上場企業の経営者は、有価証券報告書を提出するときに確認書を提出します。
ところが、もう一つよく似た名前の書類があります。
内部統制報告書です。
確認書も内部統制報告書も、有価証券報告書の信頼性を高めるための制度です。
しかも、どちらも経営者が関与します。
そのため、
「同じような書類をなぜ二つ提出するのか」
と疑問に思うかもしれません。
この違いを理解するポイントは、何を確認しているのかです。
確認書は、
「有価証券報告書の記載内容は適正です」
と経営者が確認する書類です。
これに対して内部統制報告書は、
「正しい財務報告を作るための社内の仕組みを経営者が評価しました」
と報告する書類です。
つまり、確認書が最終的に出来上がった情報を確認する仕組みだとすれば、内部統制報告書は、その情報を作り出す社内の仕組みを評価する制度だと考えると分かりやすくなります。
確認書の役割
確認書とは、有価証券報告書などの記載内容が金融商品取引法令に基づいて適正に記載されていることを、経営者が確認した旨を示す書類です。
上場企業などが有価証券報告書を提出するときには、その有価証券報告書について確認書も提出します。
有価証券報告書には、売上高、利益、資産、負債などの財務情報だけではなく、事業内容、経営上のリスク、設備、役員、株式などさまざまな情報が記載されています。
投資家は、こうした情報をもとに投資判断をします。
そこで経営者自身が、
「この有価証券報告書の記載内容が適正であることを確認しました」
と表明するのが確認書です。
つまり確認書の中心にあるのは、有価証券報告書などの記載内容です。
経理担当者が作成したから提出するのではありません。
最終的には経営トップが情報開示に責任を持つという考え方です。
内部統制報告書の役割
これに対して内部統制報告書は、見る対象が違います。
内部統制報告制度の対象会社は、会社や企業集団における財務報告に係る内部統制について評価し、その結果を内部統制報告書として提出します。
簡単にいえば、
「正しい決算書を作るための会社の仕組みが有効に機能しているか」
を経営者が評価する制度です。
たとえば売上高を考えてみます。
会社が売上高1000億円と有価証券報告書に記載したとします。
確認書では、その有価証券報告書の記載内容が適正であることを経営者が確認します。
一方、内部統制報告書では、
売上を計上するときに必要な承認が行われているか。
架空売上を防止する仕組みがあるか。
売上データが会計システムへ正しく反映されているか。
子会社から正しい数字が報告されているか。
決算時に必要なチェックが行われているか。
といった、正しい数字を作るための仕組みの有効性を評価します。
同じ売上高1000億円を支える制度でも、見ている対象が違うのです。
完成した数字と数字を作る仕組みの違い
確認書と内部統制報告書の違いは、料理に例えると分かりやすくなります。
完成した料理が有価証券報告書だとします。
確認書は、
「完成した料理を確認しました」
という書類です。
内部統制報告書は、
「正しい料理を作るための厨房の仕組みが適切に機能しているかを評価しました」
という書類です。
食材を管理する仕組みがあるか。
調理手順が決められているか。
担当者とは別の人が確認しているか。
異常があれば責任者へ報告されるか。
こうした仕組みを確認するイメージです。
会社の財務報告でも同じです。
最終的な数字だけを見るのではなく、その数字がどのような仕組みを通って作られたのかを見る必要があります。
内部統制とは何か
そもそも内部統制とは、企業が業務を適正に行うために社内に設けるさまざまな仕組みのことです。
たとえば、商品を販売した営業担当者が、自分で売上を承認し、自分で会計処理までできる会社を考えてみます。
この状態では、架空売上を計上しても誰も気づかない可能性があります。
そこで、
営業担当者が取引を行う。
上司が取引内容を承認する。
経理担当者が証拠書類を確認する。
会計システムに記録する。
決算時に別の担当者が残高を確認する。
といった形で仕事を分けます。
複数の人が関与することで、不正やミスを発見しやすくします。
こうした仕組みが内部統制です。
そして財務報告に関係する内部統制について、経営者がその有効性を評価して報告するのが内部統制報告制度です。
記載内容はどう違うのか
確認書と内部統制報告書では、記載する内容も異なります。
確認書では、代表者や最高財務責任者の役職や氏名などを記載し、有価証券報告書の記載内容が金融商品取引法令に基づいて適正であることを確認した旨を記載します。
これに対して内部統制報告書では、財務報告に係る内部統制について、評価の基準日、評価の範囲、評価手続、評価結果などを記載します。
