夜になって急に熱が出た。せきが止まらなくなった。子どもの体調が悪くなった。
このようなとき、翌朝まで待ってよいのか、それともすぐに病院へ行くべきなのかを患者や家族だけで判断するのは簡単ではありません。
昼間なら近くの診療所を受診できますが、夜間は診療できる医療機関が限られます。その結果、本来は重症患者を受け入れる救急病院に軽症患者まで集まりやすくなります。
そこで注目されているのが夜間オンライン診療です。
離れた場所にいる医師がオンラインで患者を診察し、自宅で様子をみてもよいのか、翌日に通常の外来を受診すればよいのか、それともすぐに救急医療が必要なのかを判断します。
さらに患者が病院を訪れ、看護師が立ち会う来院型オンライン診療を組み合わせれば、電子聴診器などによる診察や必要な処置まで行える場合があります。
夜間オンライン診療には、単に夜でも診察を受けられるというだけではなく、限られた救急医療の能力を本当に必要な患者へ振り向ける役割があります。
夜間救急では何が問題になるのか
夜間になると、通常の診療所の多くは診療時間を終えています。
一方、病気やけがは診療時間に合わせて起きるわけではありません。
夜間にも、
発熱
せき
腹痛
頭痛
嘔吐
子どもの体調不良
などが起こります。
患者や家族にとって困るのは、その症状の緊急性を判断することです。
心配になれば、夜間でも診察している救急病院へ行くことになります。
ところが救急病院には、命に関わる重症患者も運ばれてきます。
軽症患者まで一つの救急病院に集中すれば、限られた医師や看護師の負担が大きくなります。
軽症患者と重症患者では必要な医療が違う
救急医療では患者の重症度によって必要な医療が異なります。
例えば軽い発熱やせきなどで、翌日に通常の外来を受診すればよい患者がいる一方、心筋梗塞や脳卒中、重い呼吸不全などのように一刻を争う患者もいます。
両者を同じように扱うことはできません。
重症患者には、
専門的な医師
高度な検査機器
手術設備
集中治療設備
などが必要になる場合があります。
こうした高度な医療資源には限りがあります。
軽症患者を別の医療で対応できれば、高度な救急病院は重症患者の治療へ人員や設備を集中させやすくなります。
患者自身では緊急性を判断しにくい
問題は、患者が自分で軽症か重症かを判断することが難しいことです。
例えば胸が痛い場合でも、筋肉などに原因があることもあれば、緊急性の高い病気が隠れている可能性もあります。
子どもが発熱した場合にも、保護者から見れば非常に心配でも、自宅で経過をみられるケースがあります。
反対に、一見それほど重そうに見えなくても早急な診察が必要な場合があります。
患者に、
軽症なら救急病院へ来ないでください
と言うだけでは問題は解決しません。
医療従事者が患者の状態を確認し、どの医療が必要なのかを判断する入口が必要になります。
その一つが夜間オンライン診療です。
オンライン診療が振り分け役になる
夜間オンライン診療では、患者が医師へ症状を説明します。
医師は、
いつから症状があるのか
症状が悪化しているのか
呼吸状態に問題はないか
意識状態はどうか
水分を取れているか
持病があるか
などを確認します。
画面を通じて患者の顔色や呼吸の様子などを確認できる場合もあります。
その結果、
自宅で様子をみる
翌日にかかりつけ医を受診する
夜間の対面診療を受ける
すぐに救急医療を受ける
といった判断につなげます。
オンライン診療が患者を適切な医療へ振り分ける役割を果たすわけです。
来院型なら患者の情報を増やせる
自宅型オンライン診療では、医師が得られる情報に限界があります。
そこで夜間救急と相性がよい方法の一つが来院型オンライン診療です。
患者は医療機関へ行きます。
しかし診察する医師は、その医療機関にいるとは限りません。
離れた場所にいる医師とオンラインでつながります。
患者のそばには看護師が立ち会います。
看護師が患者の状態を直接確認できるため、自宅型より多くの情報を医師へ届けられる可能性があります。
医師を夜間に毎回現地へ配置しなくても、医療機関の設備と看護師を遠隔地の医師につなぐことで診療体制をつくれます。
電子聴診器なども活用できる
患者のそばに看護師がいれば、医療機器を使って医師の診察を補助できます。
例えば、
体温
血圧
脈拍
血中酸素飽和度
などを測定できます。
電子聴診器を使えば、離れた場所にいる医師が患者の心音や呼吸音を確認できる場合があります。
通常の自宅型オンライン診療では得にくい客観的な情報を追加できます。
特に呼吸器症状などでは、患者本人から苦しいという話を聞くだけでなく、血中酸素飽和度や呼吸音などを確認できることが医師の判断材料になります。
岩国では夜間救急に活用している
今回参考にした岩国市医療センター医師会病院では、2025年4月から来院型オンライン診療を始めました。
木曜と日曜の午後7時から午後9時半まで、来院した患者を看護師の立ち会いのもと、離れた場所にいる医師が診察します。
当初は4歳から15歳の小児が対象でしたが、2026年4月から成人にも広げました。
それまで対面で診療していた2日にオンライン診療の2日が加わり、週4日、夜間の救急外来で診療できるようになりました。
医師を新たに毎回現地へ配置するのではなく、オンラインによって診療可能な日を増やしたことになります。
子どものぜんそくが疑われたケース
記事では、2026年8月上旬に5歳の子どもが夜間に受診した事例が紹介されています。
