株主総会と取締役会は何が違うのか 会社の所有者と経営者で決められることが違う理由編

経営

株式会社には、会社の重要な意思決定を行う機関が複数あります。

その代表が株主総会と取締役会です。

株主総会は株主が参加して重要事項を決める場です。一方、取締役会は取締役によって構成され、会社の経営に関する重要事項を決定します。

株主は会社に資金を出資する所有者です。

それなら会社のことはすべて株主総会で決めればよいようにも思えます。

しかし、大企業の日々の経営判断まで数万人、数十万人の株主が集まって決めることは現実的ではありません。

そこで株式会社では、株主が経営者を選び、選ばれた経営者が実際の会社経営を担うという役割分担が行われています。

今回の会社法改正で議論されている業務執行事項に関する株主提案も、この株主総会と取締役会の役割分担をどこまで守るのかという問題につながっています。

株主総会とは何か

株主総会とは、株式会社の株主によって構成される会社の機関です。

株主は保有する議決権を使って、株主総会に提出された議案について賛成や反対の意思を示します。

株主総会では、会社法や定款によって株主総会の権限とされている重要事項を決定します。

代表的なのが取締役の選任です。

会社を実際に経営する取締役を誰にするのかを株主が決めます。

また、定款変更や一定の組織再編などについても株主総会の決議が必要になります。

つまり株主総会は、会社経営の基本的な枠組みや経営者を決める重要な機関です。

取締役会とは何か

取締役会は、取締役会設置会社に置かれる機関です。

複数の取締役によって構成されます。

取締役会の重要な役割の一つが、会社の業務執行に関する意思決定です。

会社は毎日のようにさまざまな判断をしています。

新しい工場を建設するのか。

新規事業へ参入するのか。

ある事業から撤退するのか。

大規模な投資を行うのか。

金融機関から資金を調達するのか。

こうした経営上の判断をすべて株主総会にかけることはできません。

そこで取締役会が重要な経営判断を行います。

また、取締役会には取締役の職務執行を監督する役割もあります。

株主総会と取締役会では参加する人が違う

両者の最も分かりやすい違いは、誰が意思決定に参加するのかです。

株主総会に参加するのは株主です。

株主は株式を保有し、原則としてその議決権を通じて意思決定に参加します。

一方、取締役会に参加するのは取締役です。

取締役は株主総会などで選任され、会社経営を担います。

つまり、

株主総会は株主による意思決定

取締役会は取締役による意思決定

という違いがあります。

株式会社では、この二つの機関に異なる役割を与えることで、所有者と経営者の役割を分けています。

所有と経営の分離とは何か

株式会社を理解するうえで重要なのが、所有と経営の分離という考え方です。

株主は会社へ資金を提供します。

その代わりに株式を取得し、配当を受け取ったり、株価上昇による利益を得たりすることができます。

しかし株主自身が毎日会社へ出勤して経営する必要はありません。

実際の経営は取締役などに任せます。

この仕組みによって、多数の投資家から大きな資金を集めながら、専門的な経営者が会社を運営できます。

特に上場会社では株主数が非常に多いため、所有と経営を分けることが不可欠になります。

株主は取締役を選ぶことで経営に関与する

株主が日々の経営を直接行わないからといって、経営に関係がないわけではありません。

株主には取締役を選任する権利があります。

経営を任せたい人物を取締役として選びます。

経営に問題があると考えれば、取締役の選任議案に反対することもできます。

一定の場合には取締役の解任を求めることもできます。

つまり株主は、

自分で経営する

のではなく、

経営する人を選ぶ

ことで会社経営に関与します。

これが株式会社の基本的な仕組みです。

なぜ日々の経営を株主が決めないのか

仮に上場会社の日々の経営判断をすべて株主総会で決めるとします。

新しい店舗を出すたびに株主総会を開きます。

工場へ設備投資するたびに株主の賛成を求めます。

不採算事業から撤退する場合にも株主総会を開きます。

これでは迅速な経営判断ができません。

競争相手が新商品を投入してきたときに、株主総会を開くまで経営判断を待つことも現実的ではありません。

さらに株主が企業経営に必要なすべての専門知識や情報を持っているとは限りません。

そこで株主が取締役を選び、取締役に経営を任せる仕組みが採られています。

株主総会は何でも決められるわけではない

株主総会は会社にとって非常に重要な機関ですが、取締役会設置会社では何でも自由に決められるわけではありません。

会社法や定款によって株主総会の権限とされている事項について決議します。

ここは、

株主総会は会社の最高意思決定機関だから何でも決められる

と単純に理解すると誤解しやすい部分です。

取締役会設置会社では、会社法が株主総会と取締役会の役割を分けています。

株主総会が決める事項があります。

取締役会が決める事項があります。

この権限分配によって会社経営が成り立っています。

取締役会が決める業務執行とは何か

業務執行とは、簡単にいえば会社の事業を実際に動かしていくことです。

たとえば会社が複数の事業を行っているとします。

ある事業を成長分野として拡大する。

別の事業は収益性が低いため縮小する。

海外市場へ進出する。

大型の設備投資を行う。

こうした判断は経営戦略そのものです。

取締役会設置会社では、重要な業務執行の決定は基本的に取締役会が担います。

株主は経営陣を選び、経営陣は会社の事業を動かすという役割分担です。

では株主は経営戦略に意見を言えないのか

株主が日々の業務執行を直接決定しないからといって、経営戦略について意見を示せないわけではありません。

