上場企業は毎年、有価証券報告書を提出しています。
有価証券報告書には、売上高や利益、資産、負債といった財務情報だけでなく、事業内容、経営上のリスク、役員、株式、設備、サステナビリティなど、企業を判断するためのさまざまな情報が記載されています。
ところが、会社が有価証券報告書を提出するときには、有価証券報告書だけを提出して終わりではありません。
その内容が適正に記載されていることを経営者が確認したことを示す確認書も提出します。
つまり、
「経理部や財務部が作ったので会社として提出します」
というだけではなく、
「経営トップである自分も、この有価証券報告書が適正に記載されていることを確認しました」
と経営者自身の名前で表明する仕組みになっているのです。
この確認書について、金融庁はさらに内容を厳格化する方向です。
今後は完成した有価証券報告書の内容だけではなく、有価証券報告書を正しく作成し開示するための社内手続きが整備され、その仕組みが実際に機能していることまで経営者自身が確認する方向になります。
確認書とは何か
確認書とは、有価証券報告書などの記載内容が金融商品取引法令に基づいて適正に記載されていることを、経営者が確認した旨を記載する書類です。
確認書制度は金融商品取引法に基づく制度です。
現在の確認書には、代表者や最高財務責任者の役職や氏名などが記載されます。
そのうえで、有価証券報告書の記載内容が金融商品取引法令に基づいて適正に記載されていることを確認した旨を記載します。
ここで重要なのが、
「会社が確認した」
ではなく、
「経営者が確認した」
という点です。
会社の情報開示に対する経営者の責任を明確にする役割を持っています。
有価証券報告書は投資家が投資判断をするための重要な資料です。
そこに虚偽の情報が含まれていれば、投資家が誤った判断をする可能性があります。
そのため、正確な情報を開示する責任を経理部門などの実務担当者だけに負わせるのではなく、経営トップにも自覚させる仕組みとして確認書制度が設けられています。
誰が提出するのか
確認書制度の対象となる代表的な企業は、上場株券などを発行している会社です。
ただし、実際に書類を作成する担当者と、確認書に名前を記載する経営者は区別して考える必要があります。
有価証券報告書そのものは、経理部、財務部、法務部、経営企画部、IR部門など多くの部署が関与して作成することがあります。
連結決算であれば、国内外の子会社から情報を集める必要もあります。
しかし、確認書では代表者が有価証券報告書の記載内容が適正であることを確認した旨を示します。
最高財務責任者を定めている会社では、最高財務責任者についても役職や氏名が記載されます。
つまり、数百人、数千人、場合によっては数万人が働いている会社であっても、最終的には経営トップが会社の情報開示に責任を持つという考え方です。
なぜ社長が確認するのか
大企業の社長が有価証券報告書に記載されたすべての数字を一つずつ確認することは現実的ではありません。
売上伝票や仕訳を社長自身が確認するわけではありません。
それでも経営者による確認が必要なのは、正しい情報を開示できる会社の仕組みを作ること自体が経営者の役割だからです。
たとえば、ある営業担当者が架空の売上を計上したとします。
経理担当者がそれを見抜けなかった場合、
「営業担当者と経理担当者の問題だった」
だけで終わらせることはできません。
なぜ架空売上を計上できたのか。
売上を承認する仕組みはあったのか。
請求書や契約書との照合は行われていたのか。
異常な取引を検知する仕組みはあったのか。
内部監査は機能していたのか。
こうした仕組みを整えることは経営管理そのものだからです。
確認書には、会社の情報開示を現場任せにしないという意味があります。
有価証券報告書との関係
確認書は、それだけで独立して企業の経営状況を説明する書類ではありません。
有価証券報告書などとセットで考える必要があります。
有価証券報告書が、
「会社の経営状況や財務状況などを投資家に説明する書類」
だとすれば、確認書は、
「その有価証券報告書が適正に記載されていることを経営者が確認したと示す書類」
と考えると分かりやすくなります。
たとえば有価証券報告書に売上高1兆円と記載されているとします。
確認書に売上高1兆円という数字をもう一度書くわけではありません。
確認書では、有価証券報告書全体について、その記載内容が金融商品取引法令に基づいて適正であることを経営者が確認した旨を示します。
有価証券報告書が情報そのものだとすれば、確認書はその情報に対する経営者の確認という位置付けです。
