国内留学とは何か 都市の若者が地方で暮らしながら学ぶ仕組み編

人生100年時代
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人口減少に悩む地方にとって、若者をどう呼び込むかは大きな課題です。

これまで地方への若者の移動というと、大学進学や就職、移住などが中心でした。

ところが最近、新しい動きが広がっています。

都市部の学生が一定期間地方に滞在し、自治体や企業、農家などで実習やインターンシップを経験する「国内留学」です。

海外へ行く留学とは異なり、日本国内の地域そのものを学びの場にする仕組みです。

地方にとっては若者との接点をつくることができ、学生にとっては大学のキャンパスだけでは得られない経験ができます。

さらに、そこで生まれたつながりが将来の就職や移住につながる可能性もあります。

国内留学とは何か

国内留学という言葉に統一された法律上の定義があるわけではありません。

一般的には、普段生活している地域を離れ、国内の別の地域に一定期間滞在しながら学ぶ取り組みを指します。

大学生の場合には、地方自治体や地域企業、農林水産業などの現場に入り、地域課題について学ぶプログラムなどがあります。

例えば、

地方自治体で地域振興について学ぶ

農家で農作業や商品づくりを経験する

地域企業でインターンシップをする

住民と一緒に町づくりを考える

地域の観光資源を調査する

といった活動です。

単なる旅行との大きな違いは、地域を「見る」のではなく、地域の中に入り込んで活動することです。

数日間観光地を訪れるだけでは、その地域で暮らす人が抱えている問題まではなかなか分かりません。

一定期間生活し、住民と交流することで、人口減少や空き家、産業の担い手不足など地域社会が抱える課題を自分自身の問題として考えることができます。

大学の授業そのものを地方で行う

国内留学の特徴の一つが、地方での活動を大学教育の一部として組み込む動きです。

大正大学の地域創生学科では、地域実習を必修科目としています。

学生は学年に応じて各地を訪れ、住民との交流を通じて地域の魅力や課題を探します。

3年次になると、全国120以上の連携自治体から実習先を選ぶことができます。

つまり、地方での経験が課外活動ではなく、大学教育そのものに組み込まれているわけです。

これは学生側にも大きな意味があります。

自分で地方のインターン先を探し、宿泊先を確保し、現地との関係を築くのは簡単ではありません。

大学と自治体が連携して仕組みを用意すれば、学生は地方へ行く最初のハードルを越えやすくなります。

国内留学が就職につながることもある

地方自治体にとって重要なのは、国内留学が一時的な交流だけで終わらない可能性があることです。

実際に、大学時代の地域実習やインターンシップをきっかけに地方自治体へ就職する学生も出ています。

これは地方の採用という観点から見ると興味深い仕組みです。

一般的な採用活動では、学生は求人情報やホームページ、説明会などを通じて自治体や企業を知ります。

しかし国内留学では、実際にその町で生活できます。

職員や住民と話し、町の雰囲気を知り、地域の課題まで理解したうえで就職先として選ぶことができます。

地方側から見ても、単に地方で働きたいという人ではなく、その地域をある程度理解した人を採用できる可能性があります。

いわば国内留学が、長期間の採用活動のような役割を果たすこともあるわけです。

移住の最大の壁は地域を知らないこと

地方移住では、仕事や住宅の問題が注目されがちです。

しかし、その前に大きな壁があります。

そもそも、その地域を知らないことです。

都市部で生まれ育った若者にとって、地方には名前を知っていても実際に訪れたことのない自治体が数多くあります。

知らない地域へ突然移住する人は多くありません。

そこで国内留学が入口になります。

まず学生として滞在する。

地域の人と知り合う。

仕事を知る。

暮らしを経験する。

その結果、

「この町なら働いてみたい」

「卒業後に戻ってきたい」

という気持ちが生まれる可能性があります。

移住政策というと、移住者への補助金や住宅支援が注目されます。

しかし、その地域との接点そのものを若いうちにつくる政策も重要なのです。

地方にとって若者の視点そのものが価値になる

国内留学は、学生だけが学ぶ仕組みではありません。

受け入れる地域にもメリットがあります。

長年同じ地域で暮らしていると、その町の魅力が当たり前になってしまいます。

反対に、地域の不便な部分についても「昔からこうだから」と受け入れてしまうことがあります。

そこへ外部から若者が入ってきます。

すると、

「なぜこんな魅力的なものをもっと発信しないのか」

「なぜこのサービスはオンライン化されていないのか」

「この空き家はもっと活用できるのではないか」

といった疑問が出てきます。

地域住民にとって当たり前のことが、外部の人には魅力にも課題にも見えるわけです。

地方創生では、この「外からの視点」が重要になります。

国も国内留学を後押しする

