える報酬制度として活用するという考え方もできます。

今回の業績連動型退職金は、この二つの考え方を組み合わせたものと見ることができます。

安定した老後資金を確保しながら、その上乗せ部分を会社業績に連動させる。

こうした制度が広がれば、退職金は単に退職時にもらうお金ではなく、企業が従業員の行動や意識を変えるための報酬制度としての性格を強めていく可能性があります。

結論

業績連動型退職金とは、会社の業績に応じて退職金の積立額を増減させる仕組みです。

ワタミが2026年度から導入した制度では、部長以上を対象として、営業利益が計画を上回れば積立額が増え、下回れば減少します。営業赤字の場合には、その年の積立額がゼロになる仕組みです。

一方、それまで積み立てた退職金まで減らされるわけではなく、確定給付企業年金という安定した制度も併用されています。

つまり、退職後の生活を支える安定性と、会社業績を向上させるインセンティブを組み合わせた制度です。

転職が一般化し、企業と従業員の関係が変わる中で、退職金制度も従来の勤続年数中心の仕組みから変化し始めています。

これから退職金を見るときには、いくら受け取れるのかだけでなく、何によって金額が決まるのかを見ることがますます重要になりそうです。

参考

日本経済新聞 2026年9月9日朝刊 ワタミ退職金、業績を反映

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