所有者不明農地とは何か 持ち主が分からなくても農地を貸せる仕組み編

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農地を借りて規模を拡大したい農家がいるのに、その農地の所有者が分からない。

日本各地で、このような問題が起きています。

農地そのものがなくなったわけではありません。

田んぼや畑は目の前にあります。

ところが登記簿を確認すると、すでに亡くなった人の名義になっている。相続人を調べても全員を確認できない。所有者は分かっていても遠方に住んでいて連絡が取れない。

こうした農地が増えると、使いたい人がいても農地を動かすことが難しくなります。

そこで現在は、所有者の一部が分からない場合でも、農業委員会による探索や公示など一定の手続きを経て、農地バンクを通じて農地を利用できる仕組みが設けられています。

所有者不明農地とは何か

所有者不明農地という言葉からは、誰が所有者なのかまったく分からない農地を想像するかもしれません。

しかし実際にはさまざまなケースがあります。

例えば登記簿を確認すると、50年前に亡くなった祖父の名義になっている場合があります。

祖父には複数の子どもがいました。

その子どもたちもすでに亡くなっています。

さらに孫やひ孫へ相続が発生しています。

こうなると、現在誰が農地について権利を持っているのかを確認するだけでも大変な作業になります。

所有者が完全に分からないケースだけではなく、共有者の一部しか分からないという問題もあります。

相続未登記が所有者不明につながってきた

所有者不明農地が生まれる大きな原因の一つが相続です。

農地を所有していた父親が亡くれれば、その農地も相続財産になります。

しかし以前は相続登記が義務ではありませんでした。

そのため、

農地の価値がそれほど高くない

誰も農業を継がない

売る予定もない

登記には手間や費用がかかる

といった理由から、相続登記をしないまま放置されることがありました。

登記簿上は亡くなった父親の名義のままでも、その後さらに相続が起きます。

こうして登記上の所有者と実際に権利を承継した人との間に大きなずれが生まれていきます。

相続は登記しなくても発生する

ここで重要なのは、相続登記をしなければ相続が起きないわけではないことです。

所有者が亡くなれば相続は発生します。

例えば祖父が農地を所有していたとします。

祖父が亡くなり、3人の子どもが相続人になりました。

しかし相続登記をしませんでした。

その後、3人の子どものうち1人が亡くれ、その人にも3人の子どもがいたとします。

すると、その持分についてさらに相続が発生します。

登記簿には祖父の名前しか載っていなくても、実際の権利関係を調べれば多数の親族が関係していることになります。

相続未登記が何世代も続くほど、現在の権利者を確認することが難しくなるのです。

2024年から相続登記が義務になった

所有者不明土地問題への対策として、2024年4月から相続登記が義務化されました。

農地も対象です。

相続によって不動産を取得したことを知った相続人は、原則としてその事実を知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。

