財務報告に係る内部統制とは何か 決算書の数字が正しく作られる仕組み編

会計

会社の決算書には、売上高、利益、現金、売掛金、在庫、借入金など、さまざまな数字が記載されています。

しかし、これらの数字は決算日に突然作られるものではありません。

営業担当者が商品を販売します。

購買担当者が商品や原材料を仕入れます。

経理担当者が取引を会計システムへ記録します。

工場や倉庫では在庫を管理します。

子会社があれば、それぞれの会社から決算情報を集めます。

こうした日々の取引や情報が積み重なって、最終的な決算書になります。

そのため、正しい決算書を作るには、完成した決算書だけをチェックするのでは十分ではありません。

数字が作られる途中の仕組みも正しくなければなりません。

そこで重要になるのが、財務報告に係る内部統制です。

簡単にいえば、

「正しい決算書などの財務報告を作るために会社が設けている仕組み」

です。

財務報告とは何か

財務報告というと、貸借対照表や損益計算書を思い浮かべる人が多いでしょう。

もちろん、これらは財務報告の重要な部分です。

貸借対照表には、会社が保有している資産や負債などが記載されます。

損益計算書には、一定期間の売上高や費用、利益などが記載されます。

しかし、財務報告に係る内部統制で考える財務報告は、単に決算書の数字だけに限られるものではありません。

有価証券報告書などに含まれる財務諸表や、財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項なども関係します。