せきが止まらず、呼吸も苦しそうな状態でした。
救急外来の看護師が症状や受診歴を確認し、自宅で待機していた医師をオンラインで呼び出しました。
医師は問診に加えて、電子聴診器による呼吸音や血中酸素飽和度などを確認しました。
そして、ぜんそくの可能性があると説明しました。
病院では気管支を広げる薬を吸入し、翌日にかかりつけの小児科を受診するよう指示しました。
このケースでは、高度な救急病院でなければ何もできないわけではありませんでした。
地域の医療機関と看護師、遠隔地の医師を組み合わせることで対応できたわけです。
二次救急とは何か
救急医療は患者の重症度などに応じて役割分担されています。
一般に二次救急は、入院や手術などが必要になる可能性のある患者に対応する医療です。
地域の病院が輪番制などで対応することがあります。
一方、比較的軽症の患者については初期救急などで対応することが想定されています。
しかし実際には、夜間にどこへ行けばよいか分からず、軽症患者がより高度な救急病院を訪れることがあります。
夜間オンライン診療や来院型オンライン診療によって軽症患者を地域で診ることができれば、二次救急などへの患者集中を抑えられる可能性があります。
三次救急は特に重症な患者を担う
三次救急は、より重篤な患者に高度な救命医療を提供する役割を担います。
例えば生命の危険がある重症患者などです。
こうした患者には多くの医療従事者や高度な設備が必要になる場合があります。
救急医療の問題は、病院の建物やベッドがあるだけでは解決しません。
夜間に働ける医師や看護師にも限りがあります。
そのため、軽症患者を適切な医療へ振り分けることは、重症患者の治療体制を守ることにもつながります。
オンライン診療は、救急医療の入口を増やすことでこの役割分担を支える可能性があります。
オンラインで危険と判断したら救急へつなぐ
夜間オンライン診療は、軽症患者を救急病院から遠ざけるためだけの仕組みではありません。
むしろ重要なのは、緊急性の高い患者を発見することです。
オンライン診療中に、
強い呼吸困難
意識状態の異常
激しい胸痛
けいれん
急激な症状悪化
などが確認されれば、オンラインだけで診療を続けるべきではない場合があります。
必要に応じて速やかな対面診療や救急医療へつなぎます。
オンライン診療で自宅療養を勧めることもあれば、反対に患者自身が考えていたより早く救急受診を勧めることもあります。
振り分けは双方向なのです。
夜間に医師を常駐させなくても診療できる
地方の医療機関にとって大きな問題の一つが、夜間に医師を確保することです。
患者数が少ない地域でも、救急対応のために医師を配置しなければならないことがあります。
しかし医師不足が進む地域で、すべての医療機関に毎晩医師を常駐させることは簡単ではありません。
オンライン診療なら、医師は離れた場所から診察できます。
一人の医師が一つの病院に物理的に拘束される必要が小さくなります。
患者のそばに看護師や必要な設備があり、対面診療へ切り替える体制も整っていれば、夜間医療を維持する選択肢が増えます。
救急医療をなくすのではなく守る仕組み
夜間オンライン診療が普及しても、救急病院が不要になるわけではありません。
重症患者には対面による診察、検査、手術、集中治療などが必要です。
オンラインでは代替できません。
夜間オンライン診療の役割は、こうした高度な医療を置き換えることではありません。
オンラインで対応できる患者はオンラインや地域の医療機関で診る。
詳しい診察が必要なら対面診療へつなぐ。
重症患者は速やかに高度な救急病院へつなぐ。
患者を必要な医療へ振り分けることで、救急医療を本当に必要とする患者のために守る仕組みと考えることができます。
結論
夜間オンライン診療とは、通常の診療所が閉まる夜間などに、離れた場所にいる医師がオンラインで患者を診察する仕組みです。
大きな役割の一つが、軽症患者と緊急性の高い患者を適切な医療へ振り分けることです。
夜間は受診できる医療機関が少ないため、患者自身が緊急性を判断できなければ、大きな救急病院へ患者が集中しやすくなります。
オンラインで医師が状態を確認できれば、自宅で経過をみられる患者、翌日に通常の外来を受診すればよい患者、すぐに対面診療が必要な患者を分けやすくなります。
さらに岩国市医療センター医師会病院のような来院型オンライン診療では、患者のそばに看護師が立ち会い、電子聴診器や血中酸素飽和度などの情報を遠隔地の医師へ届けることができます。
必要な処置まで地域の医療機関で行える場合があります。
これによって軽症患者を地域で受け止め、高度な救急医療を担う病院への集中を抑えられる可能性があります。
同時に、オンライン診療で緊急性が高いと判断された患者は速やかに救急医療へつなぐことが重要です。
夜間オンライン診療は救急病院の代わりではありません。
軽症患者を地域で診て、重症患者を高度な救急医療へつなぐ。
限られた医師や看護師、設備を患者の重症度に応じて使い分けるための入口です。
医師不足が進む地域で夜間医療を維持するためにも、オンラインと対面を組み合わせた救急医療の役割分担が重要になっていくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 進化するオンライン診療 看護師立ち会い、検査や処置
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 駅で受診可能に