非上場株の相続税評価では、会社規模や会社の財務内容だけでなく、株主が会社をどの程度支配しているかによって評価方法が変わることがあります。
特に重要なのが配当還元方式です。
配当還元方式は、会社を支配していない少数株主などが保有する非上場株について、受け取る配当を基礎として株価を評価する方法です。
同じ会社の同じ種類の株式であっても、経営を支配する同族株主が持つ場合と、経営にほとんど影響を与えられない少数株主が持つ場合では、税務上の評価額が異なることがあります。
今回の非上場株評価制度の抜本的な見直しでは、類似業種比準方式などだけでなく、この配当還元方式が今後どのように扱われるのかも重要な論点になります。
配当還元方式とは何か
配当還元方式とは、非上場会社から受け取る配当金を基礎として、その株式の価値を計算する方法です。
考え方は比較的分かりやすいものです。
会社経営を支配できない少数株主にとって、株式を持つ主な経済的利益は配当です。
会社を売却することを決めることもできません。
経営方針を自由に変えることもできません。
会社の資産を自由に処分することもできません。
そこで、会社全体の純資産価値や経営権の価値ではなく、その株式からどれだけの配当を得られるのかを中心に評価するわけです。
なぜ少数株主だけ別の評価方法を使うのか
非上場会社では、株式を何パーセント持っているかによって経済的な意味が大きく変わります。
たとえば創業家が会社株式の80パーセントを保有していれば、取締役の選任などを通じて会社経営に強い影響力を持つことができます。
一方、親族でもない社員が1パーセントだけ株式を持っていたとします。
この株主は会社の経営方針を単独で決めることはできません。
会社を清算して資産を分配させることもできません。
非上場株なので、証券市場で簡単に売却することもできません。
同じ1株でも、支配株主が持つ場合と少数株主が持つ場合では経済的な意味が違います。
そこで税務上も評価方法を分けています。
原則的評価方式との違い
同族株主など会社を支配する側が株式を取得する場合には、原則として会社規模などに応じた評価方式を使います。
現在は、
類似業種比準方式
純資産価額方式
両者を併用する方式
などがあります。
これらは、会社そのものがどれだけの価値を持っているかを見る評価方法です。
一方、配当還元方式では会社全体の企業価値ではなく、株主が受け取る配当に着目します。
つまり、
支配株主は会社価値を見る
少数株主は配当価値を見る
という違いがあります。
配当還元方式では配当金額が重要になる
配当還元方式では、株主が受け取る配当金額を一定の方法で還元して株価を求めます。
考え方を単純化すると、
毎年受け取る配当が多い株式ほど価値が高い
毎年受け取る配当が少ない株式ほど価値が低い
という仕組みです。
たとえば毎年高い配当を出している会社と、ほとんど配当を出していない会社では、少数株主が得られる経済的利益も違います。
そこで配当額を株価に反映します。
10パーセントの還元率とは何か
現在の配当還元方式を理解するうえで重要なのが、10パーセントという還元率です。
簡単に考えると、年間配当を10パーセントの利回りで資本還元して株式価値を計算する考え方です。
たとえば年間の配当相当額が10万円だったとします。
これを10パーセントで還元すれば、
10万円を0.1で割って100万円
というイメージになります。
実際の税務計算では1株当たりの資本金等の額などを使った調整がありますが、基本的な発想は配当を一定の還元率で株価へ変換することです。
還元率が高いほど株価は低くなる
配当還元方式では、還元率が非常に重要です。
同じ年間配当10万円でも、還元率によって評価額は変わります。
10パーセントで還元すれば100万円です。
5パーセントなら200万円です。
2パーセントなら500万円です。
つまり、
還元率が高いほど評価額は低くなる
還元率が低いほど評価額は高くなる
という関係があります。
現在の10パーセントという還元率が高いか低いかは、非上場株評価に大きく影響します。
なぜ10パーセントという数字が問題になるのか
現在の金融市場では、10パーセントという利回りはかなり高い水準です。
銀行預金や国債などと比べても大きな利回りです。
