オンライン診療というと、自宅からスマートフォンを使って医師の診察を受ける姿を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、オンライン診療は新しい段階に入りつつあります。
患者は病院に行き、そこにいる看護師が検査や処置を行い、医師だけが離れた場所から診察する方法が登場しています。さらに、駅や公民館などに設けられた施設から診察を受けることも可能になりました。
オンライン診療は単なる通院の代替手段ではなく、限られた医師を地域全体で有効活用するための医療インフラへと進化し始めています。
オンライン診療とは何か
オンライン診療とは、医師と患者が離れた場所にいながら、情報通信機器を使って診察や診断などを行う診療方法です。
日本では1997年度にオンライン診療の取り組みが始まりました。
大きな転換点となったのが2018年度です。診療報酬にオンライン診療料が新設され、公的医療保険のもとでオンライン診療を行う仕組みが整えられました。
当初は再診が中心で、対象となる病気にも制限がありました。
ところが新型コロナウイルス感染症の流行によって状況が大きく変わります。
感染を避けながら医療を提供する必要性が高まり、特例として初診からオンライン診療を利用できるようになりました。その後、2022年度には初診からのオンライン診療が恒久化されました。
オンライン診療を実施する医療機関は急速に増えています。
厚生労働省によると、2025年4月時点でオンライン診療を手掛ける医療機関は1万3357施設となり、3年間で3.6倍に増えました。
自宅だけでなく病院からオンライン診療を受ける
オンライン診療の新しい形として注目されているのが、来院型のオンライン診療です。
患者は医療機関へ行きます。
ただし、その場所に診察する医師がいるとは限りません。
患者のそばには看護師がおり、医師は別の場所からオンラインで診察します。
山口県の岩国市医療センター医師会病院では、2025年4月からこの仕組みを導入しました。
患者が夜間に救急外来を訪れると、看護師が症状や受診歴を確認します。その情報を基に、離れた場所にいる医師がオンラインで診察します。
一見すると、自宅から受診する通常のオンライン診療と似ています。
大きく違うのは、患者のそばに医療従事者と医療機器があることです。
看護師がオンライン診療の手足になる
通常のオンライン診療には大きな弱点があります。
医師が患者に直接触れられないことです。
スマートフォンの画面だけでは、聴診したり、血中酸素飽和度を測定したり、薬を吸入させたりすることは困難です。
来院型オンライン診療では、この弱点を看護師が補います。
例えば患者の呼吸状態を確認するとします。
看護師が電子聴診器を患者に当て、その呼吸音を離れた場所にいる医師が聞きます。
血中酸素飽和度なども測定できます。
必要であれば、医師の指示に基づいて看護師が処置を補助することもできます。
つまり、
医師は診断や治療方針の判断を担い、
看護師は患者のそばで診療を補助する、
という役割分担ができます。
オンライン診療だからすべてをオンラインで完結させる必要はありません。
人とデジタルを組み合わせることで、オンライン診療の弱点を補うわけです。
医師不足の地域ほど効果が大きい
この仕組みが注目される背景には、地方の医師不足があります。
すべての地域に、すべての診療科の医師を24時間配置することは現実的ではありません。
特に夜間や休日になると、診療できる医師はさらに限られます。
そこで、医師そのものを移動させるのではなく、診療能力をオンラインで移動させるという考え方が生まれます。
一人の医師が離れた場所にいる複数の患者を診察できれば、医師の移動時間を減らせます。
岩国市医療センター医師会病院では、対面診療を行う2日にオンライン診療の2日を加えることで、週4日の夜間救急診療が可能になりました。
軽症患者を地域の病院で受け入れられれば、高度な医療を担う病院に患者が集中することも防ぎやすくなります。
限られた医療資源を役割分担する効果も期待できます。
移動診療車とオンライン診療を組み合わせる
医師不足への対応方法は、病院だけではありません。
山口市徳地診療所では移動診療車による巡回診療を行っています。
通常なら医師自身が診療車に乗って地域を回る必要があります。
しかし、医師の移動には時間がかかります。
そこで月2回の巡回診療のうち1回について、医師がオンラインで診療する仕組みを取り入れています。
医師が移動しなければ、その時間を診療所での外来診療や往診などに使えます。
医師一人当たりが診察できる患者数を増やせる可能性があります。
地方医療では、医師を増やすことだけでなく、医師の時間をどのように使うかも重要になっているのです。
子どものオンライン診療にも広がる
オンライン診療は小児医療でも活用されています。
