在宅医療とは何か 病院のベッドを増やさず高齢者を支える仕組み編

人生100年時代
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高齢者が増えれば、病院のベッドも同じように増やさなければならないのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

病院へ入院しなくても、自宅などで医師や看護師による医療を受けられる仕組みがあります。

それが在宅医療です。

2040年に向けて85歳以上の高齢者が増える一方、人口減少によって医師や看護師などの働き手は不足していきます。

すべての高齢者を病院で支えることには限界があります。

そこで急性期の治療が終わった患者にはできるだけ生活の場へ戻ってもらい、必要な医療を自宅などで提供する体制が重要になります。

地域医療構想も、病院の病床だけを考える政策から、外来医療や在宅医療、介護まで含めて地域全体の医療提供体制を考える方向へ広がっています。

在宅医療とは何か

在宅医療とは、通院が難しい患者などに対して、医師や看護師などが患者の生活する場所を訪問して提供する医療です。

在宅という言葉が使われていますが、必ずしも一般の住宅だけを意味するわけではありません。

患者が生活している場所で医療を受けるという考え方が基本になります。

高齢になると、病院まで定期的に通うことが難しくなる人が増えます。

歩行が難しい。

認知機能が低下している。

複数の病気を抱えている。

介護が必要になっている。

こうした患者に対して、医療側から生活の場へ出向く仕組みが重要になります。

訪問診療とは何か

在宅医療の中心となる仕組みの一つが訪問診療です。

訪問診療では、医師があらかじめ診療計画を立て、定期的に患者の自宅などを訪問します。

たとえば月に一定回数訪問し、患者の状態を確認します。

薬の調整を行うこともあります。

慢性疾患の管理も行います。

必要に応じて訪問看護や介護サービスなどとも連携します。

患者が病院へ出向くのではなく、医療者が患者の生活する場所へ行く点が一般的な外来診療との大きな違いです。

往診との違い

訪問診療と混同されやすいものに往診があります。

どちらも医師が患者のいる場所へ出向くという点では同じです。

違いは、基本的に計画的な診療か臨時の診療かという点にあります。

訪問診療は、通院が難しい患者などに対して計画的、継続的に行われます。

一方、往診は患者の状態が急に悪くなった場合などに、患者や家族などからの求めを受けて医師が出向いて診療するものです。

定期的な訪問診療を受けながら、急な体調変化があったときには往診を受けるという形も考えられます。

在宅医療は医師だけでは成り立たない

在宅医療というと、医師が自宅へ来て診察する場面だけを想像しやすいかもしれません。

しかし実際には多くの職種が関係します。

訪問看護を行う看護師。

薬を届けたり服薬を支援したりする薬剤師。

リハビリを行う専門職。

歯科医師や歯科衛生士。

介護サービスを提供する職員。

ケアマネジャー。

高齢者の場合、医療と介護の両方を必要とすることも珍しくありません。

そのため在宅医療は、一人の医師だけで患者を支える仕組みではなく、多職種が連携して生活を支える仕組みと考える必要があります。

なぜ病院から在宅へ移行するのか

病院には病院でなければ提供できない医療があります。

大きな手術。

集中治療。

高度な検査。

24時間の厳格な全身管理。

こうした治療が必要な患者は入院する必要があります。

一方、状態が安定した後もすべての患者が病院に入院し続ける必要があるとは限りません。

自宅などで生活しながら必要な医療を受けられる患者もいます。

病院でなければできない医療と、生活の場でも提供できる医療を分けることで、限られた病床を本当に入院が必要な患者へ使いやすくなります。

病床を増やさず高齢者を支える

高齢者が増えるたびに病床を増やす方法には限界があります。

病床を増やせば建物が必要です。

医師も必要です。

看護師も必要です。

さらに病院を維持するための費用もかかります。

しかも2040年に向けて日本全体の人口は減少します。

将来さらに人口が減ったとき、大量に増設した病床が余る可能性もあります。

そこで、すべての医療需要を病床で受け止めるのではなく、在宅医療という別の受け皿を整備することが重要になります。

急性期病院から在宅へ直接戻れるとは限らない

ただし急性期治療が終わった患者を、すぐ自宅へ戻せばよいわけではありません。

特に高齢者では、入院によって身体機能が低下する場合があります。

病気は治っていても歩けない。

食事が十分にできない。

一人でトイレへ行けない。

こうした状態では自宅へ戻ることが難しい場合があります。

そこで急性期と在宅の間をつなぐ機能が重要になります。

包括期などの病床でリハビリや退院支援を行い、生活できる状態を整えてから自宅へ戻るという流れです。

急性期から包括期そして在宅へ

2040年の地域医療では、患者を一つの病院だけで完結させるのではなく、状態に応じて医療機能を移ってもらう考え方が重要になります。

