企業価値担保権とは何か 不動産を持たない会社でもブランドや将来性をもとに融資を受けられる仕組み編

経営

銀行からお金を借りるとき、これまでは土地や建物などの不動産を担保にする方法が一般的でした。

そのため、優れた技術やブランドを持っていても、不動産などの資産をあまり持たない会社は融資を受けにくいという問題がありました。

この状況を変える可能性があるのが、2026年5月に始まった企業価値担保権です。

企業価値担保権では、不動産だけを見るのではなく、会社の事業そのものの価値を踏まえて融資を行います。

中小企業の資金調達は、決算書と担保を見る時代から、会社が将来どれだけお金を生み出せるかを見る時代へ変わり始めています。

企業価値担保権とは何か

企業価値担保権とは、会社の事業全体の価値を担保として金融機関から融資を受けるための仕組みです。

会社には土地や建物だけでなく、さまざまな価値があります。

例えば、顧客との取引関係、ブランド、技術力、ノウハウ、人材、販売網などです。

そして、それらを組み合わせることで会社は将来の売上や利益、キャッシュフローを生み出します。

企業価値担保権では、こうした事業全体が生み出す価値を金融機関が評価します。

したがって、土地や建物をあまり持っていない会社でも、事業に将来性があれば資金調達できる可能性があります。

従来の融資とは何が違うのか

従来の銀行融資では、会社の決算書だけでなく、担保や保証も重要でした。

例えば会社が返済できなくなった場合、銀行は担保となっている不動産を売却して貸したお金を回収できます。

そのため、不動産を多く持つ会社ほど融資を受けやすくなる傾向がありました。

一方、創業間もない会社やサービス業、IT企業などは、不動産をほとんど持っていないことがあります。

中小企業では、経営者本人が個人保証を求められる場合もあります。

企業価値担保権では、こうした物的資産だけに頼るのではありません。

会社が今後どのくらいキャッシュフローを生み出せるのかという事業の将来性が重要になります。

ブランドも企業価値になる

企業価値担保権の特徴を理解するうえで重要なのが、決算書に表れにくい価値です。

例えば、地域で長年築いてきた信用やブランドがあります。

独自の製造技術を持っている会社もあります。

固定客を多く抱えている会社もあるでしょう。

こうしたものは土地や建物のように簡単に値段を付けられるものではありません。

しかし、会社が将来売上を生み出すうえでは非常に重要な資産です。

参考記事では、クラフトジンを製造するKokageが企業価値担保権を利用した事例が紹介されています。

同社がこの制度を選んだ理由の一つは、決算書だけではなくブランドを評価する仕組みだったことです。

ブランド力が将来の売上やキャッシュフローにつながるのであれば、それも企業価値を考える重要な材料になります。

業績不振の会社でも利用できる可能性がある

企業価値担保権が注目されるもう一つの理由は、現在の財務状況だけで融資の可否を判断しないことです。

参考記事では、経営再建中の運送会社シードが、りそな銀行から2億円の融資を受けた事例が紹介されています。

同社は過去に債務超過となり、現在はファンド傘下で再建を進めています。

通常であれば、再建中の会社への無担保融資は金融機関にとってリスクが高くなります。

そのため融資できたとしても金利が高くなる可能性があります。

ところが企業価値担保権を利用したことで、無担保融資で想定される利率のおよそ半分に抑えることができたとされています。

現在の決算書だけを見るのではなく、事業計画や将来のキャッシュフローまで評価することがポイントです。

銀行が経営を継続的に確認する

もちろん、将来性があると言うだけで融資を受けられるわけではありません。

企業価値担保権では、金融機関と企業との関係が従来以上に重要になります。

金融機関は融資した後も、企業が事業計画通りに経営しているか確認します。

売上は計画通り伸びているのか。

利益率は改善しているのか。

在庫が増えすぎていないか。

資金繰りに問題はないか。

こうした経営状況を継続的に確認します。

問題があれば早い段階で金融機関と企業が対応を考えることができます。

貸して終わりではなく、融資後も事業を見続けることが重要になるわけです。

コベナンツとは何か