もちろん、非上場株には売却しにくいリスクがあるため、安全資産より高い収益率を要求することには合理性があります。
しかし、長期間固定された10パーセントという数字が、現在の経済環境や金利水準に合っているのかという問題があります。
還元率が実態より高すぎれば、計算上の株価が低くなりすぎる可能性があります。
そのため、配当還元方式の還元率についても見直しの必要性が指摘されています。
会計検査院も還元率を問題視した
非上場株評価を巡っては、会計検査院が現行制度の公平性について問題を指摘しています。
類似業種比準方式と純資産価額方式の大きな評価差だけでなく、配当還元方式についても現在の経済環境との乖離が論点になっています。
特に、10パーセントという固定的な還元率を長期間使用することで、少数株主の株式評価額が低くなりすぎていないかという問題があります。
株式評価制度を約60年ぶりに抜本的に見直すのであれば、原則的評価方式だけでなく、少数株主の評価方法についても整合性を確認する必要があります。
配当が少ない会社では評価額が低くなりやすい
配当還元方式の特徴は、配当が少ない会社ほど評価額が低くなりやすいことです。
非上場の同族会社では、利益が出ても配当をほとんど行わないことがあります。
会社内部に利益を留保して設備投資や運転資金に使うためです。
たとえば会社が毎年1億円の利益を出していても、配当がほとんどなければ、配当還元方式による評価額は低くなる可能性があります。
ここに、会社全体の価値と少数株主の税務上の株価との大きな差が生じます。
高収益会社でも少数株主の評価は低くなることがある
たとえば会社の純資産が20億円あり、毎年2億円の利益を出しているとします。
会社全体として見れば非常に価値の高い会社です。
しかし、その会社がほとんど配当をしていなければ、配当還元方式で評価される少数株主の株式は、原則的評価方式よりかなり低い価額になる可能性があります。
これは一見すると不思議に見えます。
しかし、少数株主は会社の20億円の純資産を自由に取り出すことができません。
受け取れる経済的利益が配当中心であるなら、その株式を配当から評価することには一定の合理性があります。
同族株主とは何か
配当還元方式を理解するには、同族株主という考え方が重要です。
同族株主とは、簡単にいえば、本人や親族など一定の関係者を含めて会社の議決権を大きく保有している株主グループです。
会社を実質的に支配する立場にある株主については、少数株主と同じように配当だけを見て評価することは適切ではありません。
会社の経営権や資産を支配する力があるからです。
そのため、同族株主などについては原則的評価方式を使います。
少数株主とは単に持株比率が低い人ではない
少数株主かどうかは、単に本人の持株比率だけで決まるわけではありません。
本人だけでは少数でも、親族などを含めた株主グループ全体では会社を支配している場合があります。
たとえば本人が5パーセントしか持っていなくても、親や兄弟などを含む同族グループが80パーセントを保有していれば、単純な外部少数株主とは性格が異なります。
そのため、配当還元方式を使えるかどうかについては、株主構成や議決権割合などを確認する必要があります。
配当を下げれば株価も下がるという問題
配当還元方式では、配当額が評価に影響します。
そのため、会社側が配当政策を決められる同族会社では、
配当を少なくする
少数株主の評価額が下がる
という関係が生じる可能性があります。
会社に多額の純資産と利益があっても、配当だけを低く抑えれば少数株主の評価額が低くなるのであれば、それが適正な時価を表しているのかという問題が出てきます。
今回の非上場株評価見直しでは、こうした評価制度上の歪みについても検討する必要があります。
新ルールでは少数株主をどう評価するのか
今回示されている新ルール案では、会社の簿価純資産と今後5年間の収益力を基礎として非上場株を評価する方向です。
しかし、これを少数株主にもそのまま適用するのかは重要な問題です。
会社全体の企業価値が10億円だったとしても、1パーセントの株式を持つ少数株主が、その価値の1パーセントである1000万円を自由に回収できるとは限りません。
売却先がない。
経営権がない。
配当政策を決められない。
こうした少数株主特有の制約があります。
そのため、新ルールでも少数株主について何らかの別の評価方法や調整が必要になる可能性があります。