投資家は企業の財務情報を見ながら、その会社の収益力や財政状態などを判断します。

だからこそ、その情報が信頼できることが重要になります。

財務報告に係る内部統制とは何か

財務報告に係る内部統制とは、財務報告の信頼性を確保するための会社内部の仕組みです。

たとえば売上高を考えてみます。

会社が商品を販売したら、販売情報を記録します。

請求書を発行します。

そのデータを会計システムへ反映します。

売掛金を計上します。

代金が入金されたら売掛金を消し込みます。

決算時には売掛金残高が正しいか確認します。

こうした一連の業務が適切に行われて初めて、損益計算書の売上高や貸借対照表の売掛金が正しい数字になります。

途中のどこかに問題があれば、最終的な財務報告にも誤りが生じる可能性があります。

そこで会社は、

取引を誰が承認するのか。

誰がシステムへ入力するのか。

入力された内容を誰が確認するのか。

異常な取引をどう発見するのか。

問題が発見された場合に誰へ報告するのか。

といった仕組みを整えます。

これが財務報告に係る内部統制です。

決算書は日々の取引から作られる

財務報告に係る内部統制を理解するうえで重要なのは、

「決算書は日常業務の結果である」

ということです。

たとえば年間売上高1000億円の会社があったとします。

決算日に経理部が1000億円という数字を一から作るわけではありません。

全国の営業所や店舗、工場、子会社などで毎日発生した売上を積み上げた結果として1000億円になります。

つまり、最終的な1000億円だけを確認しても、その数字が正しいかを十分に判断することはできません。

架空の売上が混ざっていないか。

同じ売上が二重に計上されていないか。

翌年度の売上を前倒ししていないか。

実際に商品を引き渡した時点で売上を計上しているか。

こうした点を日々の業務の中で確認する仕組みが必要です。

財務報告に係る内部統制は、決算部門だけではなく、日常業務から始まっているのです。

決算業務との関係

日々の取引が正しく処理されていても、決算時にはさらにさまざまな処理が必要になります。

減価償却費を計算します。

棚卸資産を評価します。

貸倒引当金などを計算します。

税金を計算します。

子会社があれば連結決算を行います。

グループ会社間の取引を消去します。

会計上の見積りが必要になる項目もあります。

こうした決算処理は、日常的な取引処理とは違い、専門的な判断が必要になることがあります。

そのため、

誰が計算するのか。

誰が会計処理を判断するのか。

誰が承認するのか。

根拠資料が保存されているか。

前年と大きく変化している数字がないか。

といったチェックが必要になります。

このような決算や財務報告そのものに関する内部統制も非常に重要です。

経理部だけでは正しい決算書を作れない

決算書を作る部署というと経理部を想像します。

しかし、実際には経理部だけで正しい決算書を作ることはできません。

売上情報を持っているのは営業部門です。

在庫情報を持っているのは工場や物流部門かもしれません。

固定資産については設備を管理する部門が関係します。

人件費については人事部門が関係します。

ITシステムについては情報システム部門が関係します。

子会社があれば、その子会社の経理部門や経営者も関係します。

つまり財務報告は、会社全体の情報を集めて作られています。

経理部は、その情報を会計ルールに従ってまとめる重要な役割を持っていますが、元になる情報が間違っていれば正しい決算書を作ることはできません。

そのため財務報告に係る内部統制は、経理部門だけではなく会社全体に関係します。

会計システムとの関係

現在の企業では、財務報告の多くがITシステムに依存しています。

店舗で商品が売れると、販売システムにデータが記録されます。

その情報が会計システムへ自動的に送られることがあります。

給与システムから人件費のデータが送られることもあります。

固定資産システムから減価償却費が計算される場合もあります。

つまり、人が仕訳を一件ずつ入力しなくても、さまざまなシステムから会計情報が作られています。

そこで重要になるのが、システムに関する内部統制です。

誰でも会計データを書き換えられる状態では困ります。

担当者ごとにアクセス権限を設定します。

重要なデータを変更した記録を残します。

システムを変更するときには事前にテストします。

データが正しく会計システムへ転送されているか確認します。

システム障害に備えてバックアップを取ることも必要です。

財務報告の信頼性は、会計知識だけでなくIT管理にも支えられているのです。

自動化すれば内部統制が不要になるわけではない

業務のデジタル化が進むと、

「人が入力しないのでミスは起きない」

と思うかもしれません。

しかし、システムにもリスクがあります。

たとえば売上データを会計システムへ転送するプログラムそのものが間違っていれば、大量の取引が同じように誤って処理される可能性があります。

アクセス権限の設定が間違っていれば、本来変更できない社員が会計データを書き換えられるかもしれません。

そのため、自動化が進むほど、

プログラムが正しく設定されているか。

誰がシステムを変更できるのか。

変更内容を誰が承認するのか。

異常が発生したときに検知できるのか。

といった統制が重要になります。

人によるチェックから、システムを管理するチェックへ形が変わるだけなのです。

経営者は何を評価するのか

J SOXでは、経営者が財務報告に係る内部統制の有効性を評価します。

ただし、経営者がすべての伝票や仕訳を一件ずつ確認するわけではありません。

会社の中で財務報告に重大な影響を与える可能性がある業務を把握します。

そのうえで、そのリスクを防止したり発見したりするための内部統制が存在するかを確認します。

さらに、その内部統制が実際に運用されているかを評価します。

たとえば、

一定金額以上の売上は上司が承認する。

というルールがあるとします。

規程に書いてあるだけでは十分ではありません。

実際の取引を調べて、本当に上司が内容を確認して承認しているかを評価する必要があります。

内部統制では、

「仕組みがあること」

「仕組みが動いていること」

の両方が重要なのです。

なぜ経営者が評価するのか

財務報告に係る内部統制を評価するのは、基本的に経営者です。

ここには重要な意味があります。

財務報告は経理部門だけの責任ではありません。

正しい財務報告を作れる組織を構築することは経営そのものだからです。

もし営業部門が無理な売上目標を課され、売上を前倒ししなければ達成できない状態になっていれば、単なる経理処理の問題ではありません。

子会社から重要な問題が本社へ報告されない組織になっていれば、それも経理部だけの問題ではありません。

会社の業績目標。

組織構造。

人事評価。

権限。

情報伝達。

こうした経営上の仕組みも、財務報告の信頼性に影響します。

だからこそ、最終的な責任を経営者が負います。

内部統制に問題が見つかったらどうするのか

内部統制を評価すれば、問題が見つかることもあります。

問題が見つかったからといって、直ちに決算書全体が間違っているという意味ではありません。

たとえば、本来二人で確認する業務を一人で行っていたという問題が見つかったとします。

実際の数字には間違いがなかったかもしれません。

それでも、将来重大な誤りが発生する可能性があるため、内部統制上の問題として検討する必要があります。

会社は問題の重要性を判断し、必要に応じて改善します。

担当者を増やす。

承認手続きを変更する。

システム上のチェックを追加する。

経営者への報告ルートを見直す。

こうした改善を繰り返すことで、財務報告の信頼性を高めていきます。

今回の確認書厳格化との関係

金融庁が検討している確認書の厳格化でも、

「正確な有価証券報告書を作るための仕組み」

が重要なテーマになっています。

経営者は有価証券報告書の完成した内容だけではなく、正確な有価証券報告書を作成し開示する手続きが整備され、そのチェック体制が実際に機能しているかを自ら点検したことまで確認書に記載する方向です。

財務報告に係る内部統制は、まさに正しい財務情報を作るための仕組みです。

ただし、有価証券報告書には財務情報だけでなく、さまざまな非財務情報も含まれています。

そのため、今回の確認書厳格化を理解するときには、J SOXによる財務報告に係る内部統制と、有価証券報告書全体の作成や開示に関する手続きを区別して考えることも重要になります。

結論

財務報告に係る内部統制とは、正しい決算書などの財務報告を作るために会社が設ける仕組みです。

決算書の数字は、決算日に突然作られるものではありません。

営業、購買、製造、物流、人事、経理、IT、子会社など、会社のさまざまな業務から生まれた情報が集まって最終的な財務報告になります。

そのため、完成した決算書だけを確認するのではなく、数字が作られる途中の仕組みを正しくする必要があります。

取引を誰が承認するのか。

誰が会計システムへ入力するのか。

誰が確認するのか。

システムへのアクセス権限は適切か。

異常があれば経営者まで報告されるのか。

こうした一つ一つの仕組みが財務報告の信頼性を支えています。

そしてJ SOXでは、その仕組みが有効に機能しているかを経営者自身が評価します。

正しい決算書を作るためには、最後に数字を確認するだけでは足りません。

正しい数字が自然に積み上がっていく会社の仕組みを作る。

それが財務報告に係る内部統制の基本的な考え方です。

参考

日本経済新聞 2026年8月29日 朝刊 会計、経営者自ら確認 不正防止へ「宣言」義務付け 金融庁

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