人口減少は、住民税や固定資産税だけでなく、これまであまり意識されてこなかった地方税にも影響を及ぼし始めています。
その一つが事業所税です。
事業所税は、一定規模以上の都市で事業を行う企業などに課される地方税です。ところが、人口減少によって課税対象となる都市そのものが減り始めています。
2026年には秋田市と福岡県久留米市が人口要件を満たさなくなり、事業所税を課税する団体の指定から外れました。
人口減少が進む日本では、今後も同じ問題に直面する都市が増える可能性があります。
事業所税は都市の行政サービスを支える目的税
事業所税は、都市部に企業や事業所が集中することによって生じる行政需要に対応するための地方税です。
企業が集積すると、そこで働く人も増えます。
その結果、道路や上下水道、学校、病院などの都市インフラを整備し、維持するための費用が必要になります。
こうした費用の一部を事業者にも負担してもらうのが事業所税です。
事業所税は使い道が特定されている目的税であり、都市環境の整備や改善などに充てられます。
つまり、単純に企業が利益を上げたから課税する税金ではありません。
事業活動によって都市の行政サービスを利用することに着目した税金と考えると分かりやすいでしょう。
すべての市町村で課税されるわけではない
事業所税の大きな特徴は、全国すべての市町村で課税される税金ではないことです。
東京都の区部や政令指定都市、首都圏や近畿圏の特定の市のほか、一定の人口規模を持つ都市などに限って課税されます。
このうち重要なのが人口30万人という基準です。
地方税法では、国勢調査による人口またはその年の1月1日時点の住民基本台帳人口などを基準として、一定の要件を満たす都市を課税団体としています。
2026年4月1日時点では77団体が課税団体でした。
しかし、秋田市と久留米市が指定から外れたことによって75団体へ減少しました。
人口減少が地方税の課税区域そのものを変え始めているわけです。
事業所税には資産割と従業者割がある
事業所税は、大きく資産割と従業者割の二つから構成されています。
資産割は、事業所の床面積を基準として課税されます。
税率は事業所床面積1平方メートルにつき600円です。
例えば、課税対象となる床面積が2000平方メートルであれば、単純計算では120万円となります。
一方、従業者割は従業者に支払った給与総額を基準として計算します。
税率は従業者給与総額の0.25%です。
年間の従業者給与総額が10億円であれば、単純計算では250万円となります。
企業の利益ではなく、事業所の規模とそこで働く人への給与を基準として課税する点が特徴です。
小規模な事業所には免税点がある
事業所税が課税される都市に事業所があるからといって、すべての事業者が納税するわけではありません。
一定規模以下の事業者には免税点が設けられています。
資産割については、事業所床面積が1000平方メートル以下であれば原則として課税されません。
従業者割については、従業者数が100人以下であれば原則として課税されません。
したがって、特に影響が大きいのは、一定規模以上の事業所を持つ企業です。
企業にとっては、同じ規模の事業所でも、所在地が事業所税の課税団体であるかどうかによって税負担が変わることになります。
全国では年間4000億円を超える税収がある
事業所税は目立たない地方税ですが、自治体にとっては決して小さな財源ではありません。
令和6年度決算額では、全国の事業所税収は資産割が2807億円、従業者割が1298億円でした。
合計すると4105億円です。
課税団体となっている都市にとって、道路や上下水道などを整備するための重要な財源となっています。
そのため、人口が30万人を下回って課税団体から外れることは、単に税制上の区分が変わるだけではありません。
自治体にとっては、それまで確保していた財源を失う問題でもあります。
なぜ人口が30万人を下回ってもすぐ課税されなくなるとは限らないのか
事業所税の人口要件には少し複雑な仕組みがあります。
判定には、5年ごとに実施される国勢調査による人口と、住民基本台帳に記録された人口が関係します。
このため、住民基本台帳人口が一時的に30万人を下回ったからといって、直ちに課税団体から外れるとは限りません。
前回の国勢調査人口が30万人以上であれば、一定期間は要件を満たすことがあります。
しかし、人口減少が続けば問題を先送りしているにすぎません。
次の国勢調査でも30万人を下回れば、課税団体の指定から外れる可能性が高まります。
現在30万人から31万人程度の都市の中には、人口減少が続いているところもあります。
今後、事業所税を課税できなくなる都市がさらに増える可能性があります。
自治体には減収でも企業には減税になる
課税団体から外れることには、二つの側面があります。
自治体側から見れば税収減です。
人口が減少しても、道路、上下水道など既存の都市インフラを維持する費用が同じ割合で減少するとは限りません。
むしろ人口密度が低下することで、一人当たりのインフラ維持費が増えることも考えられます。
その状況で事業所税まで失えば、自治体財政には負担となります。
一方、企業側から見れば税負担の軽減です。
それまで資産割や従業者割を負担していた企業にとっては、所在地の都市が課税団体から外れることで事業所税の負担がなくなることになります。
同じ人口減少という現象が、自治体には減収、企業には減税という正反対の結果をもたらすわけです。
人口30万人という基準を維持できるのか
今後、大きな論点になるのが人口30万人という基準です。
日本全体で人口が減少している以上、基準を変更しなければ、市町村合併などがない限り課税団体は徐々に減少していく可能性があります。
一方で、人口基準を単純に引き下げれば、これまで事業所税がなかった都市の企業にも新たな税負担が発生する可能性があります。
事業所税は、もともと都市への企業や人口の集中によって発生する特別な行政需要を事業者にも負担してもらうという考え方の税金です。
そのため、人口減少を理由として単純に課税対象地域を拡大してよいのかという問題があります。
政府も現時点では、課税団体の要件見直しについて慎重な姿勢を示しています。
人口減少は地方税の仕組みそのものを変えていく
これまで人口減少というと、働き手不足や社会保障、空き家問題などが注目されてきました。
しかし、人口減少は税制にも直接影響します。
人口を基準として課税団体を決めている制度では、人口が減れば制度の対象から外れる自治体が増えていきます。
しかも自治体は、人口が減ったからといって道路や上下水道を簡単になくすことはできません。
人口が減少する一方で、既存インフラを維持する必要があり、その財源となる税金まで減っていくという問題が生じます。
事業所税の課税団体減少は、日本の人口減少が地方財政の仕組みにまで影響を及ぼし始めた象徴的な事例といえるでしょう。
結論
事業所税は、一定規模以上の都市で事業を行う企業などが負担し、道路や上下水道など都市インフラの整備や改善に使われる目的税です。
資産割は事業所床面積1平方メートルにつき600円、従業者割は従業者給与総額の0.25%で課税されます。
しかし、事業所税を課税できる都市には人口要件があり、人口減少によってその要件を満たせない都市が現れ始めました。
2026年には秋田市と久留米市が指定から外れ、課税団体は77団体から75団体へ減少しました。
自治体には税収減となる一方、事業者には税負担の軽減となります。
今後さらに人口30万人を下回る都市が増えれば、人口30万人という基準を維持するのか、それとも事業所税そのものの仕組みを見直すのかという議論は避けにくくなります。
事業所税の問題は、一つの地方税の問題にとどまりません。
人口が減少する日本で、縮小する人口と都市インフラを支える財源をどのように両立させるのかという、地方財政全体の課題につながっています。
参考
税のしるべ 2026年8月10日 事業所税の課税団体が減少、人口減で30万人以上の要件を満たせず