資産運用というと、「どの商品が一番増えるのか」を考えがちです。
しかし、数年後に使うことが決まっているお金では、収益性だけを追求することはできません。
例えば3年後の住宅購入資金、5年後の子どもの教育資金、数年後の自動車購入資金などです。
必要になる時期に株価が大きく下落していれば、損失を抱えたまま売却しなければならない可能性があります。
こうした資金では、「いくら増えるか」よりも「必要なときに必要な金額を確保できるか」が重要になります。
そこで考えたいのが、お金を使う時期によって置き場所を変える方法です。
すぐ使うお金、1年以内に使うお金、数年後に使うお金、長期間使わないお金では、適した金融商品が違います。
すぐ使うお金は普通預金が基本になる
日常生活では、いつ必要になるか分からないお金があります。
毎月の生活費だけではありません。
突然、
家電が故障する
自動車を修理する
冠婚葬祭が発生する
住宅設備が壊れる
といった支出が発生することがあります。
こうした資金は、収益性より流動性を優先する必要があります。
普通預金であれば、ATMや振り込みなどを利用して必要なときに資金を動かせます。
金利が多少高いからといって、すぐ必要になる可能性のあるお金まで長期間の商品に移すと、いざというときに使いにくくなります。
普通預金は資産を大きく増やす商品ではなく、「いつでも使える状態を確保する場所」と考えると分かりやすくなります。
生活防衛資金も流動性を重視する
収入が一時的に途絶えた場合などに備える生活防衛資金も、基本的には流動性を重視します。
例えば半年分の生活費を確保するとします。
毎月の生活費が30万円なら180万円です。
この180万円については、高い収益を得ることよりも、必要になったらすぐ引き出せることが重要です。
株式市場が下落しているから引き出せない、国債を購入してから1年経過していないから中途換金できない、といった状態は避けたいところです。
資産運用を始める前に、まず現金として確保しておくべき資金を分けることが重要です。
1年以内に使うお金も元本と流動性を優先する
1年以内に使うことが決まっている資金も、値動きの大きい金融商品には向きません。
例えば半年後に500万円の住宅リフォーム代金を支払う予定があるとします。
この500万円を株式や投資信託で運用して、半年後に600万円になれば確かに利益が出ます。
しかし400万円まで値下がりする可能性もあります。
支払日を株価が回復するまで延期できるとは限りません。
使う時期が近い資金ほど、価格変動リスクを取る余地は小さくなります。
普通預金や使用時期に合わせた短期の定期預金などが候補になります。
個人向け国債は購入後1年間の制約に注意する
個人向け国債は安全性と流動性を兼ね備えた商品ですが、購入後すぐに自由に換金できるわけではありません。
原則として発行から1年を経過するまで中途換金できません。
そのため半年後に使う予定の資金を個人向け国債に入れるのは基本的に適していません。
金利だけを見れば普通預金より魅力的に見える場合でも、使いたいときに使えなければ目的に合いません。
金融商品を選ぶときには、
金利
安全性
流動性
をセットで考える必要があります。
数年後に使うお金では個人向け国債が候補になる
一方、2年後、3年後、5年後などに使う可能性がある資金では、個人向け国債が有力な選択肢になります。
例えば5年後の住宅購入に備えて1000万円を確保しているとします。
株式に投資すれば大きく増える可能性があります。
しかし5年後に株式市場が暴落している可能性もあります。
住宅購入時期を自由に延期できないのであれば、大きな価格変動リスクは取りにくくなります。
個人向け国債であれば、原則として発行から1年経過後は中途換金制度を利用できます。
市場価格で売却する必要がないため、数年後に使う予定の資金を置く場所として使いやすい特徴があります。
変動10年は10年間使えない商品ではない
変動10年という名称を見ると、「10年間資金が拘束される」と思うかもしれません。
しかし10年は満期までの期間です。
原則として発行から1年経過後であれば、中途換金制度を利用できます。
例えば3年後に使う予定のお金を変動10年に入れることも考えられます。
3年後に必要になれば、その時点で中途換金します。
ただし中途換金時には、一定の中途換金調整額が差し引かれます。
したがって「10年満期だから3年後に使うお金には使えない」と単純に考える必要はありません。
金利上昇局面では変動10年が使いやすい
数年後に使う資金について、今後も金利が上昇すると考える場合には変動10年が候補になります。
変動10年は半年ごとに適用利率が見直されます。
市場の長期金利が上昇すれば、受取利子も増える可能性があります。
一方、現在の金利を固定する商品では、購入後に市場金利が上昇しても受取利子は増えません。
数年間は使わないものの、10年間完全に固定したくない資金について、変動10年の商品設計は使いやすいと考えられます。
金利低下を考えるなら固定金利も候補になる
反対に、現在の金利がピークに近く、これから低下すると考えるのであれば固定金利商品にもメリットがあります。
個人向け国債には固定5年と固定3年があります。
購入時に決められた利率が満期まで変わりません。
例えば3年後に使うことが明確な資金であれば、固定3年と使用時期を合わせる考え方があります。
市場金利がその後低下しても、購入時の金利を維持できます。
ただし将来の金利を正確に予測することはできません。
変動と固定のどちらを選ぶかは、金利見通しだけでなく資金を使う時期も考える必要があります。
定期預金は使う時期が明確な資金と相性がよい
定期預金も、数年後に使う資金の置き場所になります。