株主総会で経営陣へ質問できます。

議決権を通じて取締役の選任について意思を示すこともできます。

会社と株主の対話を通じて経営方針について意見を伝えることもあります。

一定の要件を満たせば株主提案権を利用することもできます。

アクティビストなどは、資本政策や事業ポートフォリオについて会社へ積極的に改善を求めます。

つまり株主が経営に影響を与える方法は、日々の業務執行を直接決定することだけではありません。

定款変更を使うと境界が曖昧になる

ここで今回の記事の重要な論点が出てきます。

定款です。

定款は会社の基本的なルールです。

定款変更は株主総会の決議事項です。

そこで本来なら取締役会が判断するような業務執行事項について、

この内容を定款に書き込んでほしい

という形で株主提案することがあります。

たとえば特定の事業について一定の方針を定款に盛り込むことを求めるようなケースです。

形式上は定款変更の提案です。

定款変更なら株主総会で決議できます。

しかし実質的には取締役会の経営判断を株主総会によって拘束することになります。

ここに株主総会と取締役会の権限の境界という問題が生じます。

定款に経営事項を書くと何が起きるのか

通常の経営方針であれば、経営環境が変わったときに取締役会が変更できます。

たとえば原材料価格が急騰したとします。

海外市場の状況が変わったとします。

新しい技術が登場したとします。

経営陣は状況に応じて事業戦略を変更できます。

ところが具体的な経営事項を定款に書き込むと、簡単には変更できなくなる可能性があります。

定款変更には株主総会の特別決議が必要になるためです。

つまり、本来なら取締役会が機動的に変更できる経営方針が、株主総会の決議なしでは変更できないルールになってしまいます。

経済界が業務執行事項の株主提案に慎重な理由の一つです。

株主側から見ると違う考え方もある

一方、株主側から見れば別の考え方があります。

経営陣に任せているだけでは、重要な問題が改善されない場合があります。

資本効率が長期間低い。

不採算事業をいつまでも抱えている。

気候変動など長期的な経営リスクへの対応が十分ではない。

こうした問題について、株主が経営陣へ何度働きかけても改善されないことがあります。

その場合、株主総会を通じて会社の方針変更を求めることには一定の意味があります。

そのため業務執行事項に関する株主提案を一律に制限すれば、株主による経営監督の機能が弱まるのではないかという考え方もあります。

資本政策はどちらの問題なのか

株主総会と取締役会の境界を難しくする代表例が資本政策です。

どの程度の現金を保有するのか。

どの程度配当するのか。

自社株買いをするのか。

どの事業へ資金を投じるのか。

こうした問題は経営戦略に深く関係します。

一方、株主にとっては自分たちが提供した資本を会社がどのように使うのかという重要な問題でもあります。

そのため、

これは純粋な業務執行だから取締役会だけで決めるべきだ

と簡単に線を引けない場合があります。

今回の会社法改正でも、業務執行事項とそれ以外をどのように区別するのかが難しい論点になっています。

気候変動も境界が難しい

気候変動への対応も同じです。

脱炭素投資をどこまで進めるのか。

化石燃料関連事業をどうするのか。

温室効果ガス排出量をどのように削減するのか。

これらは企業の事業戦略そのものです。

その意味では業務執行の問題と考えることができます。

一方、企業の長期的な価値やリスク管理に関わる問題でもあります。

株主にとっても重要な関心事項です。

このため業務執行事項だけをきれいに切り離して株主提案を制限することは、実際には簡単ではありません。

今回の会社法改正で問われていること

現在の会社法改正では、株主提案権の300個要件などとともに、業務執行事項に関する株主提案をどこまで認めるのかも議論されています。

企業側から見れば、日々の経営判断まで定款変更という形で株主総会に持ち込まれると、経営の機動性が失われる可能性があります。

株主側から見れば、業務執行という理由だけで提案できなくなれば、重要な経営課題について問題提起する手段が狭くなる可能性があります。

結局問われているのは、

株主がどこまで決めるのか

経営者にどこまで任せるのか

という株式会社の基本的な役割分担です。

結論

株主総会と取締役会は、どちらも株式会社の重要な意思決定機関ですが、その役割は異なります。

株主総会は株主によって構成され、取締役の選任や定款変更、一定の組織再編など、会社法や定款で定められた重要事項を決定します。

一方、取締役会は取締役によって構成され、重要な業務執行の決定や取締役の職務執行の監督などを担います。

この役割分担の背景にあるのが所有と経営の分離です。

株主が会社へ資金を提供し、経営を担う取締役を選び、取締役が実際の会社経営を行います。

しかし定款変更という形を使えば、本来は取締役会が判断するような経営事項について株主が提案することも可能になります。

そのため現在の会社法改正では、業務執行事項に関する株主提案をどこまで認めるのかが議論されています。

株主総会と取締役会の違いは、単に会議に参加する人が違うという話ではありません。

会社の所有者である株主がどこまで経営に関与し、実際の経営を担う取締役にどこまで判断を任せるのかという、株式会社の基本構造そのものを表しているのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月31日 朝刊 株主提案、要件見直しで火花

日本経済新聞 2026年8月31日 朝刊 業務執行の提案巡り議論

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