地方自治体が道路や学校、公共施設などを整備するために地方債を発行すると、その時点では多額の資金を確保できます。
しかし地方債は自治体にとって借金です。
将来は元金を返済し、借りている間は利息を支払わなければなりません。
こうした地方債の元金返済や利払いなどに使われる経費が公債費です。
地方債を発行した年度には公共事業を進めることができますが、その負担はその後の予算に公債費として表れます。
公債費が増えれば、税収が同じでも教育、福祉、子育て、防災などに自由に使えるお金が少なくなります。
金利上昇によって地方債の利払い負担が増える時代には、地方債残高だけでなく毎年度どれだけの公債費を負担しなければならないのかを見ることが重要になります。
公債費とは地方債の返済に使う経費
公債費とは、地方自治体が過去に発行した地方債について、元金の返済や利息の支払いなどに充てる経費です。
例えば自治体が公共施設を整備するために100億円の地方債を発行したとします。
100億円を調達した年度には、公共施設の建設資金として利用できます。
しかし借りた100億円は返さなければなりません。
さらに返済までの間には利息も発生します。
こうした元金と利息の支払いが、将来の自治体予算に公債費として計上されます。
地方債を発行するということは、現在使える財源を増やす代わりに、将来の予算の一部を返済のために使うことを意味します。
公債費には元金返済と利払いがある
地方債の負担を考えるときには、元金と利息を分けて考えると分かりやすくなります。
元金は自治体が実際に借りたお金です。
100億円の地方債を発行すれば、最終的にはその100億円を返済する必要があります。
一方、利息はお金を借りていることに対して支払う費用です。
例えば100億円を金利3%で借りていれば、単純化すると年間3億円の利息が発生します。
元金は借りたお金を返しているだけですが、利息は資金を調達したことによって追加的に発生するコストです。
そのため金利が上昇すれば、同じ金額の地方債を発行しても自治体の最終的な財政負担は大きくなります。
公債費は過去の政策によって決まる
公債費には大きな特徴があります。
現在の自治体が自由に決められる部分が小さいことです。
例えば今年、新しい公共施設を造らないことにしたとしても、過去に発行した地方債の返済を止めることはできません。
10年前や20年前に実施した公共事業の地方債が残っていれば、その元金と利息を支払う必要があります。
つまり現在の公債費は、過去の自治体が行った公共投資や資金調達の結果でもあります。
地方債を大量に発行すれば、その年度の公共事業は進めやすくなります。
しかし数年後、十数年後には公債費として予算を圧迫する可能性があります。
地方債による公共投資を考える場合には、建設年度だけでなく、その後の返済期間まで見る必要があります。
一般財源とは自治体が比較的自由に使えるお金
公債費の負担を考えるうえで重要になるのが一般財源です。
自治体の財源には、使い道があらかじめ決められているものと、比較的自由に使えるものがあります。
地方税や地方交付税などは代表的な一般財源です。
自治体は一般財源を使って福祉、教育、子育て、防災、道路管理などさまざまな行政サービスを行います。
ところが地方債の元利返済にも財源が必要です。
一般財源の中から公債費として多額の資金を支出すれば、その分だけ他の政策に使えるお金は減ります。
例えば一般財源が5000億円あり、そのうち公債費が500億円なら、単純に考えれば残るのは4500億円です。
公債費が1000億円に増えれば、残るのは4000億円になります。
税収が変わらなくても、借金返済が増えるだけで政策に使える余地が小さくなるのです。
公債費が増えると財政が硬直化する
自治体財政では、自由に減らしにくい支出が増えることを財政の硬直化と表現することがあります。
公債費はその代表的な経費です。
地方債の返済を、財政が苦しいから今年だけやめるということはできません。
職員の人件費や社会保障関係費などと同様に、公債費も一定額を確保しなければならない支出です。
こうした固定的な支出の割合が大きくなるほど、新しい政策に使える財源が少なくなります。
例えば子育て支援を充実させたい、防災設備を整備したい、新しい産業政策を行いたいと考えても、既存の公債費が大きければ財源を確保しにくくなります。
過去の借金返済によって現在の政策選択の自由が狭くなるわけです。
金利上昇は公債費を押し上げる
公債費には元金返済だけでなく利払いが含まれます。
そのため金利上昇は公債費を増加させる要因になります。
