人口減少社会の課題として空き家問題が注目されています。
全国の空き家は900万戸を超え、管理不全や防犯、防災の問題が社会課題となっています。しかし、その陰でさらに深刻な問題が進行しています。
それが休耕地の増加です。
住宅は使われなくなっても建物として残りますが、農地は放置されると雑草が生い茂り、害虫や有害鳥獣の温床となり、地域環境に大きな影響を与えます。
しかも農地は一度失われると簡単には元に戻せません。
人生100年時代を迎える日本において、休耕地の活用は地域の未来を左右する重要なテーマになりつつあります。
空き家以上に深刻な農地の減少
日本の農業従事者の高齢化は急速に進んでいます。
農業就業人口の平均年齢は70歳前後といわれています。
後継者不足により、耕作をやめる農家は今後さらに増える可能性があります。
問題は、農地が住宅と違って自然に維持されないことです。
人の手が入らなくなれば、すぐに荒廃が始まります。
雑草が伸び放題となり、周辺住民とのトラブルも発生します。
空き家問題は目に見えやすい課題ですが、休耕地問題はより広い範囲で静かに進行しているのです。
食料安全保障という新しい視点
近年、世界各地で食料供給への不安が高まっています。
ウクライナ情勢や中東情勢、異常気象などによって食料価格は大きく変動しています。
日本の食料自給率はカロリーベースで4割を下回る状況です。
輸入が止まれば十分な食料を確保できない可能性があります。
そのような中で休耕地は単なる遊休資産ではありません。
将来の食料生産能力そのものです。
農地は国土の重要なインフラであり、安全保障資産として考える必要があります。
農地を守ることは、将来の食卓を守ることでもあるのです。
定年後世代が新たな担い手になる可能性
一方で興味深い変化も起きています。
家庭菜園や市民農園への関心が高まっていることです。
定年後に時間的余裕ができた人の中には、本格的な農業に興味を持つ人も少なくありません。
もちろん大規模農業を担うことは容易ではありません。
しかし地域の小規模農地や休耕地であれば、シニア世代が活躍できる可能性があります。
農作業は健康維持にも役立ちます。
さらに地域との交流や生きがいづくりにもつながります。
人生後半戦の働き方として農業を位置付ける視点も必要かもしれません。
行政区を超えたマッチングが鍵になる
現在の大きな課題はマッチングです。
農地を貸したい人はいる。
農業を体験したい人もいる。
しかし両者がうまく結び付いていません。
特に都市部では農地を探している人が多い一方、地方では休耕地が増えています。
情報が分散しているため、活用したい人に情報が届いていないのです。
今後はデジタル技術を活用した全国規模のマッチングシステムが重要になります。
空き家バンクの農地版ともいえる仕組みが必要になるでしょう。
企業参入が農地を救う可能性
農林水産省も企業の参入に期待しています。
近年は体験農園や観光農園、農業教育事業など新しいビジネスモデルが生まれています。
都市近郊では収穫体験や農業体験そのものが価値を持つ時代になりました。
企業が運営する体験農園であれば、初心者でも気軽に参加できます。
また企業の経営ノウハウや資金力を活用することで、収益性の高い農業も実現しやすくなります。
農業は個人だけが担う時代から、多様な主体が支える時代へと変わりつつあります。
農地は地域コミュニティーの資産である
休耕地の活用を考える際に忘れてはならないのが地域コミュニティーの視点です。
農地は単に作物を育てる場所ではありません。
防災空間になり、交流の場になり、子どもの教育の場にもなります。
近年は都市農園やコミュニティー菜園が注目されています。
野菜を育てながら世代を超えた交流が生まれています。
もし休耕地が地域住民に開放されれば、農業だけでなく地域活性化にも大きく貢献できるでしょう。
結論
空き家問題が注目される一方で、休耕地の増加はそれ以上に長期的な課題かもしれません。
農地は一度失われると簡単には戻せません。
食料安全保障、防災、環境保全、地域コミュニティー形成など、多くの価値を持つ貴重な資産です。
これからの時代は「誰が農地を所有するか」ではなく、「誰が農地を活用するか」が重要になります。
定年後世代、企業、地域住民、行政が協力しながら新しい活用モデルをつくることが求められています。
休耕地は放置された土地ではありません。
日本の未来を支える可能性を秘めた資産なのです。
参考
日本経済新聞 朝刊 2026年6月22日
「都市農園の可能性 欧米、再開発の原動力」
日本経済新聞 朝刊 2026年6月22日
「宅地化進む中に価値」
日本経済新聞 朝刊 2026年6月22日
「園芸から担い手増やす」
日本経済新聞 朝刊 2026年6月22日
「災害大国、供給混乱に備えを」