大学の収入というと、まず学生が支払う授業料を思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし、大学を運営するためには教育施設の維持、研究設備への投資、教職員の人件費、学生への奨学金など多くの資金が必要です。
特に少子化によって十八歳人口が減少していく日本では、学生数の確保がこれまで以上に難しくなります。
そこで重要になっているのがファンドレイジングです。
ファンドレイジングとは、大学などの組織が活動に必要な資金を外部から継続的に集める取り組みです。
単に寄付をお願いするだけではありません。
大学がどのような教育や研究を行い、社会にどのような価値を提供しているのかを伝え、その活動に共感する人との関係を築きながら支援を集めていきます。
大学経営にとってファンドレイジングは、授業料や補助金だけに依存しない財務基盤をつくるための重要な取り組みになりつつあります。
ファンドレイジングとは何か
ファンドレイジングは、直訳すると資金を集めるという意味です。
一般には、非営利団体や学校法人などが活動に必要な資金を寄付などによって調達する取り組みを指します。
大学の場合、卒業生や保護者、企業、地域住民など幅広い人や組織が対象になります。
例えば大学が奨学金基金をつくり、卒業生から寄付を募ることもファンドレイジングです。
研究施設を建設するために企業や富裕層から大口寄付を集めることもあります。
最近ではインターネットを利用した寄付やクラウドファンディング、ふるさと納税を活用した大学支援など、資金を集める方法も多様化しています。
重要なのは、一回だけ寄付を集めて終わる活動ではないということです。
大学の活動を理解してもらい、支援者との関係を長期間にわたって築いていくことがファンドレイジングの中心になります。
大学が寄付を集める理由
大学が寄付を集める大きな理由は、教育や研究に使える資金を増やすことです。
大学の財源には授業料、入学金、国や自治体からの補助金、研究費、事業収入などがあります。
しかし、これらの財源だけですべての活動を賄えるとは限りません。
例えば新しい研究分野に挑戦する場合、大型の研究設備が必要になることがあります。
経済的に困難な学生を支援するためには奨学金も必要です。
海外の大学との交流や留学生支援、新しい教育プログラムにも資金がかかります。
寄付金には、こうした活動を支える役割があります。
さらに寄付者が使い道をある程度指定できる仕組みを設ければ、大学が行う特定の教育や研究を直接支援してもらうこともできます。
寄付金は大学が新しい取り組みに挑戦するための財源にもなります。
授業料への依存には限界がある
日本の大学、特に私立大学では授業料などの学生納付金が重要な収入源です。
学生が安定して入学してくれば、授業料収入も安定します。
しかし、少子化が進む社会ではこの前提が崩れていきます。
十八歳人口が減少すれば、大学間で学生を獲得する競争が激しくなります。
定員を満たせない大学が増えれば、授業料収入も減少します。
だからといって、授業料を大幅に引き上げれば学生や家庭の負担が重くなります。
大学にとっては、学生数を増やすことや授業料を引き上げることだけで収入を確保する経営には限界があります。
そこで、寄付金や研究資金、産学連携による収入など、授業料以外の財源を増やす必要があります。
ファンドレイジングは、大学の収入源を多様化する手段の一つです。
卒業生は大学にとって重要な支援者になる
大学のファンドレイジングで特に重要なのが卒業生です。
大学には毎年多くの卒業生が生まれます。
卒業して十年、二十年、三十年とたてば、企業の経営者や役員、専門職などとして活躍する人も増えていきます。
大学にとって卒業生は、長期間にわたって関係を築くことのできる重要な存在です。
ただし、卒業したからといって自然に寄付してくれるわけではありません。
卒業後も大学の情報を届けたり、同窓会やイベントを開いたり、研究成果を紹介したりすることで、大学との関係を維持する必要があります。
大学への愛着や教育研究への共感があって初めて、寄付につながります。
ファンドレイジングでは、寄付をお願いする前の関係づくりが重要になります。
保護者との関係も卒業後まで続く
在学生の保護者も大学にとって重要な支援者です。
子どもが大学でどのような教育を受け、どのように成長しているのかを知ることで、大学への理解が深まります。
例えば学生への奨学金や課外活動、留学支援などについて大学が丁寧に情報を発信すれば、その活動を応援したいと考える保護者も出てきます。
重要なのは、子どもが卒業した時点で関係を終わらせないことです。