青森県では2025年10月から、県全域を対象とした子ども向けオンライン診療の試行事業を始めました。
対象は4歳から18歳です。
365日、午前6時から午後8時まで利用できます。
専用ページから申し込むと、平均15分程度の待ち時間で診察を受けられる仕組みです。
背景には、小児科へのアクセスの問題があります。
地方では近隣に小児科がない地域もあります。
感染症が流行すると、病院へ行って長時間待つこと自体が子どもや保護者の負担になります。
オンライン診療なら、自宅にいながら医師に相談できます。
青森県では2026年7月末までに延べ約2500人が利用しました。
オンライン診療は医師不足対策だけでなく、子育て世代の受診負担を減らす仕組みにもなっています。
医師側にも働き方の選択肢が広がる
オンライン診療には、医療を受ける側だけでなく、医師側にもメリットがあります。
病院に常駐できない医師でも診療に参加できるからです。
例えば育児中の医師です。
従来なら夜間の救急外来で働くためには、病院まで移動して勤務する必要がありました。
オンライン診療なら、自宅など離れた場所から診療に参加できる場合があります。
地域に医師がいなくても、全国にいる医師の力を借りられる可能性があります。
医師不足という問題を、単純な人数だけではなく、医師の働き方を柔軟にすることで補う考え方です。
駅や公民館でもオンライン診療を受けられる
さらに大きな変化が、オンライン診療を受ける場所です。
2026年4月から、オンライン診療を受診するための施設を駅や公民館などに設置できるようになりました。
従来は、オンライン診療を受けるための施設についても診療所として開設する必要がありました。
そのため開設できる主体には制約がありました。
制度変更によって、オンライン診療を受ける場所を医療機関の外へ広げやすくなりました。
近くに医療機関がない地域や、受診したい診療科がない地域では大きな意味があります。
患者が医師のいる病院へ移動するのではなく、医療への入口を患者の生活圏に近づけることができるからです。
駅が診療の入口になる
JR東日本は2026年5月、駅構内などに設置された個室ブースからオンライン診療を受けられるサービスを首都圏19駅で始めました。
医師の予約は不要で、土日や祝日にも利用できます。
さらに仙台エリアへの展開も予定され、将来的には駅ビルやショッピングセンターなどにも広げる計画です。
2031年までに全国500カ所以上への設置を目指しています。
駅は毎日の通勤や通学で利用する場所です。
そこにオンライン診療の拠点ができれば、
病院へ行く
という従来の医療から、
生活圏の中で医療につながる
という形へ変わっていく可能性があります。
対面診療がなくなるわけではない
もっとも、オンライン診療ですべての医療を代替できるわけではありません。
緊急性の高い病気や、触診、画像検査、手術などが必要な場合には対面診療が不可欠です。
重要なのは、
対面かオンラインか
という二者択一で考えないことです。
軽症患者や経過観察はオンラインを活用し、必要になれば対面診療につなぐ。
看護師による検査や処置を組み合わせる。
重症患者は高度医療を担う病院へ送る。
こうした役割分担ができれば、限られた医療資源をより効率的に使えます。
オンライン診療は病院をなくす技術ではありません。
病院、診療所、看護師、医師、患者をネットワークで結び直す技術と考えた方が分かりやすいでしょう。
結論
オンライン診療は、自宅からスマートフォンで医師に相談するだけの仕組みではなくなっています。
患者が病院を訪れ、看護師が立ち会って検査や処置を補助し、離れた場所にいる医師が診察する来院型オンライン診療が広がり始めました。
移動診療車との組み合わせや、子ども向け診療への活用も進んでいます。
さらに2026年4月からは、駅や公民館などにもオンライン診療を受けるための施設を設けやすくなりました。
これまでの医療は、基本的に患者が医師のいる場所へ移動する仕組みでした。
これからは、医師の診療能力をオンラインで患者のいる場所へ届ける医療が増えていく可能性があります。
特に人口減少と医師不足が進む地域では、すべての場所に医師を配置することには限界があります。
だからこそ、対面診療、オンライン診療、看護師による診療補助を組み合わせることが重要になります。
オンライン診療の進化は、単なる医療のデジタル化ではありません。
限られた医療人材を地域全体で共有し、必要な医療を持続的に届けるための仕組みづくりといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 進化するオンライン診療 看護師立ち会い、検査や処置
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 駅で受診可能に