退職金がない会社は待遇が悪いのか 基本給と企業年金を含めて比較しなければ分からない理由編

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求人票を見ていると、

退職金制度あり

という会社もあれば、

退職金制度なし

という会社もあります。

退職金がない会社を見ると、

老後の保障がない会社なのではないか

待遇が悪い会社なのではないか

と感じる人もいるかもしれません。

しかし、退職金がないという一点だけで会社の待遇を判断することはできません。

退職金として将来支払う予定だった原資を、現在の基本給へ上乗せしている会社もあります。

企業型確定拠出年金などを通じて老後資金を積み立てている会社もあります。

反対に退職金制度があっても、基本給や会社の掛金が低ければ、生涯を通じて受け取る報酬が必ず多いとは限りません。

重要なのは退職金の有無ではなく、会社から受け取る報酬全体を見ることです。

退職金がない会社もある

退職金制度は、すべての会社に法律で設置が義務づけられているものではありません。

そのため、

退職金制度がある会社

退職金制度がない会社

の両方があります。

退職金制度がないからといって、それだけで違法になるわけではありません。

会社によって報酬の設計が違うのです。

毎月の給与を抑えて退職時に大きな退職金を支払う会社もあります。

現在の給与を高くして退職金を設けない会社もあります。

企業型DCなどを中心に老後資産を形成する会社もあります。

社員に支払う報酬を、

現在

退職時

老後

のどこに配分するかが違うと考えると分かりやすくなります。

退職金も人件費の一部である

会社から見ると、退職金は社員に対する人件費の一部です。

たとえば会社が社員1人について、長期間で総額2億円の報酬を負担すると仮定します。

その2億円を、

毎月の給与

賞与

退職金

企業年金

福利厚生

などへ配分します。

退職金を2000万円用意するなら、その原資も会社が負担しなければなりません。

反対に退職金を設けなければ、その分を現在の給与や企業型DCの掛金などへ回すこともできます。

つまり、

退職金があるから会社の負担が大きい

退職金がないから会社の負担が小さい

とは限りません。

報酬をどの形で社員へ渡しているかを見る必要があります。

基本給が高い会社もある

退職金がない代わりに、基本給を高く設定する会社があります。

たとえばA社とB社があるとします。

A社は年収600万円で退職金制度があります。

B社は年収650万円で退職金制度がありません。

年間ではB社の方が50万円高くなります。

20年間働けば、単純計算では1000万円の差です。

30年間なら1500万円です。

もちろん昇給や税金などを無視した単純な比較ですが、退職金がないという理由だけでB社の待遇が悪いとはいえないことが分かります。

現在の給与として多く受け取るか、将来の退職金として受け取るかという違いかもしれません。

基本給の差は賞与にも影響することがある

基本給を見るときには、毎月の給与だけでなく賞与との関係も確認する必要があります。

会社によっては賞与を、

基本給の何カ月分

という形で決めています。

その場合、基本給が高ければ賞与にも影響する可能性があります。

一方、基本給とは別の職務給や成果報酬を中心とした会社もあります。

退職金の有無だけを比較するより、

基本給

各種手当

賞与

成果報酬

まで含めて年間報酬を見ることが重要です。

企業型DCがある会社もある

退職一時金がなくても、企業型確定拠出年金を導入している会社があります。

企業型DCでは、会社が社員のために一定の掛金を拠出します。

社員自身がその資産を運用し、原則として老後に受け取ります。

たとえば会社が毎月3万円を拠出するとします。

年間では36万円です。

30年間なら掛金だけで1080万円になります。

さらに運用結果によって資産額は変わります。

求人票などに退職金なしと書かれていても、企業型DCの会社掛金が手厚ければ、老後資金として大きな価値を持つ可能性があります。

会社のDC掛金も報酬として考える

企業型DCの会社掛金は、毎月の給与として銀行口座に振り込まれるわけではありません。

そのため社員は、

会社からお金をもらっている

という実感を持ちにくいかもしれません。

しかし会社は社員のために掛金を負担しています。

たとえば、

年収600万円

企業型DCの会社掛金が年間36万円

なら、報酬を見る際にはこの36万円も無視できません。

別の会社が、

年収620万円

企業型DCなし

だったとしても、単純に20万円高いから後者が有利とは限りません。

現金給与と老後資産の両方を見る必要があります。

確定給付企業年金がある場合もある

会社によっては確定給付企業年金を設けています。

確定給付企業年金では、規約などに基づいて将来の給付を設計し、会社が必要な掛金を負担して資産を運用します。

社員からすると、毎月の給与には見えない報酬です。

そのため会社の待遇を比較するときには、

退職一時金があるか

だけでなく、

確定給付企業年金があるか

企業型DCがあるか

会社はいくら負担しているのか

まで確認する必要があります。

企業年金を含めると、求人票の年収だけでは見えない待遇差が存在します。

退職金2000万円だけを見ても分からない

たとえばA社では60歳まで働けば退職金2000万円を受け取れるとします。

一方、B社には退職金がありません。

これだけを見るとA社が有利に見えます。

しかしB社の給与が毎年100万円高かったらどうでしょうか。

20年間働けば2000万円の差になります。

さらにB社に企業型DCがあり、会社が毎年40万円を拠出していたら、20年間で掛金だけでも800万円です。

もちろん税金や社会保険料、運用結果などがあるため単純比較はできません。

