シニアの自己評価と市場評価はなぜずれるのか 長年の会社員経験が転職市場でそのまま通用しない理由編

人生100年時代
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長年会社で働いてきた人が再就職活動を始めると、思っていたような求人が見つからないことがあります。

管理職を経験してきた。

大きな仕事を任されてきた。

社内では高く評価されていた。

専門分野で何十年も働いてきた。

それなのに、転職市場では希望する賃金や役職の求人が少ない。

こうしたときに起きている可能性があるのが、自己評価と市場評価のずれです。

これは本人の長年の経験に価値がないという意味ではありません。

会社の中で評価されるものと、労働市場で評価されるものが必ずしも同じではないということです。

シニアが再就職を考えるときには、過去の肩書や勤続年数ではなく、

別の会社でも何ができるのか

という視点から自分の経験を捉え直すことが重要になります。

社内評価と市場評価は違う

長年同じ会社で働いていると、自分の評価はその会社の中で形成されます。

例えば、

部長になった

重要な取引先を任された

大規模なプロジェクトを担当した

多くの部下を持った

経営会議に参加した

という経験があります。

これらは会社の中では重要な評価です。

しかし転職すると、以前の会社の評価制度から離れます。

新しい会社が知りたいのは、

以前の会社でどれだけ偉かったか

ではなく、

自社でどのような仕事ができるのか

です。

この評価軸の変化を理解することが必要です。

長年勤めたこと自体が能力とは限らない

勤続30年という経歴には大きな重みがあります。

しかし転職市場では、

30年間働いた

という事実だけでは具体的な能力が分かりません。

採用する企業から見れば、

その30年間で何を経験したのか

何ができるようになったのか

どのような成果を上げたのか

が重要です。

例えば同じ30年間でも、

一つの定型業務だけを続けてきた人

と、

複数の部署を経験し、問題解決や人材育成をしてきた人

では持っている能力が違います。

経験年数を示すだけではなく、その中身を説明する必要があります。

役職とスキルは同じではない

シニアの自己評価と市場評価がずれる原因の一つが、役職とスキルの混同です。

例えば、

営業部長でした

という説明です。

部長という役職は、以前の会社では責任や権限を示していました。

しかし会社によって部長の役割は違います。

数人を管理する部長もいれば、数百人を管理する部長もいます。

自ら営業する人もいれば、組織管理だけを担当する人もいます。

そこで役職を具体的な能力へ分解します。

例えば、

営業戦略の策定

予算管理

部下20人の育成

重要顧客との交渉

新規市場の開拓

業務改善

などです。

こうすれば、別の会社でも利用できる能力が見えてきます。

会社固有の能力と持ち運べる能力がある

長年同じ会社で働くと、その会社だからこそ価値を持つ能力も身につきます。

例えば、

社内の意思決定の流れを知っている

誰に相談すれば問題が解決するか分かる

独自システムを使いこなせる

社内の人脈を持っている

特定顧客との関係がある

といったものです。

これらは現在の会社では大きな価値があります。

しかし別の会社へ移ると、そのまま利用できない場合があります。

一方、

交渉

問題解決

人材育成

計画策定

業務改善

専門知識

などは会社が変わっても利用できる可能性があります。

これがポータブルスキルです。

再就職では、会社固有の能力と持ち運べる能力を分けて考える必要があります。

自分にとって当たり前のことほど見落としやすい

自己評価が正確でない原因は、自分を高く評価しすぎることだけではありません。

逆に、自分の能力を過小評価している場合もあります。

長年仕事をしていると、

できて当たり前

になっていることがあります。

例えば、

顧客から事情を聞いて問題を整理する

関係部署を調整する

部下へ仕事を教える

トラブルの原因を見つける

経営者へ複雑な内容を説明する

といった能力です。

本人にとっては日常業務なので、

特別なスキルではない

と思うかもしれません。

しかし別の企業では、その能力を持つ人を必要としている場合があります。

キャリアの棚卸しでは、こうした本人が気づいていない能力を見つけることも重要です。

市場評価は企業の需要で決まる

高い能力を持っていれば、必ず高く評価されるわけではありません。

労働市場では、

その能力を必要としている企業があるか

が重要だからです。

例えば非常に専門的な社内システムの知識を持っていても、そのシステムを使う企業がほとんどなければ転職市場での需要は限られます。

一方、多くの企業が必要としている能力を持つ人が少なければ、高く評価される可能性があります。

つまり市場評価は、

自分が何をできるか

だけではなく、

企業が何を必要としているか

との組み合わせで決まります。

自己評価と市場評価がずれるのは、自分の経験だけを見て企業側の需要を見ていない場合にも起こります。

過去の給与が市場価値を示すとは限らない

シニアの再就職では、

以前は年収1000万円だった

ということを自分の市場価値の基準にしてしまう場合があります。

しかし以前の給与には、

勤続年数

役職

社内での責任

会社独自の賃金制度

などが含まれています。

転職先で同じ仕事や責任を担当するとは限りません。