例えば2年後に500万円必要になることが分かっているのであれば、満期が2年後になる定期預金を利用する方法があります。
満期と資金の使用時期を合わせれば、途中解約を避けやすくなります。
定期預金では金融機関によって金利が異なるため、比較することも重要です。
また一般預金等については、預金保険制度によって一つの金融機関につき預金者1人当たり元本1000万円までとその利息などが原則として保護されます。
多額の預金を保有する場合には、一つの金融機関への集中にも注意が必要です。
普通預金と定期預金と国債は競争相手ではない
普通預金、定期預金、個人向け国債について「どれが一番有利か」と比較したくなります。
しかし、本来は役割が違います。
普通預金は、いつでも使えることが最大の特徴です。
定期預金は、一定期間使わない資金について金利を確保できます。
個人向け国債は、原則1年経過後の中途換金制度を持ちながら国に資金を貸す商品です。
したがって一つの商品にすべての資金を置く必要はありません。
お金の使用時期によって使い分ければよいのです。
10年以上使わないお金なら考え方が変わる
老後まで使わない資金など、10年、20年という長期間使わないお金では考え方が変わります。
長期投資では、一時的な価格下落から回復を待つ時間があります。
そのため株式や投資信託など、価格変動はあるものの長期的な成長を期待できる資産を利用する余地が大きくなります。
例えば20年後に使う1000万円をすべて普通預金に置けば、名目上の元本は維持しやすくても、物価上昇によって実質的な購買力が低下する可能性があります。
長期間使わない資金では、元本の値動きを抑えることだけでなく、インフレに負けない資産形成も重要になります。
使う時期が近づいたら安全資産へ移す
長期投資をしている資金でも、使用時期が近づけばリスクを下げる考え方があります。
例えば10年後に住宅を購入するため、当初は株式投資信託で運用していたとします。
住宅購入まであと2年になった時点でも全額を株式に置いていれば、購入直前の株価暴落によって資金が不足する可能性があります。
そこで使用時期が近づくにつれて、
株式や投資信託
個人向け国債や定期預金
普通預金
へと段階的に移していく方法があります。
資産運用では、最初に何を買うかだけでなく、いつ安全資産へ移すかも重要です。
お金に名前を付けると置き場所を決めやすい
資産全体を一つの金額として考えると、金融商品の選択が難しくなります。
例えば金融資産が3000万円ある場合でも、
生活防衛資金300万円
2年後の自動車購入資金500万円
5年後の住宅関連資金700万円
老後まで使わない資金1500万円
というように目的を分けることができます。
すると置き場所も考えやすくなります。
生活防衛資金は普通預金。
2年後の資金は定期預金や条件に合う安全性の高い商品。
5年後の資金は個人向け国債など。
老後まで使わない資金は長期投資。
このように資金の目的と金融商品を対応させます。
高い金利だけで置き場所を決めない
金利のある時代になると、金融機関や国債の商品を比較する機会が増えます。
年1パーセント
年1.5パーセント
年2パーセント
と数字が並ぶと、最も高い商品を選びたくなります。
しかし、金利が高くても必要なときに引き出せなければ意味がありません。
途中売却で価格が下落する商品なら、元本が必要な時期に不足する可能性があります。
反対に、すべてのお金を普通預金に置けば流動性は高いものの、長期間使わない資金まで低い収益率で保有することになります。
重要なのは最高金利の商品を探すことではありません。
そのお金をいつ使うのかに合った商品を選ぶことです。
資産運用の前に資金を時間で分ける
資産運用を考えるときには、最初に金融商品を選ぶのではなく、資金を時間軸で分ける方法があります。
例えば、
すぐ使うお金
1年以内に使うお金
数年後に使うお金
長期間使わないお金
です。
そのうえで、それぞれに適した金融商品を選びます。
すぐ使う資金では流動性。
数年後の資金では元本の安定性と一定の収益性。
長期資金では成長性。
重視するものが変わります。
金融商品を先に選ぶのではなく、お金を使う時期を先に決めることが重要なのです。
結論
数年後に使うお金の置き場所を考えるときに最も重要なのは、最高の金利を探すことではありません。
そのお金をいつ使うのかを明確にすることです。
すぐ使う可能性のある生活資金や生活防衛資金は、流動性の高い普通預金が基本になります。
1年以内に使うことが決まっている資金も、価格変動を避け、使用時期に確実に用意できることを優先します。
一方、2年後、3年後、5年後などに使う資金では、定期預金や個人向け国債が候補になります。
特に個人向け国債は原則として発行から1年経過後に中途換金できるため、数年後に使う可能性のある資金との相性があります。
さらに長期間使わない資金については、株式や投資信託などを利用した長期投資も選択肢になります。
普通預金、定期預金、個人向け国債、長期投資は、どれか一つを選ぶものではありません。
それぞれ役割が違います。
すぐ使うお金は流動性を優先する。
数年後に使うお金は元本の安定性を優先する。
長期間使わないお金は成長性を考える。
このように時間軸で資金を分けることで、必要なときにお金が足りなくなるリスクを抑えながら、金利のある時代のメリットも活用できます。
資産運用で最初に決めるべきなのは「何を買うか」ではありません。
「このお金をいつ使うのか」です。
使用時期が決まれば、普通預金、定期預金、個人向け国債、長期投資の役割も自然に見えてきます。
参考
日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 <ステップアップ>「変動10年」金利上昇に強く 中途売却でも元本確保