重症のときには急性期病院で治療します。

状態が安定すれば包括期などへ移ります。

そこでリハビリや退院支援を受けます。

自宅で生活できるようになれば退院します。

その後、通院が難しい場合には訪問診療や訪問看護などを利用します。

患者の状態に合わせて、医療を提供する場所を変えていくわけです。

在宅医療が増えても病院は必要

在宅医療を増やせば病院が不要になるわけではありません。

在宅療養中の患者でも、突然状態が悪化することがあります。

肺炎になることがあります。

心不全が悪化する場合もあります。

転倒して骨折する可能性もあります。

その場合には病院での治療が必要になります。

したがって在宅医療を拡大するほど、急変した患者を受け入れる病院との連携が重要になります。

在宅医療と病院医療は競争するものではなく、お互いを支える仕組みなのです。

高齢者救急との関係

在宅医療を受ける高齢者が増えれば、在宅療養中の救急対応も増える可能性があります。

体調が悪化するたびに救急車を呼び、大規模な急性期病院へ搬送する仕組みだけでは、救急医療の負担が大きくなります。

日常的に患者を診ている医師が状態を把握していれば、往診で対応できる場合もあります。

入院が必要な場合でも、患者の状態に応じて適切な病院へつなぐことができます。

高齢者救急と在宅医療を別々に考えるのではなく、一つの地域医療体制として設計することが重要になります。

介護との連携が欠かせない

高齢者が自宅で生活するためには、医療だけでは足りない場合があります。

食事。

入浴。

排せつ。

移動。

こうした日常生活の支援が必要になることがあります。

これは主として介護サービスの役割です。

医師が定期的に訪問しても、日常生活そのものを24時間支えることはできません。

そのため在宅医療を増やすには、訪問介護や通所介護などの介護サービスも必要になります。

医療の病床を減らす一方で介護の受け皿が不足すれば、患者を病院から地域へ移すことはできません。

家族だけに負担を移してはいけない

在宅医療を進めるときに注意しなければならないのが家族の負担です。

病院から患者を退院させれば医療費や病床を節約できるとしても、その負担が家族へ移るだけでは持続可能な仕組みとはいえません。

高齢者だけの世帯も増えています。

一人暮らしの高齢者もいます。

家族が遠方に住んでいる場合もあります。

在宅医療を拡大するのであれば、医療、介護、生活支援などを組み合わせ、家族がいなくても一定程度生活できる仕組みを整える必要があります。

在宅医療にも人材が必要

在宅医療は病院より人手がかからないとは限りません。

医師や看護師が患者の自宅まで移動する必要があります。

人口密度の低い地域では、一人の患者から次の患者まで長時間移動しなければならない場合があります。

夜間や休日の対応も必要です。

在宅医療を担う医師や訪問看護師が不足すれば、病院から患者を退院させたくても受け皿がありません。

2040年の地域医療では、病床数だけでなく在宅医療を担う人材をどのように確保するのかも大きな課題になります。

地域医療構想との関係

従来の地域医療構想は、主として病床機能の再編に重点を置いていました。

高度急性期。

急性期。

回復期。

慢性期。

将来どの病床が何床必要になるのかを考えることが中心でした。

しかし新たな地域医療構想では、外来や在宅医療、介護との連携まで視野が広がります。

これは当然ともいえます。

病床を減らすのであれば、病院の外で患者を支える仕組みが必要だからです。

病床再編と在宅医療の整備は、一体として考えなければならないのです。

結論

在宅医療とは、通院が難しい患者などに対して、医師や看護師などが患者の生活する場所を訪問して医療を提供する仕組みです。

計画的、継続的に診療する訪問診療と、急な体調変化などに対応する往診は役割が異なります。

2040年に向けて高齢者、とりわけ85歳以上が増える一方、医療を担う働き手は減少していきます。

高齢者が増えるたびに病院のベッドを増やし続けることは現実的ではありません。

そこで高度な治療が必要なときには病院を利用し、状態が安定すれば包括期などを経て生活の場へ戻り、必要な医療を在宅で受けるという役割分担が重要になります。

ただし在宅医療は、単に患者を病院から自宅へ移す政策ではありません。

訪問看護や介護サービス、急変時に受け入れる病院などがそろって初めて成り立ちます。

家族へ介護負担を移すだけでも持続しません。

2040年の地域医療構想では、何床の病院ベッドを残すのかだけではなく、病院の外でどれだけ患者を支えられるのかまで考える必要があります。

在宅医療とは、病院をなくすための医療ではなく、限られた病床を本当に入院が必要な患者へ使いながら、高齢者の生活そのものを地域で支えるための医療なのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月27日朝刊 2040年の地域医療構想上 病床の取引市場制度 創設を

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