内部統制に問題があれば、その内容も重要になります。
つまり確認書は、
「有価証券報告書の内容」
についての確認です。
内部統制報告書は、
「有価証券報告書などの財務報告を正しく作るための仕組み」
についての評価です。
この違いを押さえると、二つの制度を区別しやすくなります。
内部統制報告書には監査がある
もう一つ重要なのが監査との関係です。
財務報告に係る内部統制については、まず経営者が自社の内部統制を評価します。
そして、その評価結果を内部統制報告書に記載します。
さらに、内部統制報告書は監査法人などの監査対象になります。
ここでも役割が分かれています。
内部統制を整備して運用するのは会社です。
内部統制を評価するのは経営者です。
その経営者による評価について監査するのが監査法人などです。
監査法人が会社に代わって内部統制を作るわけではありません。
自社の財務報告を正しく作る仕組みについて最初に責任を負うのは、あくまで会社の経営者です。
なぜ二つの書類が必要なのか
それでは、なぜ確認書と内部統制報告書の二つが必要なのでしょうか。
理由は、正しい財務情報を作るためには、
「結果」
と
「プロセス」
の両方を見る必要があるからです。
有価証券報告書の数字が正しくても、社内のチェック体制が弱ければ、たまたま今回は間違いが表面化しなかっただけかもしれません。
逆に、内部統制が整備されていても、人間が業務を行う以上、絶対に間違いが起きないとは限りません。
そこで、
有価証券報告書の内容そのものを経営者が確認する確認書。
その財務情報を作る内部統制を経営者が評価する内部統制報告書。
この二つを組み合わせます。
完成した情報と、その情報を作る仕組みの両方から信頼性を高めようとしているのです。
二つの制度は同じ時期に導入された
確認書制度と内部統制報告制度は、偶然並んで存在している制度ではありません。
いずれも2006年の金融商品取引法制の改正によって導入され、2008年4月1日以後に開始する事業年度から適用されました。
背景には、国内外で発生した不正会計や不適正な情報開示があります。
会社が、
「この決算書は正しいです」
と言うだけでは、投資家から十分な信頼を得られない場合があります。
そこで、経営者自身に有価証券報告書の適正性を確認させると同時に、その有価証券報告書を支える財務報告に係る内部統制についても評価させる仕組みが整えられました。
二つの制度は別々の役割を持ちながら、企業の情報開示の信頼性を高めるという同じ目的につながっています。
今回の確認書改正で二つの制度が近づく
ここで注目されるのが、今回検討されている確認書制度の厳格化です。
現行の確認書では、有価証券報告書の記載内容が適正であることを経営者が確認することが中心になっています。
ところが今回の見直しでは、正確な有価証券報告書を作成して開示するための手続きが社内で整備されていることや、そのチェック体制が実際に機能しているかを経営者自身が点検したことまで記載させる方向です。
そうなると、
「有価証券報告書の内容を確認する確認書」
と
「財務報告に係る内部統制を評価する内部統制報告書」
の関係が、これまで以上に重要になります。
ただし、確認書と内部統制報告書が同じ書類になるわけではありません。
確認書は有価証券報告書などの開示内容について経営者が確認する制度です。
内部統制報告書は財務報告に係る内部統制について経営者が評価する制度です。
それぞれの役割を持ちながら、経営者の情報開示に対する責任を強める方向に進んでいると考えると分かりやすいでしょう。
結論
確認書と内部統制報告書は、どちらも企業の情報開示の信頼性を高めるための制度ですが、確認している対象が違います。
確認書は、有価証券報告書などの記載内容が適正であることを経営者が確認した旨を示す書類です。
内部統制報告書は、正しい財務報告を作るための内部統制について経営者が評価し、その結果を報告する書類です。
簡単に整理すれば、
確認書は完成した情報を見る制度。
内部統制報告書は、その情報を作る仕組みを見る制度です。
正しい有価証券報告書を作るためには、最終的な数字が正しいだけでは足りません。
その数字が正しく作られる仕組みも必要です。
だからこそ、確認書と内部統制報告書という二つの制度が存在します。
経営者は、
「出来上がった有価証券報告書は適正か」
だけではなく、
「そもそも正しい財務情報を作れる会社になっているか」
についても責任を負っているのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月29日 朝刊 会計、経営者自ら確認 不正防止へ「宣言」義務付け 金融庁