大学での経験に満足している家庭であれば、卒業後も大学を支援する可能性があります。
卒業生本人だけでなく、その家族まで含めて大学との長期的な関係を築くことが、寄付者の裾野を広げることにつながります。
少額寄付にも大きな意味がある
大学への寄付というと、一千万円や一億円といった富裕層による大口寄付を想像するかもしれません。
もちろん大口寄付は大学にとって重要です。
しかし、ファンドレイジングでは少額寄付も重要です。
例えば一人一万円でも、一万人が寄付すれば一億円になります。
さらに多くの人が毎年継続して寄付すれば、大学にとって安定した財源になります。
少額寄付には別の意味もあります。
寄付者の人数が多いということは、それだけ多くの人が大学の活動を支持していることを示します。
大学にとって寄付者は単なる資金提供者ではなく、大学を応援する支援者でもあります。
ふるさと納税やインターネット寄付などによって寄付のハードルを下げることには、支援者の裾野を広げる意味があります。
寄付をお願いするだけでは集まらない
ファンドレイジングで最も重要なのは、寄付を求めることだけではありません。
大学が何を実現したいのかを明確にする必要があります。
例えば経済的な理由で進学を諦める学生をなくしたいという目的があれば、奨学金への寄付を募ることができます。
難病の治療法を研究したいのであれば、その研究内容や社会的意義を説明して支援を求めることができます。
地域の農業を支援する研究であれば、地域住民や地元企業から寄付を集められる可能性があります。
寄付者は、単に大学がお金に困っているから寄付するとは限りません。
自分のお金によってどのような変化が生まれるのかを知りたいと考えます。
そのため大学には、寄付金の使い道と成果を分かりやすく伝えることが求められます。
寄付後の報告が次の寄付につながる
寄付を受け取った後の対応も重要です。
例えば奨学金に寄付した人に、何人の学生を支援できたのかを報告します。
研究活動への寄付であれば、研究がどこまで進み、どのような成果が生まれたのかを伝えます。
寄付者が自分のお金が役立っていると実感できれば、再び寄付する可能性が高まります。
反対に、寄付した後に大学から何の情報も届かなければ、継続的な支援にはつながりにくくなります。
ファンドレイジングでは、寄付を受け取った時点がゴールではありません。
そこから支援者との関係が始まります。
寄付、活動報告、共感、再寄付という循環をつくることが、安定した寄付収入につながります。
少子化でファンドレイジングの重要性が高まる
日本では今後、少子化による十八歳人口の減少が大学経営に大きな影響を与えます。
学生数が減少するなかで、すべての大学が従来と同じように授業料収入を確保できるとは限りません。
だからこそ大学には、授業料以外の財源を開拓する必要があります。
寄付金だけですべての問題を解決できるわけではありません。
しかし、寄付、産学連携、研究資金、資産運用など複数の財源を組み合わせることで、大学の経営基盤を強くすることができます。
さらにファンドレイジングには、資金調達を超えた意味があります。
大学が社会に対して自らの価値を説明する機会になるからです。
どのような学生を育てているのか。
どのような研究によって社会課題を解決しようとしているのか。
地域にどのような価値を提供しているのか。
それを社会に伝え、共感した人から支援を受けることが、これからの大学経営では重要になります。
結論
大学のファンドレイジングとは、教育や研究に必要な資金を寄付などによって集めるとともに、大学を支援する人との長期的な関係を築く取り組みです。
大学の財源には授業料や補助金などがありますが、少子化によって学生数の減少が進めば、授業料に大きく依存する経営は不安定になる可能性があります。
そこで卒業生、保護者、企業、地域住民などから幅広く支援を集め、財源を多様化することが重要になります。
ただし、寄付は単にお願いすれば集まるものではありません。
大学がどのような教育や研究を行い、社会にどのような価値を提供しているのかを伝える必要があります。
さらに寄付金をどのように使い、どのような成果が生まれたのかを寄付者へ報告し、継続的な関係を築くことも欠かせません。
少子化時代の大学経営では、学生から授業料を受け取るだけではなく、大学の価値に共感する人から支援してもらう力が問われます。
ファンドレイジングは単なる資金集めではなく、大学が社会とのつながりをつくり直す取り組みでもあります。
参考
日本経済新聞 2026年8月18日 朝刊 大学、個人寄付呼び込む ふるさと納税活用し文化醸成