こうした仕組みで重要になるのが財務制限条項です。

一般にコベナンツと呼ばれます。

コベナンツとは、融資を受ける企業が一定の条件を守ることを金融機関との契約で定めるものです。

例えば、一定の財務水準を維持することや、定期的に経営状況を報告することなどが考えられます。

参考記事のKokageの事例では、銀行が3カ月に1回、売上高や在庫の推移を確認する仕組みが設けられています。

会社側から見ると監視が厳しくなったようにも見えます。

しかし、経営状況を定期的に外部から確認してもらえることにはメリットもあります。

経営悪化の兆候を早く発見できる可能性があるからです。

事業計画の重要性が高まる

企業価値担保権を利用する場合、企業側にも大きな宿題があります。

金融機関が納得できる事業計画を作らなければならないことです。

今後どの市場で成長するのか。

どのくらい売上を増やすのか。

どのくらい利益を確保するのか。

投資した資金をどのように回収するのか。

将来のキャッシュフローをどのように生み出すのか。

こうした内容を金融機関に説明する必要があります。

企業側にとっては手間が増えます。

しかし、金融機関と一緒に事業計画を検討することで、自社の経営戦略を見直す機会にもなります。

単なる資金調達ではなく、経営計画を磨くプロセスにもなるわけです。

銀行にも目利き力が求められる

企業価値担保権は金融機関にとっても簡単な制度ではありません。

不動産であれば比較的評価しやすいからです。

土地なら周辺の取引価格などを参考にできます。

一方、ブランドや技術力、顧客基盤の価値を評価するのは簡単ではありません。

将来キャッシュフローを予測する必要もあります。

例えば、優れた技術を持っていても市場そのものが縮小する可能性があります。

逆に現在の売上は小さくても、今後急成長する会社もあります。

企業の数字だけでなく、業界や競争環境、経営者の能力、技術力などを見る必要があります。

企業価値担保権の普及には、金融機関の目利き力が欠かせません。

中小企業の資金調達はどう変わるのか

企業価値担保権が広がれば、中小企業の資金調達の考え方も変わる可能性があります。

これまでは、

不動産を持っている会社

財務内容の良い会社

経営者が個人保証できる会社

などが融資を受けやすい傾向がありました。

これからは、

強いブランドを持つ会社

独自技術を持つ会社

安定した顧客基盤を持つ会社

将来の成長が期待できる会社

などにも融資の可能性が広がります。

特に創業期や成長期の企業では、不動産を購入する前に人材や研究開発、広告、店舗などへ資金を投入するケースがあります。

こうした企業にとって、事業そのものを評価する融資制度は重要な選択肢になります。

ただし、企業価値担保権は担保なしで簡単に借りられる制度ではありません。

むしろ事業計画を作り、金融機関へ経営情報を継続的に提供し、計画の進捗を説明する必要があります。

資産の代わりに、経営そのものを金融機関に評価してもらう制度と考えると分かりやすいでしょう。

結論

企業価値担保権とは、不動産など個別の資産だけではなく、会社の事業全体の価値を担保として融資を受ける仕組みです。

将来のキャッシュフロー、ブランド、技術力、顧客基盤、ノウハウなど、決算書や不動産だけでは十分に表れない企業の強みが重要になります。

これによって、不動産をあまり持たない中小企業や成長企業、さらには再建中の企業にも資金調達の可能性が広がります。

一方で、企業は精緻な事業計画を作り、金融機関へ継続的に経営状況を説明しなければなりません。

金融機関側にも、企業の将来性を判断する目利き力が求められます。

企業価値担保権の本質は、単に新しい担保が登場したことではありません。

土地や建物を中心に会社を見る融資から、その会社が将来どれだけ価値を生み出せるのかを見る融資への転換にあります。

中小企業にとっては、持っている資産の大きさではなく、これから生み出す事業の価値によって資金を調達できる時代への一歩といえるでしょう。

参考

日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 小さくても勝てる 企業価値担保に借り入れ 資産に頼らずブランド評価

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