配当還元方式が完全に廃止されるとは限らない
類似業種比準方式が廃止される方向だからといって、配当還元方式も当然に廃止されるとは限りません。
二つは役割が違います。
類似業種比準方式は会社全体の価値を評価するための方式です。
配当還元方式は会社を支配しない少数株主の株式価値を評価するための方式です。
したがって、新しい原則的評価方式が導入されたとしても、
支配株主には新方式
少数株主には別の簡便な評価方式
という構造が残る可能性があります。
具体的な扱いは今後の制度設計を確認する必要があります。
還元率が見直されれば評価額は大きく変わる
仮に配当還元方式そのものが残ったとしても、10パーセントという還元率が変更されれば株価は大きく変わります。
たとえば現在10パーセントの還元率が5パーセントになれば、単純計算では同じ配当額でも評価額は2倍になります。
10パーセントから4パーセントなら、2.5倍です。
したがって、少数株主にとっては、
配当還元方式が残るか
という問題だけでなく、
還元率が何パーセントになるか
が非常に重要です。
少数株主の相続や贈与にも影響する
非上場株の事業承継では、経営者一族だけを見ることが多いですが、少数株主にも相続は発生します。
創業時から株式を持っている元役員。
取引先。
従業員持株。
親族の一部。
こうした株主が亡くなれば、その非上場株も相続財産になります。
配当還元方式の見直しによって評価額が上昇すれば、少数株主側の相続税負担にも影響する可能性があります。
評価制度の改革は、経営権を持つオーナーだけの問題ではありません。
会社側にも株主整理の問題が出てくる
少数株主の株価が変われば、会社側の資本政策にも影響します。
非上場会社では、長年の相続によって株主が増え続けることがあります。
創業者の兄弟。
その子ども。
さらにその孫。
このように株式が細分化すると、株主総会の運営や株式買い取りなどが複雑になります。
そこで会社や主要株主が少数株主から株式を買い取ることがあります。
税務上の評価額が変われば、こうした株主整理の価格を考える際にも影響する可能性があります。
配当政策だけで評価を考える時代は変わる可能性がある
新しい非上場株評価制度は、会社の経済実態をより直接的に株価へ反映しようとする方向にあります。
その考え方からすると、少数株主についても、
配当だけを見るのか
会社の純資産や収益力も一定程度考慮するのか
非上場株の換金困難性をどのように調整するのか
という問題を改めて整理する必要があります。
配当還元方式が残るとしても、現在と全く同じ仕組みが維持されるとは限りません。
結論
配当還元方式とは、非上場会社の経営を支配しない少数株主などが持つ株式について、その株式から受け取る配当を基礎として評価する方法です。
現在の制度では、同族株主など会社を支配する株主については類似業種比準方式や純資産価額方式などを使い、一定の少数株主については配当還元方式を利用します。
配当還元方式では10パーセントという還元率が重要です。
還元率が高いほど評価額は低くなり、低いほど評価額は高くなります。
この10パーセントという水準については、現在の金利環境や経済実態との乖離も指摘されています。
今回の非上場株評価制度の抜本改正では、会社全体の評価方法だけでなく、少数株主をどのように評価するのかも重要な論点になります。
新しい純資産と収益力を基礎とする方式を少数株主にもそのまま適用するのか。
配当還元方式を残すのか。
還元率を見直すのか。
こうした制度設計によって、少数株主の相続税や贈与税も大きく変わる可能性があります。
非上場株評価の約60年ぶりの改革は、会社オーナーだけでなく、その会社の株式を少数保有する株主にとっても重要な制度変更になる可能性があります。
参考
日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の評価、新ルール案 中小・零細で相続税減
日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の相続税、大規模・高収益なら負担増 国税庁案
日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の算定方法 企業規模に応じ3方式