国の予算には、当初予算と補正予算があります。
どちらも国が政策を実施するためのお金ですが、本来の役割は違います。
当初予算は、その年度に必要になるとあらかじめ分かっている支出を年度が始まる前に計画する予算です。
一方、補正予算は、当初予算をつくった後に経済情勢や災害などの状況が変わり、追加の支出が必要になった場合に組む予算です。
ところが近年は大型の補正予算が繰り返され、本来なら当初予算に盛り込むべき支出まで補正予算に依存しているのではないかという問題が指摘されてきました。
2027年度予算では、この予算編成の方法を見直し、これまで補正予算で追加していた経費についても、あらかじめ必要だと分かっているものは当初予算から要求する方向が打ち出されています。
なぜ当初予算と補正予算を分ける必要があるのでしょうか。
当初予算とは何か
当初予算とは、その年度の基本となる国の予算です。
日本の国の会計年度は4月1日から翌年3月31日までです。
例えば2027年度なら、2027年4月から2028年3月までに必要になる歳入と歳出をあらかじめ見積もります。
歳出には、
社会保障
防衛
公共事業
教育
科学技術
地方交付税
国債費
などがあります。
一方、歳入には、
所得税
法人税
消費税
その他の税収
税外収入
国債発行による収入
などがあります。
政府は翌年度に必要となる政策と財源をまとめて政府予算案をつくり、国会へ提出します。
国会で成立したものが、その年度の当初予算になります。
当初予算は1年間の基本計画
当初予算は、国の1年間の基本的な財政計画と考えると分かりやすいでしょう。
例えば、来年度も年金を支払うことはあらかじめ分かっています。
医療や介護に国費が必要になることも分かっています。
自衛隊員の人件費が必要になることも分かっています。
道路や河川などの維持管理が必要になることも分かっています。
このように、年度が始まる前から必要になることが予想できる経費は、原則として当初予算に盛り込みます。
つまり、
最初から必要だと分かっているお金は最初から予算に入れる
というのが当初予算の基本です。
補正予算とは何か
しかし、1年前からすべてを正確に予測することはできません。
年度の途中で大規模な災害が発生することがあります。
景気が急激に悪化することもあります。
海外で戦争や紛争が起こり、エネルギー価格が急騰することもあります。
感染症が急拡大する可能性もあります。
こうした事態が発生すると、当初予算だけでは対応できないことがあります。
そこで年度の途中で予算を追加したり変更したりします。
これが補正予算です。
補正予算も政府だけで自由に使えるわけではありません。
政府が補正予算案をつくり、国会へ提出し、国会の議決を受ける必要があります。
補正予算は緊急事態に対応できる
補正予算の大きなメリットは、年度途中の状況変化に対応できることです。
例えば大規模地震が発生したとします。
被災者の生活支援が必要になります。
道路や橋の復旧も必要です。
仮設住宅の建設も必要になるかもしれません。
当初予算を編成した時点では、どこでどの規模の地震が起こるか分かりません。
だからといって、
来年度は大地震が起こるかもしれないので、あらかじめ数兆円を使うことにしておこう
と具体的な復旧費を計上することも困難です。
実際に災害が起きた後、必要額を計算して追加予算を組む方が合理的です。
こうした予測困難な事態への対応こそ、補正予算の重要な役割です。
景気対策でも補正予算が使われる
補正予算は災害だけではありません。
景気が急激に悪化した場合にも利用されます。
例えば世界的な金融危機によって企業業績が悪化し、失業者が増えたとします。
政府が、
企業への資金繰り支援
雇用対策
家計への給付
公共投資
などを追加することがあります。
当初予算を編成した時点では想定していなかった経済危機に対応するためです。
新型コロナウイルス禍でも巨額の補正予算が編成されました。
感染拡大という予測困難な事態に対応するため、通常とは異なる大規模な財政支出が必要になったからです。
このような使い方は、補正予算の本来の役割と非常に相性がよいといえます。
毎年必要なお金を補正予算で出すとどうなるのか
問題になるのは、緊急性の低い政策や毎年必要になる政策まで補正予算に入れる場合です。
例えば、ある産業支援策を毎年実施しているとします。
今年も実施する。
来年も実施する。
再来年も実施する。
必要性が毎年分かっているのであれば、本来は当初予算に盛り込む方が自然です。
ところが当初予算では小さな金額だけを計上し、年度途中の補正予算で毎年追加するとどうなるでしょうか。
表面上の当初予算は小さく見えます。
しかし実際には、毎年補正予算を加えたもっと大きな金額を使っていることになります。
国の本当の年間歳出規模が分かりにくくなるのです。
当初予算だけを見ても財政の姿が分からなくなる
例えば当初予算が115兆円だったとします。
これだけを見ると、
国は今年115兆円程度を使うのだ
と考えるかもしれません。
しかし年度途中で15兆円の補正予算を組めば、単純に考えると予算規模は130兆円になります。
さらに別の補正予算を組めば、もっと大きくなる可能性があります。
当初予算だけを前年と比較すると、歳出を抑えているように見えても、補正予算まで含めると実際には大幅に増えていることがあります。
つまり財政を見るときには、
当初予算はいくらか
だけではなく、
補正予算を含めて年間でいくら使ったのか
を見る必要があります。
補正予算が第二の当初予算になる問題
大型の補正予算が毎年のように組まれると、補正予算が事実上の第二の当初予算になってしまいます。
本来なら、
当初予算で通常の政策を実施する
予想外の事態が起きたら補正予算で対応する
という関係です。
ところが、
当初予算を編成する
その後に大型補正予算を編成することを事実上前提にする