それでも、

退職金2000万円があるからA社の方が2000万円得

とはいえないことが分かります。

退職金には税制上のメリットがある

ただし、給与と退職金の額面が同じなら経済価値も同じというわけではありません。

一定の退職一時金には退職所得控除があります。

さらに一般的な退職所得では、控除後の金額を原則として2分の1にして課税退職所得金額を計算します。

一方、退職金原資を給与として受け取れば給与所得として課税されます。

給与額が増えることで社会保険料に影響する場合もあります。

したがって、

給与を2000万円多く受け取る

退職金を2000万円受け取る

では、税引き後の手取りが同じとは限りません。

待遇比較では額面だけでなく税制も考える必要があります。

給与には早く受け取れるメリットがある

一方、給与として受け取ることにも大きなメリットがあります。

退職金は60歳や65歳などになるまで受け取れないことがあります。

給与なら現在から使えます。

住宅購入。

教育費。

資格取得。

自己投資。

資産運用。

さまざまな目的に利用できます。

若い時期から給与として受け取り、NISAなどで長期間運用すれば、退職金以上の資産を形成できる可能性もあります。

お金の価値は金額だけではありません。

いつ受け取れるのかも重要です。

退職金には強制的に老後資金を残す効果がある

逆に退職金には、現役時代に使えないという特徴があります。

これは不便でもありますが、老後資金という点ではメリットにもなります。

毎月5万円給与が多くても、毎月5万円をすべて貯蓄できるとは限りません。

生活水準を上げれば使ってしまいます。

40年間で2400万円多く給与を受け取っていても、退職時に2400万円残っているとは限りません。

退職金制度なら、原則として退職するまで社員はそのお金を使えません。

結果として老後資金を確保しやすくなります。

退職金には強制貯蓄に近い役割もあるのです。

転職する人には退職金なしが有利な場合もある

長期間同じ会社で働かない人の場合、従来型退職金の魅力が小さくなることがあります。

たとえば40歳で入社し、50歳で再び転職する人を考えます。

勤続10年です。

長期勤続者ほど退職金が大きくなる制度なら、十分な退職金を受け取れない可能性があります。

それなら、

退職金なし

基本給が高い

企業型DCへ毎年掛金を拠出する

という会社の方が本人の働き方に合うことがあります。

特に転職を何度か経験することを前提とする人にとっては、現在の給与や持ち運べる企業年金の方が価値を感じやすい場合があります。

長く働く人には退職金が魅力になる

反対に、一つの会社で長く働く予定の人には退職金制度が魅力になる場合があります。

勤続年数が長くなるほど支給額が大きく増える制度なら、30年や40年勤務することで大きな退職金を受け取れる可能性があります。

退職所得控除も勤続年数と関係します。

さらに老後まで資金を使わずに残すことができます。

つまり、

退職金ありと退職金なしのどちらが有利か

は、本人の働き方によっても変わります。

会社の制度だけでなく、自分がその会社でどのくらい働く予定なのかも重要なのです。

生涯報酬で比較する

会社の待遇を比較するときに重要なのが生涯報酬という考え方です。

たとえば、

基本給

賞与

成果報酬

退職金

企業型DCの会社掛金

確定給付企業年金

福利厚生

などを長期間で合計して考えます。

さらに厳密に比較するなら、

所得税

住民税

社会保険料

受け取る時期

資産運用

まで考える必要があります。

年収が高い会社が必ず生涯報酬も高いとは限りません。

退職金がある会社が必ず有利とも限りません。

報酬の形が違うだけという場合があるからです。

求人票では見えにくい部分を確認する

転職するときには、求人票の年収だけで判断しないことが重要です。

特に確認したいのは、

退職金制度の有無

退職金の計算方法

企業型DCの有無

会社掛金の金額

確定給付企業年金の有無

賞与の仕組み

です。

企業型DCについては、

制度があります

だけでは十分ではありません。

会社が毎月5000円拠出する場合と、毎月5万円拠出する場合では大きな違いがあります。

制度の名前ではなく、実際に会社がどれだけ負担してくれるのかを見る必要があります。

結論

退職金がない会社だからといって、必ず待遇が悪いわけではありません。

会社が社員に支払う報酬には、

毎月の給与

賞与

退職金

企業年金

企業型DC

福利厚生

などがあります。

退職金はその一つにすぎません。

退職金を設けない代わりに基本給を高くしている会社もあります。

企業型DCへ手厚い掛金を拠出している会社もあります。

反対に退職金制度があっても、基本給が低かったり、退職金額そのものが少なかったりすれば、生涯報酬が必ず高くなるとは限りません。

さらに給与と退職金では税制も違います。

給与には早く受け取れるメリットがあります。

退職金には税制上の特徴や、老後まで資金を残しやすいメリットがあります。

どちらが有利なのかは、

何歳で入社するのか

何年間働くのか

転職する予定があるのか

自分で資産形成できるのか

によっても変わります。

これから会社の待遇を見るときには、

退職金あり

という一言だけで判断するのではなく、

会社が自分のために生涯でどれだけの報酬を負担してくれるのか

という視点が重要になります。

退職金の有無ではなく、基本給、賞与、企業年金、企業型DCまで含めた報酬全体を見ることで、本当の待遇差が見えてくるのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月31日夕刊 退職金、なくなるの? 人材流動化で見直しも

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