確認書制度はなぜ作られたのか
確認書制度は、財務報告に係る内部統制報告制度とともに2006年の金融商品取引法制の改正で導入され、2008年4月1日以後に開始する事業年度から適用されました。
背景には、国内外で相次いだ不正会計や不適正な情報開示があります。
企業が正しい情報を開示するためには、経理担当者や監査法人だけではなく、経営者自身が情報開示に責任を持つ必要があります。
そこで、経営者が有価証券報告書などの記載内容を確認したことを明確にする制度が導入されました。
重要なのは、経営者に細かな会計実務を行わせることではありません。
経営者自身に、
「会社が外部へ公表する情報について最終的な責任を持っている」
という意識を持たせることに制度の大きな意味があります。
現在の確認書には何が書かれているのか
現行制度では、代表者や最高財務責任者が、有価証券報告書の記載内容が金融商品取引法令に基づいて適正に記載されていることを確認した旨などを記載します。
つまり、確認の中心となっているのは有価証券報告書の記載内容です。
ここで問題になるのが、
「正しい有価証券報告書を作る仕組みそのものについてはどうなのか」
という点です。
有価証券報告書が最終的に正しく見えていても、作成過程のチェック体制が弱ければ、将来大きな誤りや不正が発生する可能性があります。
反対に、経営者が有価証券報告書の作成過程や開示手続きを日頃から確認していれば、不正や誤りを早い段階で発見できる可能性があります。
そこで今回、確認書制度をさらに踏み込んだものにすることが検討されています。
今回の改正で何が変わるのか
金融庁は、2027年春にも内閣府令を改正し、確認書の記載内容を厳格化する方針です。
ポイントは、完成した有価証券報告書の内容だけではなく、その有価証券報告書を作る仕組みにまで経営者の確認を広げることです。
具体的には、正確な有価証券報告書を作成し開示するための手続きが社内に整備されていることを確認します。
さらに、そのチェック体制が実際に機能しているかについて経営者自身が点検したことも確認書に記載する方向です。
ここには大きな違いがあります。
社内規程に、
「売上計上は上司の承認を受ける」
と書いてあるだけでは十分ではありません。
本当に上司が確認しているのか。
形式的に承認ボタンを押しているだけではないのか。
異常な売上が発生したときに検知できるのか。
問題があれば経営陣まで報告されるのか。
仕組みを作っただけではなく、その仕組みが動いていることまで経営者が意識することになります。
社長が知らなかったでは済みにくくなる
今回の改正が実施されれば、会計不正が発覚したときの経営者の説明にも影響すると考えられます。
これまで以上に、
「担当部署に任せていた」
「経理部から報告を受けていなかった」
「子会社で行われていたので知らなかった」
という説明だけでは済みにくくなります。
なぜなら経営者自身が、正確な有価証券報告書を作成するための手続きが整備され、その仕組みが実際に機能していることを確認したと公的な書類で表明することになるからです。
もちろん、社長自身がすべての取引を確認することを意味するわけではありません。
重要なのは、
「正しい情報が経営トップまで上がってくる仕組みになっているか」
を経営者が確認することです。
経営者に求められるのは会計担当者になることではなく、正しい会計情報が作られる会社を経営することなのです。
結論
有価証券報告書の確認書とは、有価証券報告書などの記載内容が金融商品取引法令に基づいて適正に記載されていることを、経営者が自ら確認した旨を示す書類です。
有価証券報告書が企業の経営状況や財務状況などを投資家に伝える書類であるのに対し、確認書は、その情報の適正性を経営者が確認したことを示す役割を持っています。
今回の制度見直しで重要なのは、経営者の確認対象が完成した有価証券報告書から、その作成や開示を支える仕組みにまで広がることです。
正確な有価証券報告書を作成する手続きがあるのか。
そのチェック体制が本当に機能しているのか。
そこまで経営者自身が確認する方向になります。
つまり今回の改正は、社長に会計の細かな数字をすべて確認させる制度ではありません。
経営者に対して、
「正しい数字が作られる会社の仕組みそのものに責任を持ってください」
と求める制度だと考えると分かりやすいでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月29日 朝刊 会計、経営者自ら確認 不正防止へ「宣言」義務付け 金融庁