残余利益方式とは何か 簿価純資産と会社の収益力から非上場株を評価する仕組み編

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

非上場株式の相続税評価について、大きな見直しにつながる可能性のある考え方として注目されているのが「残余利益方式」です。

現在の非上場株評価では、会社規模などに応じて類似業種比準方式や純資産価額方式などが使われています。

これに対して残余利益方式では、会社がこれまで蓄積してきた「簿価純資産」と、その会社が将来にわたって利益を生み出す「収益力」の両方から企業価値を考えます。

つまり、会社が「どれだけ財産を持っているのか」だけでなく、「その財産を使ってどれだけ利益を生み出しているのか」を株式評価に反映させる考え方です。

国税庁の税務大学校の研究でも、残余利益法には簿価純資産価額を評価要素に含めながら、会社の収益力を反映できる特徴があるとされています。

残余利益とは何か

残余利益という言葉から、「会社が稼いだ利益のうち最後に残ったお金」と考えるかもしれません。

しかし、会計上の純利益と残余利益は違います。

残余利益とは、簡単にいえば、

「会社が稼いだ利益から、株主が会社に提供している資本に対して最低限必要と考えられる利益を差し引いたもの」

です。

例えば、ある会社の簿価純資産が1億円だったとします。

そして、この会社に求められる収益率を仮に5%とします。

1億円の資本に対して5%の収益が必要だと考えれば、会社には年間500万円の利益が求められます。

この500万円が、いわば株主の資本に対して最低限求められる利益です。

ところが実際に会社が1000万円の利益を稼いでいたとします。

すると、

1000万円から500万円を差し引いた500万円

が残余利益になります。

会社が株主から預かった資本に対して求められる利益以上の利益を生み出しているわけです。

この超過部分に経済的な価値があると考えるのが、残余利益方式の基本的な発想です。

簿価純資産との関係

残余利益方式を理解するうえで、もう一つ重要なのが「簿価純資産」です。

簿価純資産とは、基本的には会社の貸借対照表に計上されている資産から負債を差し引いた純資産です。

例えば、

資産が3億円

負債が2億円

であれば、単純化すると簿価純資産は1億円です。

残余利益方式では、この簿価純資産が企業価値を考える出発点になります。

そのうえで、その会社が簿価純資産に見合った利益をどれだけ生み出しているのかを考えます。

つまり、

簿価純資産という「現在までに積み上げられた価値」

と、

残余利益という「利益を生み出す力から生まれる価値」

を組み合わせて株式価値を考えるわけです。

ここが、単純に会社の利益だけから企業価値を計算する方法との大きな違いです。

通常の利益と残余利益は何が違うのか

会社が1000万円の純利益を出していれば、「1000万円も利益があるのだから収益力の高い会社だ」と考えたくなります。

しかし、残余利益方式では利益の金額だけでは判断しません。

重要なのは、その利益を生み出すためにどれだけの資本が使われているかです。

例えば、A社とB社がともに年間1000万円の利益を出しているとします。

A社の簿価純資産は1億円です。

B社の簿価純資産は5億円です。

両社とも利益は1000万円なので、通常の損益計算書だけを見れば同じ収益です。

しかし、資本に対する収益力は大きく違います。

A社は1億円の純資産から1000万円を稼いでいます。

単純に考えれば10%の収益力です。

一方、B社は5億円の純資産を使って1000万円を稼いでいます。

こちらは2%です。

仮に株主から求められる収益率が5%なら、A社は必要な利益を上回っています。

反対にB社は必要な利益を下回っています。

つまり、同じ1000万円の黒字会社でも、残余利益はまったく違ってくるのです。

黒字なら残余利益もプラスとは限らない

ここは残余利益方式を理解するうえで非常に重要です。

会社が黒字だからといって、残余利益までプラスになるとは限りません。

例えば、簿価純資産5億円の会社に5%の収益率が求められているとします。

この場合、必要とされる利益は2500万円です。

実際の利益が1000万円なら会社としては黒字です。

しかし、

1000万円から2500万円を差し引くとマイナス1500万円

になります。

残余利益という考え方では、この会社は株主から提供された資本に見合うだけの利益を生み出していないことになります。

反対に、簿価純資産1億円の会社が1000万円を稼いでいれば、同じ条件なら必要利益は500万円です。

残余利益は500万円のプラスになります。

そのため残余利益方式では、単なる利益額ではなく「資本をどれだけ効率よく利益に変えているのか」が重要になります。

なぜ簿価純資産だけでは会社の価値を測れないのか

例えば、純資産が同じ1億円の会社が二つあったとします。

一方は毎年2000万円の利益を安定的に稼いでいます。

もう一方は毎年100万円程度しか利益を出していません。

簿価純資産だけを見れば、どちらも1億円です。

しかし会社を買う立場になって考えてみると、両社を同じ1億円の価値だと考えることには違和感があります。

毎年2000万円を稼ぐ会社には、貸借対照表に現れている純資産とは別に、顧客基盤、営業力、技術力、ブランド、人材、ノウハウなどが存在している可能性があります。

こうしたものは必ずしも貸借対照表に資産として計上されません。

それでも利益を生み出す力になっています。

残余利益方式は、このような貸借対照表だけでは捉えにくい会社の収益力を株式価値に反映させようとする考え方です。

なぜ利益だけで会社の価値を決めないのか

それなら、純資産を使わず利益だけで会社を評価すればよいのではないかという疑問も出てきます。

しかし、それにも問題があります。

利益は毎年変動します。

景気や取引先の状況によって一時的に利益が増減することもあります。

さらに将来の利益を予測する場合、その予測次第で評価額が大きく変わってしまいます。

国税庁の税務大学校の研究でも、将来収益を使った評価方法については、将来収益の予測が難しく、収益や還元率の見積もりによって評価額が大きく左右されるという問題が指摘されています。

