商品やサービスを契約するとき、消費者は事業者から提供された情報をもとに判断します。
料金はいくらなのか。どのようなサービスを受けられるのか。途中で解約できるのか。追加料金は発生するのか。
ところが、その判断に重要な情報について事業者から事実と異なる説明をされ、それを信じて契約してしまったらどうなるのでしょうか。
消費者契約法には、このような場合に消費者を保護するための仕組みがあります。
それが不実告知による契約の取消しです。
サブスクの解約妨害についても、解約するかどうかの判断に影響する内容について事業者が嘘をつく行為を禁止する方向で検討されています。
不実告知という考え方は、契約するときだけでなく、契約を終わらせる場面でも重要になろうとしています。
不実告知とは何か
不実告知とは、事業者が消費者契約の勧誘をする際、重要な事項について事実と異なることを告げることです。
簡単にいえば、契約するかどうかを判断するうえで重要なことについて、事実ではない説明をすることです。
たとえば、本当は追加料金が必要なのに、
追加料金は一切かかりません。
と説明したとします。
消費者がその説明を事実だと思い、それによって契約したのであれば、不実告知が問題になる可能性があります。
重要なのは、単に説明が間違っていたというだけでなく、消費者がその説明によって事実を誤って認識し、それを理由として契約の意思表示をしたという関係です。
一定の要件を満たせば、消費者は契約を取り消すことができます。
重要事項とは何か
事業者が何か一つ間違ったことを言えば、すべての契約を取り消せるわけではありません。
不実告知では、何について事実と異なる説明がされたのかが重要です。
消費者契約法では、消費者が契約するかどうかを判断するうえで通常影響すると考えられる重要な事項が問題になります。
たとえば商品の品質や用途、サービスの内容などです。
価格や料金など、契約の目的となるものの対価についての情報も重要です。
さらに、契約することによって消費者が得る利益や不利益に関する一定の事情も問題になることがあります。
消費者にとって契約するかどうかの判断を左右する情報だからです。
逆に、契約判断とはほとんど関係のない細かな説明の間違いがあったからといって、直ちに契約全体を取り消せるとは限りません。
単なる説明不足とは違う
不実告知を理解するときに重要なのが、何も説明しないことと、事実と違うことを説明することの違いです。
たとえば本当は解約手数料が5000円必要だとします。
事業者が、
解約手数料はかかりません。
と説明すれば、事実と異なることを積極的に伝えています。
これが不実告知の典型的なイメージです。
一方、解約手数料について何も説明しなかった場合は、同じように消費者が誤解する可能性はありますが、事実と異なることを告げた場合とは問題となる法律上の仕組みが異なります。
消費者契約法には、一定の不利益となる事実を意図的または重大な過失によって告げなかった場合などを対象とする別の取消しの仕組みもあります。
そのため、
事実と違う説明をしたのか。
重要な事実を伝えなかったのか。
という違いを整理する必要があります。
不実告知と広告の誇張は同じなのか
商品を販売するときには、ある程度魅力的な表現が使われることがあります。
最高の商品です。
とても便利です。
おすすめの商品です。
こうした表現と不実告知は必ずしも同じではありません。
不実告知で問題になるのは、重要な事項について客観的な事実と異なることを告げる場合です。
たとえば、
通常価格は1万円ですが、今日だけ5000円です。
と説明しているにもかかわらず、実際には常に5000円で販売していた場合などは、単なる感想や宣伝文句とは性質が異なります。
消費者の契約判断に影響する具体的な事実について、実際とは異なる情報が提供されているからです。
広告表現については景品表示法など別の法律が問題になることもあるため、不実告知だけですべての広告問題を判断するわけではありません。
なぜ契約を取り消せるのか
契約には、原則として当事者を拘束する力があります。
一度契約した後で、
やっぱり気が変わりました。
という理由だけで自由に取り消せるわけではありません。
しかし、その契約判断の前提となった重要な情報そのものが事実と違っていた場合は事情が異なります。
たとえば、
いつでも無料で解約できます。
という説明を信じて契約したのに、実際には高額な解約料が必要だったとします。
消費者が最初から正しい情報を知っていれば、契約しなかった可能性があります。
それにもかかわらず、署名やクリックをしたという形式だけを理由に契約へ拘束するのは公平とはいえません。
そこで消費者契約法は、一定の要件を満たした不実告知によって消費者が誤認し、契約した場合に取消しを認めています。
契約の結果だけではなく、契約に至るまでの意思決定の過程も保護しているのです。
サブスクでは解約時にも情報が重要になる
従来、不実告知は主に契約するときの問題として考えられてきました。
ところがサブスクなど継続的な契約では、契約した後にも消費者が重要な判断をすることになります。
代表的なのが解約です。
たとえば消費者が動画配信サービスをやめようとしたとします。
その際に事業者から、
今解約すると違約金が発生します。
と説明されたため、消費者が解約をあきらめたとします。
ところが実際には違約金など存在しなかったとしたらどうでしょうか。
事実と異なる情報によって、消費者の解約判断がゆがめられています。
契約時に嘘をついて契約させることが問題なら、解約時に嘘をついて契約を続けさせることも問題ではないかという考え方につながります。
今回の法改正で何が変わるのか
消費者庁が検討している消費者契約法の見直しでは、サブスクなど継続的に商品やサービスが提供される契約について、不当な解約妨害を禁止する方向です。
その一つとして想定されているのが、解約するかどうかの判断に影響を与える内容について嘘をつく行為です。
これは従来の不実告知の考え方を、解約という契約終了の場面にも広げて考えるものといえます。
さらに重要なのが、禁止行為について適格消費者団体が差し止めを請求できるようにする方向で検討されていることです。
特定の消費者だけが被害を受けるのではなく、同じ解約方法が多数の利用者に使われている場合があります。
そのようなとき、個々の消費者がそれぞれ争うだけでなく、適格消費者団体が不当な行為そのものの停止を求められる仕組みが重要になります。
契約の入口だけを規制しても十分ではない
サブスクの普及によって、契約というものの性質も変わっています。
商品を一度購入して終わる取引であれば、契約を結ぶ瞬間の説明が特に重要でした。
しかしサブスクでは、契約関係が数カ月、数年と続くことがあります。
その間に料金が変わることもあります。
契約が自動更新されることもあります。
そして最後には解約という判断があります。
消費者が正しい情報に基づいて判断する必要があるのは、最初の申し込み時だけではありません。
契約を続けるか。
更新するか。
解約するか。
こうした契約後の判断についても、正確な情報が必要です。
その意味で今回の見直しは、消費者保護を契約の入口から出口まで広げる動きとして注目できます。
結論
不実告知とは、事業者が消費者契約の勧誘に際して、重要な事項について事実と異なることを告げることです。
消費者がその説明を事実だと誤認し、それによって契約した場合には、一定の要件のもとで契約を取り消すことができます。
重要なのは、契約書に署名したか、申し込みボタンを押したかだけではありません。
その判断をするときに、消費者へどのような情報が提供されたのかも重要なのです。
そしてサブスクなど継続的な契約が増えたことで、この考え方は契約時だけでは十分ではなくなっています。
解約しようとする消費者に事実と異なる説明をして契約を継続させる行為についても、規制する方向で検討が進められています。
契約するときに嘘をついてはいけないだけでなく、解約するときにも嘘をついてはいけない。
消費者契約のルールが、契約の入口から出口までを守る仕組みへ変わろうとしています。
参考
日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 サブスク解約妨害を禁止 消費者庁、法改正へ
日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 消費者契約法 不当な勧誘・契約から保護