という形になると、補正予算の性格が変わります。
毎年必要な政策を補正予算に入れることが常態化すれば、
なぜ最初から当初予算に入れなかったのか
という問題が出てきます。
予算編成そのものの透明性にも関わります。
シーリングとの関係もある
補正予算依存は、シーリングとも関係します。
当初予算の概算要求には、要求額を抑えるためのシーリングが設けられてきました。
各省庁は限られた要求枠の中で、政策の優先順位を考えます。
ところが当初予算では厳しいシーリングを設けても、後から大型補正予算を組んで支出を増やせばどうなるでしょうか。
当初予算だけを厳しく管理する意味が薄くなります。
入口では厳しく予算を抑えているように見えても、別の入口から支出を追加できるからです。
財政規律を考えるのであれば、当初予算だけではなく、補正予算を含めた年間全体の支出を管理する必要があります。
恒常的な政策を当初予算へ移す意味
2027年度予算では、この問題を意識した予算編成が進められています。
これまで補正予算で追加的に要求していた経費についても、必要性があらかじめ分かっているものは当初から必要額を要求する方向です。
これには重要な意味があります。
毎年必要になる政策を当初予算へ移せば、
国が1年間にどれだけのお金を使うつもりなのか
を最初から見えやすくできます。
当初予算の規模は大きく見えるかもしれません。
しかし、後から大型補正予算を追加することを前提とした小さな当初予算より、年間の支出を最初から示す方が財政の実態を把握しやすくなります。
143兆円が大きく見える理由の一つ
2027年度の概算要求が一般会計で143兆円前後となり、2026年度要求の122.4兆円を大幅に上回った理由の一つもここにあります。
単純に比較すると20兆円以上増えています。
しかし2027年度では、これまで補正予算で追加していた経費についても当初予算から要求する方向になっています。
そのため、
2026年度当初予算だけ
と、
2027年度の概算要求
を単純比較すると、予算が急激に膨張したように見えやすくなります。
高市政権が手掛けた2025年度補正予算と2026年度当初予算を合わせると140.6兆円でした。
2027年度概算要求143兆円前後は、これを2兆円から3兆円程度上回る水準です。
つまり予算額が増えている面と、これまで別々だった予算をまとめて見せるようになった面の両方があります。
当初予算を大きくすれば財政規律が緩むとは限らない
当初予算が大きくなると、
財政規律が緩んだ
と考えたくなるかもしれません。
しかし必ずしもそうとは限りません。
例えば、
当初予算115兆円
補正予算20兆円
という国と、
当初予算130兆円
補正予算5兆円
という国があったとします。
単純化すれば、どちらも年間135兆円です。
当初予算だけを見ると前者の方が小さく、財政規律が厳しいように見えます。
しかし年間全体では同じです。
むしろ最初から必要な支出を当初予算に入れている後者の方が、年間の財政規模を把握しやすいとも考えられます。
重要なのは当初予算の数字だけではなく、通年でどれだけ支出するのかです。
補正予算が不要になるわけではない
もちろん、恒常的な政策を当初予算へ移したからといって、補正予算そのものが不要になるわけではありません。
大規模災害は起こります。
世界的な経済危機が起こる可能性もあります。
感染症や国際情勢の急変など、予測できない出来事もあります。
こうした事態に柔軟に対応するため、補正予算は必要です。
問題は、
予測できなかった支出なのか
最初から必要だと分かっていた支出なのか
を区別することです。
前者なら補正予算を使う合理性があります。
後者なら当初予算に入れることを検討すべきです。
この区別が、予算編成の透明性を高めます。
結論
当初予算と補正予算は、どちらも国の予算ですが役割が違います。
当初予算は、その年度に必要になることがあらかじめ分かっている政策や経費を年度開始前に計画する基本予算です。
一方、補正予算は、大規模災害、急激な景気悪化、感染症など、当初予算の編成後に発生した状況変化へ対応するために追加する予算です。
問題になるのは、毎年必要になることが分かっている政策まで大型補正予算で繰り返し計上する場合です。
これが常態化すると、当初予算だけでは国が年間にどれだけ支出しているのか分かりにくくなります。
さらに当初予算ではシーリングによって歳出を抑えても、後から大型補正予算を追加すれば、年間全体の歳出管理が難しくなります。
2027年度予算では、これまで補正予算で追加していた経費についても、あらかじめ必要だと分かっているものは当初予算から要求する方向へ転換しています。
そのため概算要求額は大きく見えますが、単純に前年の当初予算と比較するだけでは財政の実態を判断できません。
重要なのは、当初予算を小さく見せることではありません。
予測できる支出は当初予算に入れ、予測できない事態には補正予算で対応し、年間を通じた政府支出の全体像を分かりやすくすることです。
当初予算と補正予算の違いを理解すると、143兆円という2027年度概算要求の数字がなぜ大きくなったのかも見えやすくなります。
参考
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 概算要求、143兆円前後 「天井」廃止で過去最大
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 概算要求最大「143兆円」、市場警戒解かず
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 上限撤廃、強まる官邸裁量
日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 概算要求 財務省との議論本格化