国内留学は大学や自治体だけの取り組みではなくなりつつあります。

文部科学省も2026年度から2028年度までの3年間、国内留学の普及に向けたモデル事業を進めます。

首都圏の大学などを対象に公募し、中央大学や立教大学、千葉大学など5大学が選ばれています。

背景にあるのが、都市部出身の学生が地方の実情を知る機会の減少です。

人口が都市部へ集中すると、地方と直接接点を持たずに成長する若者も増えます。

そこで大学教育の段階から地方へ学生を送り、地域課題について考えてもらおうというわけです。

国、大学、自治体、企業、金融機関などが連携することで、単なる短期体験ではなく地域創生につながる仕組みに発展させる狙いがあります。

1年ごとに暮らす町を変える仕組みもある

さらに一歩進んだ取り組みもあります。

市民大学の「さとのば大学」では、学生が1年ごとに生活する地域を変えながら学びます。

一般的な大学では、学生はキャンパスへ通い、教室で講義を受けます。

これに対して、地域そのものをキャンパスとして考えるわけです。

農家を手伝ったり、地域の施設を運営したり、住民と交流したりしながら学びます。

しかも毎年生活する地域が変われば、そのたびに人間関係を一からつくらなければなりません。

地域によって産業も文化も課題も違います。

その経験を繰り返すことで、知らない環境へ入り、人と関係を築き、自分で仕事や活動をつくる力を身につけることができます。

高校生にも国内留学が広がっている

国内留学の対象は大学生だけではありません。

高校段階でも地方へ留学する仕組みが広がっています。

地域・教育魅力化プラットフォームが運営する「地域みらい留学」では、都道府県の枠を超えて全国各地の公立高校へ進学できます。

参加する高校は190校に達し、累計留学生数は5000人を超えています。

2026年度には1年生の入学者が初めて1000人を突破しました。

これは地方の高校にとって重要な意味を持ちます。

人口減少が進む地域では、子どもの数が減り、高校が定員割れになるケースがあります。

生徒が減り続ければ、学校そのものの存続が難しくなる可能性もあります。

そこで地域外から生徒を受け入れます。

高校を残すことが、地域に若者を呼び込む政策にもなっているのです。

関係人口をつくる仕組みとしても重要になる

国内留学を考えるうえで重要なのが、必ずしも全員に移住してもらう必要はないという点です。

地方創生では「関係人口」という考え方があります。

その地域に住んでいる定住人口でもなく、観光で一度訪れるだけの交流人口でもなく、継続的に地域と関わる人たちです。

国内留学を経験した学生が卒業後に東京で就職したとしても、その地域との関係がなくなるとは限りません。

地域の商品を購入する。

友人を連れて再訪する。

仕事で地域と関わる。

副業やプロジェクトに参加する。

将来移住する。

さまざまな関係が考えられます。

人口そのものをすぐに増やすことが難しい時代だからこそ、まず地域と関係を持つ人を増やすという発想が重要になっています。

国内留学は地方創生の入口になる

これまで地方創生では、企業誘致や移住補助金、住宅支援など多くの政策が行われてきました。

しかし、若者が知らない地域へ突然移住することを期待するだけでは限界があります。

国内留学は、その前段階をつくる仕組みです。

まず地方へ行く。

そこで暮らす。

地域の人と働く。

地域の課題を知る。

そして、その地域との関係を持つ。

その中の一部が就職や移住につながれば、地方にとって新しい人材獲得のルートになります。

地方から都市へ若者が移動する流れを完全に止めることは難しいでしょう。

だからこそ、逆方向に若者が動く仕組みを意図的につくることが重要になります。

国内留学は、教育政策であると同時に、人材政策、移住政策、そして地方創生政策としての意味を持ち始めています。

結論

国内留学とは、都市部などの学生が一定期間地方で暮らし、自治体や企業、農家、地域住民などと関わりながら学ぶ取り組みです。

最大の特徴は、地方を単に訪問するのではなく、地域社会の中に入って暮らしや仕事を経験することにあります。

学生にとっては、大学の教室では得にくい実践的な学びになります。

地方にとっては、若者との新しい接点になります。

そして、その接点が就職や移住、あるいは卒業後も地域と関わり続ける関係人口につながる可能性があります。

地方創生というと「どうすれば移住してもらえるのか」と考えがちです。

しかし、その前に必要なのは「どうすれば地域を知ってもらえるのか」です。

若いうちに地方で暮らした経験があれば、その地域は地図上の知らない町ではなくなります。

国内留学の本当の価値は、地方と若者の間に、将来につながる最初の接点をつくることにあるのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年8月29日 夕刊 国内留学 地方と若者結ぶ

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