例えば以前は100人の部下を管理していた人が、再就職後は専門業務だけを担当するなら、給与水準が変わるのは不自然ではありません。

重要なのは、

以前いくらもらっていたか

ではなく、

次の仕事にどの程度の価値を提供できるか

です。

経験を具体的な能力へ変換する

自己評価と市場評価のずれを小さくするには、自分の経験を具体的な能力へ変換することが重要です。

例えば、

経理部長を経験

ではなく、

決算業務を統括

予算管理を担当

資金繰りを管理

監査法人との対応

経営陣への財務報告

部下10人を育成

という形にします。

さらに、

何を改善したのか

どのような成果を出したのか

まで整理します。

例えば、

決算期間を短縮した

業務を標準化した

資金調達コストを削減した

若手社員を育成した

などです。

経験を具体化するほど、企業は採用後の働き方を想像しやすくなります。

数字で説明できる経験は分かりやすい

職務経験を説明するときには、可能であれば数字を使うと具体的になります。

例えば、

多くの部下を管理した

より、

20人の組織を管理した

の方が分かりやすくなります。

売上を伸ばした

より、

担当部門の売上を3年間で増加させた

などと説明できれば、成果を理解しやすくなります。

ただし数字だけを並べればよいわけではありません。

その成果を、

どのような方法で実現したのか

を説明することが重要です。

そこに再現可能なスキルが表れます。

第三者との対話で自分の能力が見えることがある

自分の能力を自分だけで評価することは簡単ではありません。

そこで、

キャリアコンサルタント

ハローワークの相談員

転職エージェント

など第三者との対話が役立つ場合があります。

例えば、

その仕事で一番難しかったことは何ですか

どのように解決しましたか

他の人ではなく、なぜあなたが担当したのですか

と質問されることで、自分の能力を具体化できます。

逆に、

その経験はこの求人ではあまり評価されません

という市場側からの情報を得られることもあります。

自己評価だけではなく、外部からの評価を取り入れることが重要です。

希望条件を見直すことは経験を否定することではない

再就職活動を続けても希望する求人が見つからない場合、条件を見直す必要が出てくることがあります。

例えば、

賃金

役職

職種

勤務地

勤務日数

などです。

条件を下げることを、

自分の価値を下げること

と感じる人もいるかもしれません。

しかし、そうとは限りません。

例えば賃金を少し下げる代わりに、

勤務時間を短くする

責任を軽くする

自分の専門分野だけを担当する

という働き方もあります。

再就職では定年前と同じ条件を再現することだけが成功ではありません。

自分が何を優先するのかを考えることが重要です。

AIで市場評価を把握しやすくなる可能性がある

今後はAIを利用して、自己評価と市場評価のずれを把握しやすくなる可能性があります。

例えば職務経歴をAIで分析し、

どのスキルを持っているのか

を抽出します。

さらに求人情報を分析し、

どのスキルへの需要が強いのか

どの程度の賃金で募集されているのか

を比較します。

すると、

自分では重要だと思っていた能力への需要が少ない

逆に自分では意識していなかった能力への需要がある

といったことが見えてくる可能性があります。

AIは、自分の経験を労働市場という外側の視点から見るための道具にもなり得ます。

シニアほど早い時期から市場を見る

自己評価と市場評価のずれは、定年後に初めて転職活動をすると大きく感じる可能性があります。

長年社内評価だけで働いてきたからです。

そのため、定年前から外部の労働市場を見ることが重要です。

自分と同じ経験を持つ人にはどのような求人があるのか。

どのスキルが求められているのか。

どの程度の賃金なのか。

不足する能力は何か。

早い時期に把握できれば、必要なリスキリングを行う時間も確保できます。

定年直前になって市場価値を確認するのではなく、働いている間から定期的に確認することが重要になります。

結論

シニアの自己評価と市場評価がずれる大きな理由は、会社の中で評価されるものと、転職市場で評価されるものが違うからです。

長年勤務したこと。

管理職だったこと。

大きな責任を負っていたこと。

これらは重要な経験です。

しかし転職市場では、それだけで評価が決まるわけではありません。

企業が知りたいのは、

その経験を使って自社で何ができるのか

です。

そのため、

部長だった

営業を30年間経験した

大企業で働いていた

という経歴を、

人材育成

顧客との交渉

問題解決

業務改善

予算管理

専門的な判断

といった具体的な能力へ変換する必要があります。

同時に、自分の能力を必要としている企業がどの程度あるのかという労働市場側の視点も必要です。

市場評価を知ることは、自分の過去を否定することではありません。

長年積み上げてきた経験の中から、別の会社でも価値を生み出せる部分を見つける作業です。

社内の肩書から外部で使えるスキルへ。

過去の給与から現在の市場需要へ。

自己評価だけから客観的な労働市場評価へ。

この視点を持つことが、シニアが長年の経験を次の仕事へつなげるための重要な準備になるでしょう。

参考

日本経済新聞 2026年8月19日朝刊 老いるハローワークとAI

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