超低金利時代には、地方自治体は非常に低い金利で資金を調達することができました。
川崎市が2021年12月に発行した10年債の表面利率は0.105%でした。
ところが2026年8月に発行した10年債は3.017%となっています。
同じ100億円を借りても、金利水準が違えば利払い負担は大きく異なります。
さらに過去の低金利債が満期を迎え、高い金利で借り換えるようになれば、地方債残高が大きく増えなくても利払い額が増える可能性があります。
金利上昇の影響は時間をかけて公債費に表れてくるのです。
川崎市では公債費が1000億円を超える見通し
川崎市では大型公共事業が相次いでいます。
JR南武線の高架化事業や等々力緑地の整備、学校体育館への空調設備整備などによって、市債発行額は増加する見通しです。
2027年度には市債発行額が1000億円を超え、2029年度には1233億円まで増えると見込まれています。
借入額が増えれば、その後の元金返済も増えます。
さらに金利上昇によって利払い負担も増えます。
その結果、川崎市の公債費は実質一般財源ベースで2026年度の857億円から、2030年度以降には1000億円を超える見通しです。
公共事業を行ったときの負担が、数年後の予算に公債費として表れてくることが分かります。
税収が増えても自由に使えるお金が増えるとは限らない
川崎市では市税収入が増えています。
2025年度の市税収入は4161億円となり、前年度から252億円増加しました。
税収増は自治体財政にとって大きな好材料です。
しかし税収が250億円増えたからといって、その250億円をすべて新しい行政サービスに使えるわけではありません。
公債費や社会保障費、人件費などが同時に増えていれば、税収増のかなりの部分が既存の支出増加に吸収されます。
特に公債費は過去の地方債発行によって将来の支出がある程度決まっています。
自治体財政を見る場合には、税収が増えたかどうかだけでなく、その税収から固定的な支出を差し引いた後にどれだけ財源が残るのかを見る必要があります。
公債費が大きいことだけで財政危機とはいえない
公債費が増えているからといって、直ちに自治体財政が危険だと判断することもできません。
人口や経済規模が大きい自治体では、地方債発行額も公債費も大きくなる傾向があります。
重要なのは、その自治体の財政規模に対して返済負担がどの程度なのかです。
税収が安定して増え、十分な基金があり、公債費を支払った後にも行政サービスに必要な財源を確保できるのであれば、大きな地方債残高を抱えていても財政運営を続けることはできます。
反対に地方債残高そのものは小さくても、人口減少や税収減によって返済能力が低下していれば注意が必要です。
そのため自治体の借金返済能力を判断するときには、実質公債費比率など財政規模との関係を考慮した指標が利用されます。
将来の公債費まで考えて公共事業を判断する
大型公共事業を検討するときには、建設費そのものが注目されます。
例えば1000億円の事業であれば、1000億円という金額が大きく報道されます。
しかし自治体財政にとって重要なのは建設費だけではありません。
そのうちどれだけを地方債で調達するのか。
何年間で返済するのか。
金利はいくらなのか。
将来の公債費はいくらになるのか。
さらに施設完成後には維持管理費も発生します。
公共事業の本当の財政負担は、建設した年度だけでは分かりません。
地方債の返済と施設の維持管理まで含めて、数十年間の負担を考える必要があります。
金利上昇時代には、この視点がこれまで以上に重要になります。
結論
公債費とは、地方自治体が過去に発行した地方債の元金返済や利払いなどに使う経費です。
地方債を発行すれば現在の公共投資に使える資金は増えますが、その負担は将来の予算に公債費として表れます。
公債費が増えれば、税収が同じでも福祉、教育、子育て、防災などに自由に使える財源は少なくなります。
さらに公債費は簡単に削減できないため、その割合が大きくなるほど自治体財政は硬直化します。
金利上昇によって新しい地方債の利払いが増え、過去の低金利債も借り換えによって高い金利へ置き換われば、公債費は時間をかけて増えていく可能性があります。
地方債を考えるときに重要なのは、今いくら借りられるかだけではありません。
その借金によって、5年後、10年後、20年後の予算がどれだけ拘束されるのか。
金利のある時代には、将来の公債費まで見据えた公共投資と財政運営が求められます。
参考
日本経済新聞 2026年8月19日 川崎市、大型投資続き市債発行増 30年ぶり高金利 逆風