これによって、今後新たに発生する相続については、何世代にもわたって登記名義が放置されるケースを減らすことが期待されています。

ただし、相続登記の義務化だけで過去から積み上がった所有者不明農地がすべて解消するわけではありません。

すでに権利関係が複雑になっている農地への対応も必要になります。

農地では所有者不明が特に大きな問題になる

一般的な土地でも所有者不明は問題になります。

しかし農地の場合には、さらに重要な意味があります。

農地は実際に耕作して利用することで価値を発揮する土地だからです。

例えば地域の農家が、

隣の田んぼも借りたい

まとまった農地にして大型農機を使いたい

と考えたとします。

ところが隣の農地について所有者が分かりません。

所有者と契約できなければ、農地を借りることが難しくなります。

農地が存在しているにもかかわらず、権利関係が分からないため利用できないという問題が起こります。

所有者が近くにいない農地も増えている

農林水産省によると、2025年3月末時点で、全国の農地の2割にあたる106万ヘクタールで、所有者が不明か近隣に不在の状態となっていました。

所有者そのものが分からない場合だけではありません。

所有者は分かっていても、都市部など遠く離れた場所に住んでいるケースもあります。

親が農家だったとしても、子どもが農業を継ぐとは限りません。

相続によって農地を取得した子どもが東京や大阪などで生活していれば、農地の所在地と所有者の居住地が離れていきます。

農家の高齢化が進むほど、この問題は大きくなる可能性があります。

農地を貸すには本来所有者との合意が必要になる

通常、農地を貸すのであれば、農地を貸す側と借りる側の意思確認が必要です。

自分の土地ではない農地について、第三者が勝手に賃貸借契約を結ぶことはできません。

共有農地の場合にも、必要な共有持分について同意を得ることが基本になります。

ところが所有者が分からなければ、そもそも同意を求める相手を特定できません。

全員が判明するまで利用できないとすると、その間に農地が荒れてしまう可能性があります。

そこで所有者不明農地について特別な仕組みが設けられています。

農業委員会が所有者を探索する

所有者不明農地を利用する仕組みでは、まず所有者を探すことが重要になります。

農業委員会が一定の方法によって農地の所有者などを探索します。

登記情報などを確認し、農地について権利を持つ人を調べていきます。

ここで大切なのは、少し調べて分からなければすぐに所有者不明として扱うわけではないことです。

財産権に関係する問題なので、法律で定められた手続きに従って探索する必要があります。

そのうえで所有者の全部または一部を確知できない場合に、所有者不明農地を利用するための手続きへ進むことになります。

公示によって権利者へ知らせる

探索しても共有者などの一部を確認できない場合には、公示という手続きが使われます。

公示とは、

この農地について利用するための手続きを進めています

権利を持っている人は申し出てください

という情報を一定期間公に示す仕組みです。

権利者がどこにいるのか分からないからといって、その人の権利を無視するわけではありません。

公示によって申し出る機会を設けたうえで手続きを進めます。

所有者の財産権を保護しながら、農地を放置しないための仕組みです。

農地バンクが重要な役割を担う

所有者不明農地を実際の農業利用につなげるうえで重要なのが農地バンクです。

農地バンクとは農地中間管理機構の通称です。

農地を貸したい所有者などから農地を借り受け、それを農業の担い手へ貸し付けます。

所有者不明農地についても、一定の手続きを経て農地バンクに利用権を設定し、担い手へ貸し付ける仕組みがあります。

つまり、

所有者が分からない

だから誰も使えない

だから耕作放棄する

という流れをできるだけ防ごうとしているわけです。

所有権を取り上げる制度ではない

ここで誤解してはいけないのは、所有者不明農地の制度を利用すると所有者が農地を失うということではありません。

農地バンクなどを通じて利用する仕組みは、所有権そのものを国や農地バンクへ移す制度ではありません。

一定期間、農地を利用できる権利を設定するものです。

所有者が分からないからといって、行政がその農地を没収して別の農家へ渡すわけではありません。

所有権と利用権を分けて考える必要があります。

所有者が分からなくても農地を利用できるようにする

この制度の大きな特徴は、

所有者を完全に確定できなければ何もできない

という考え方から、

一定の探索をしても分からないのであれば、法律上の手続きを経て農地を利用できるようにする

という考え方へ変わっていることです。

農業では時間も重要です。

農地を何年も放置すれば雑草や樹木が生え、再び農地として利用するために大きな費用が必要になることがあります。

周囲の農地にも影響する可能性があります。

所有者探索だけに何年もかけている間に農地そのものが荒廃してしまっては、制度の目的を果たせません。

農地集約にも所有者不明が影響する

日本の農業では、担い手へ農地を集約することが重要な政策課題になっています。

例えば一人の農家が10枚の田んぼを耕しているとします。

その田んぼが離れた場所に点在していれば、農機を移動させるだけでも時間と燃料がかかります。

隣接する農地を借りて一体的に耕作できれば、生産性を高められる可能性があります。

ところが、その中に所有者不明農地が一枚あるだけで、まとまった農地として利用することが難しくなることがあります。

所有者不明農地への対応は、耕作放棄地を防ぐだけではなく、農地集約や農業の生産性向上にも関係する問題なのです。

相続人が農地に関心を持たないことも背景にある

所有者不明農地が増える背景には、農地の経済的な特徴もあります。

都市部の宅地であれば高い資産価値があり、相続人も相続登記や売却について積極的に動く可能性があります。

一方、農地では地域によって売却価格が低かったり、買い手が見つかりにくかったりする場合があります。

農業をしない相続人からすると、

収益を得られない

管理の手間がかかる

売ろうとしても売れない

という財産になることもあります。

その結果、相続手続きへの関心が低くなり、権利関係が整理されないまま次の世代へ移る可能性があります。

相続登記だけでは農地利用の問題は解決しない

相続登記が義務化されたことで、今後は誰が所有者なのかを登記簿から把握しやすくなることが期待されます。

しかし、所有者が分かれば必ず農地が利用されるわけではありません。

所有者が都市部に住んでいる。

農業に関心がない。

共有者同士で意見がまとまらない。

農地を誰に貸せばよいか分からない。

こうした問題は残ります。

そのため、

相続登記によって所有者を明確にする

農地バンクによって担い手へつなぐ

共有者不明の場合には特例制度を利用する

という複数の仕組みを組み合わせる必要があります。

農地信託は所有者不明農地を生まないための対策にもなる

今回検討されている農地信託は、すでに所有者が分からなくなった農地を動かす制度とは少し性質が違います。

むしろ将来、所有者不明や権利関係が複雑な農地を生み出さないための対策として考えることができます。

所有者が元気なうちに、

誰が農地を管理するのか

誰に貸すのか

相続後にどうするのか

を決めておくことができれば、死亡後に多数の相続人が一から協議する必要を減らせる可能性があります。

農地政策は、所有者不明になった後の対応だけでなく、所有者不明になる前の予防へと広がろうとしているのです。

結論

所有者不明農地とは、現在の所有者や共有者を容易に確認できない農地などを指します。

その大きな原因の一つが、相続登記が行われないまま何世代にもわたって相続が繰り返されてきたことです。

登記簿には祖父の名前しかなくても、実際には子、孫、ひ孫へと権利が承継され、多数の人が関係していることがあります。

所有者が分からなければ、本来は農地を借りるための合意を得ることも難しくなります。

しかし、それだけを理由に農地を長期間放置すれば、耕作放棄や農地集約の妨げにつながります。

そこで現在は、農業委員会が所有者を探索し、公示など一定の手続きを行ったうえで、農地バンクを通じて農地を担い手へつなげられる仕組みが設けられています。

これは所有者から農地を取り上げる制度ではありません。

所有権を残しながら利用権を設定し、農地として使い続けるための制度です。

2024年から相続登記も義務化されましたが、それだけで農地問題が解決するわけではありません。

相続登記で所有者を明確にし、農地バンクで利用者へつなぎ、さらに農地信託などによって相続前から管理方法を決める。

日本の農地制度は、所有者が分からなくなってから対応するだけではなく、将来の所有者不明農地を生み出さない仕組みへと変わることが求められています。

参考

日本経済新聞 2026年8月26日 朝刊 農地の相続分散に歯止め

日本経済新聞 2026年8月26日 朝刊 農地法 住宅や工場への転用規制

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