ネット通販の普及によって、宅配便を玄関前などに置いてもらう置き配を利用する人が増えています。
不在でも荷物を受け取れるため便利ですが、マンションでは戸建て住宅とは事情が異なります。
玄関前の廊下は自分の住戸に近い場所であっても、原則として共用部分だからです。
荷物を置く場所や時間によっては、ほかの住人の通行や災害時の避難を妨げる可能性があります。食品を長時間放置すれば衛生上の問題も生じます。
そこで重要になるのが、マンションの使用細則です。
置き配を全面的に禁止するのか、一定の条件で認めるのか。マンションごとにルールを明確にしておくことが、トラブル防止につながります。
置き配とは何か
置き配とは、宅配業者が受取人と対面せず、あらかじめ指定された場所に荷物を置く配達方法です。
代表的なのが住戸の玄関前です。
宅配ボックスが空いていなくても荷物を受け取ることができ、再配達を依頼する必要もありません。
共働き世帯や単身世帯にとって利便性の高いサービスです。
宅配業者にとっても再配達を減らせるため、物流の効率化につながります。
しかし、マンションでは置き場所となる玄関前や共用廊下について、ほかの住人との関係を考える必要があります。
玄関前なら自由に荷物を置けるわけではない
自分の部屋の玄関前だから、自分が自由に利用できると思うかもしれません。
しかし、マンションの共用廊下は通常、区分所有者全員が共同で利用する共用部分です。
さらに共用廊下は、日常的な通路であるだけではありません。
火災や地震などが発生した場合には、住人が避難するための経路になります。
そのため、大きな荷物が廊下にはみ出していたり、多数の荷物が置かれていたりすると、通行や避難の妨げになる可能性があります。
置き配を認める場合でも、どこに置いてもよいというルールにはできません。
置き配できる場所を決める
置き配の使用細則では、まず荷物を置くことができる場所を明確にすることが重要です。
例えば、各住戸の玄関扉付近で、通行や避難を妨げない範囲に限定する方法があります。
階段やエレベーターの前、避難経路となる場所などへの置き配は禁止することが考えられます。
マンションによって廊下の幅や構造は違います。
内廊下型と外廊下型でも条件が異なります。
そのため、すべてのマンションで同じルールにするのではなく、建物の構造や避難経路を確認したうえで決める必要があります。
置いておける時間にもルールが必要になる
置き配では、荷物を置いておける時間も問題になります。
配達されてから数時間後に住人が帰宅して取り込むのであれば、影響は比較的小さいでしょう。
しかし、何日間も荷物が置かれていれば状況は違います。
共用廊下が私物置き場のようになってしまうからです。
国土交通省が示した使用細則の例では、置き配された荷物を二十四時間以上放置することを禁止する考え方が示されています。
重要なのは二十四時間という数字だけではありません。
置き配はあくまで荷物を一時的に受け取るための仕組みであり、共用部分を保管場所として継続的に使用するものではないという考え方です。
住人にも、荷物を確認したらできるだけ速やかに住戸内へ取り込むことが求められます。
衛生上問題のある物にも注意する
置き配では、荷物の中身についても考える必要があります。
特に注意したいのが食品です。
常温保存できる商品であれば問題が小さい場合がありますが、生鮮食品や冷蔵、冷凍品などを長時間放置すれば品質が低下する可能性があります。
汁漏れなどによって共用廊下を汚すことも考えられます。
臭いが発生すれば周囲の住人にも影響します。
マンションは多数の世帯が同じ建物で生活する場所です。
自分にとって問題のない荷物でも、共用部分に置く以上は周囲への影響を考える必要があります。
使用細則では、衛生上問題が生じる可能性のある物について制限を設けることも考えられます。
危険物を置いてはいけない理由
さらに重要なのが危険物です。
発火や爆発などの危険がある物を共用廊下に置けば、マンション全体の安全に関係します。
置き配では荷物の中身を管理組合が一つずつ確認することは現実的ではありません。
そのため、危険物など一定の商品について置き配を禁止するルールを設け、住人に周知することが重要になります。
宅配ボックスについて危険物などの利用を禁止している場合には、置き配についても整合性のあるルールを検討する必要があります。
管理組合にはどこまで責任があるのか
置き配で難しい問題の一つが、荷物に問題が発生した場合の責任です。
例えば、玄関前に置かれた荷物が盗まれた場合を考えてみましょう。
マンションの共用部分で発生したからといって、直ちに管理組合が荷物の損害を補償するという話にはなりません。
雨にぬれたり、荷物が傷んだりした場合も同様です。
置き配は受取人が選択する受け取り方法である以上、一定のリスクは利用者自身が負担するという考え方が基本になります。
使用細則では、置き配を認める条件とともに、管理組合や管理会社が荷物を保管したり品質を保証したりするものではないことを明確にしておくことも重要です。
居住者にも責任がある
置き配を利用する住人にも責任があります。
まず、管理組合が定めた場所や時間などのルールを守らなければなりません。
荷物が届いたことを確認したら、できるだけ早く住戸内に取り込みます。
長期間留守にすることが分かっている場合には、置き配を指定しないといった対応も必要です。
さらに、大型の商品や大量の荷物など、玄関前に置けば通行を妨げる可能性がある場合には、宅配ボックスや宅配事業者の営業所、外部の共同ロッカーなど別の受け取り方法を検討する必要があります。
置き配を認めるということは、共用廊下を自由に物置として利用できるという意味ではありません。
ルール違反には段階的に対応する
使用細則を定めても、違反が発生する可能性はあります。
何日間も荷物を放置したり、通路をふさぐような大型荷物を繰り返し置いたりする住人がいるかもしれません。
この場合には、まずルールを周知し、本人に改善を求めることが基本になります。
それでも改善されなければ、管理組合や管理会社から書面などによって注意することも考えられます。
大切なのは、問題が起きるたびに対応方法を変えるのではなく、あらかじめ定めた使用細則に基づいて公平に対応することです。
そのためにも、禁止事項だけではなく、違反があった場合の対応方法についても考えておく必要があります。
置き配を禁止するだけでは解決しない
置き配によるトラブルを避ける最も簡単な方法は、全面的に禁止することかもしれません。
しかし、ネット通販の利用が一般化した現在では、それだけで問題が解決するとは限りません。
宅配ボックスの数が不足していれば再配達が増えます。
住人の利便性も低下します。
マンションの設備やサービスに対する購入者や賃貸入居者の評価にも影響する可能性があります。
そこで、全面禁止か全面自由かという二つの選択肢ではなく、安全や衛生に配慮しながら一定の条件で置き配を認めるという考え方が重要になります。
使用細則は、そのための仕組みです。
結論
置き配の使用細則とは、マンションの玄関前などの共用部分で、どのような条件なら荷物を置いてよいのかを具体的に定めるルールです。
置き配できる場所、放置できる時間、衛生上問題のある物や危険物の扱いなどを明確にしておく必要があります。
国土交通省も、通行や避難を妨げる場所への置き配を禁止することや、二十四時間以上荷物を放置しないことなどを使用細則の例として示しています。
同時に、管理組合と居住者の責任の範囲を整理しておくことも重要です。
置き配は便利な仕組みですが、マンションでは自分の玄関前であっても周囲の住人との共同生活を無視することはできません。
生活スタイルの変化に合わせて、禁止するだけではなく、安全性と利便性を両立できるルールを作ることが、これからのマンション管理には求められます。
参考
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 宅配ボックス、資産性に影響 マンションのルール整備を
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 国がポイント提示