その点、残余利益方式では企業価値のすべてを将来利益だけから計算するのではありません。

まず簿価純資産という実際の貸借対照表上の数字を土台にします。

そのうえで、収益力から生じる価値を加えるという構造になっています。

残余利益方式は予測への依存を小さくできる

国税庁の研究で残余利益法のメリットとして挙げられているのが、将来予測への依存度を低くできることです。

企業価値評価には、将来のキャッシュフローなどを予測して現在価値に割り引く方法があります。

理論的には合理的ですが、相続税評価として全国の膨大な非上場会社に適用しようとすると難しい問題があります。

5年後や10年後の利益を誰が予測するのか。

成長率を何%にするのか。

予測が外れた場合はどう考えるのか。

会社側と税務当局で予測が違えばどうするのか。

こうした問題が発生します。

残余利益方式なら、簿価純資産という客観的に確認しやすい数字を評価の土台として利用できます。

国税庁の研究では、一定の仮定を置けば、株主資本コストと成長率以外の数値について貸借対照表と損益計算書から抽出できる算式にできるとされています。

これは相続税実務では大きな意味を持ちます。

なぜ非上場株評価に向いているのか

上場会社には市場株価があります。

東京証券取引所などで株式が売買されているため、投資家が会社の将来性や収益力を評価した結果が株価として表れています。

しかし非上場会社には通常、そのような市場価格がありません。

そこで何らかの方法によって会社の株式価値を計算する必要があります。

現在は会社規模などによって、類似業種比準方式や純資産価額方式などを使い分けています。

これに対して残余利益方式には、

会社自身の貸借対照表

会社自身の損益計算書

会社自身の収益力

を中心として評価できるという特徴があります。

他の上場会社の株価だけに大きく依存せず、その会社自身の財務内容から株式価値を考えられるわけです。

特に中小企業では、同じ業種であっても収益力や財務内容に大きな違いがあります。

その意味でも、自社の純資産と収益力を直接評価する考え方には一定の合理性があります。

残余利益方式では高収益会社の株価が高くなりやすい

残余利益方式が導入された場合、特に影響を受ける可能性があるのが収益力の高い会社です。

簿価純資産に対して十分な利益を上げている会社では残余利益がプラスになります。

その残余利益が企業価値に反映されれば、簿価純資産だけから考えた価値より株式評価額が高くなる可能性があります。

反対に、多額の純資産を持っていても十分な利益を生み出していない会社では、残余利益が小さくなったり、マイナスになったりする可能性があります。

つまり新しい考え方では、

「資産をたくさん持っている会社」

だけではなく、

「資本を使って効率よく利益を生み出している会社」

が高く評価される可能性があるのです。

残余利益方式を理解する鍵は株主資本コスト

ただし、残余利益を計算するためには非常に重要な数字があります。

それが「株主資本コスト」です。

先ほどの例では、説明を簡単にするために株主から求められる収益率を5%としました。

しかし、なぜ5%なのかという問題があります。

4%なら残余利益は増えます。

8%なら残余利益は減ります。

つまり、株主資本コストを何%に設定するかによって残余利益が変わり、最終的な非上場株の評価額にも影響します。

残余利益方式が実際の相続税評価に採用される場合、この株主資本コストをどのように決めるのかが極めて重要な論点になります。

結論

残余利益方式とは、会社の株式価値を「簿価純資産」と「その資本からどれだけ利益を生み出しているか」という二つの側面から評価する考え方です。

残余利益は単なる会社の純利益ではありません。

会社が稼いだ利益から、株主が提供している資本に対して最低限必要とされる利益を差し引いたものです。

そのため会社が黒字でも、資本に見合った利益を生み出していなければ残余利益はマイナスになることがあります。

逆に、比較的小さな純資産から大きな利益を生み出している会社では残余利益が大きくなります。

この仕組みによって、簿価純資産という比較的客観的な数字を土台にしながら、会社固有の収益力を非上場株の価値に反映できるところが残余利益方式の特徴です。

非上場株評価の新しい方向性を理解するためには、まず「利益が多い会社ほど高い」という単純な話ではなく、「会社に投入されている資本に対してどれだけ利益を生み出しているのか」という考え方を押さえることが重要です。

そして、その計算を左右する重要な数字が株主資本コストです。

次に残余利益方式を深く理解するうえでは、この株主資本コストとは何なのかを理解する必要があります。

参考

国税庁 税務大学校論叢第96号 2019年6月 今後の取引相場のない株式の評価のあり方

国税庁 税務大学校 残余利益モデルによる株式評価 非上場株式への適用をめぐって

タイトルとURLをコピーしました