企業によるコマーシャルペーパーへの投資が増えています。
企業が保有するCP残高が大きく増えている背景には、金利上昇によって、普通預金に置いておくよりも短期金融商品で運用した方が高い利回りを得られる環境になったことがあります。
しかし、企業が持っている現金をすべて運用してよいわけではありません。
給与や仕入代金、税金、借入金返済など、企業は日々さまざまな支払いを行っています。将来の設備投資やM&Aに備えて確保している資金もあります。
企業が資金運用を考えるうえで最初に必要なのが、事業に必要なお金と、それを超えて保有している余剰資金を区別することです。
企業の余剰資金とは何か
余剰資金とは、企業が保有する現預金などのうち、当面の事業活動や支払いに必要な資金を除いた部分です。
例えば企業が現預金を100億円持っているからといって、100億円すべてが余剰資金というわけではありません。
翌月には給与を支払います。
取引先への買掛金の支払いもあります。
税金や社会保険料、借入金の返済もあります。
さらに数カ月後に設備投資として20億円を支払う予定があれば、その資金についても確保しておかなければなりません。
こうした将来の資金需要を差し引いたうえで、それでも当面使用する予定がない資金が余剰資金になります。
したがって余剰資金は、単純に貸借対照表の現預金残高を見るだけでは判断できません。
運転資金との違い
余剰資金を理解するためには、運転資金との違いを知っておく必要があります。
運転資金とは、企業が通常の事業活動を続けるために必要になる資金です。
商品を仕入れて販売する企業を考えてみます。
商品を仕入れた時点で代金を支払っても、販売した商品の代金がすぐに入金されるとは限りません。
例えば仕入代金を30日後に支払い、売上代金を60日後に回収する会社であれば、その間に資金不足が発生する可能性があります。
この時間差を埋めるためのお金が運転資金です。
一般的には、
売上債権プラス棚卸資産マイナス仕入債務
という考え方によって必要運転資金を把握します。
売掛金や在庫が増えるほど企業は多くの資金を必要とし、買掛金などの支払いを後にできるほど必要な資金は少なくなります。
余剰資金を計算するときには、この運転資金を安易に投資へ回してはいけません。
利益が出ていても現金が足りなくなることがある
企業の資金管理で重要なのは、利益と現金は同じではないという点です。
例えば1億円の商品を販売して利益を計上していても、代金の回収が3カ月後なら、現在の銀行口座に1億円が入っているわけではありません。
一方で従業員の給与や仕入代金などは先に支払わなければならない場合があります。
帳簿上では黒字なのに資金が不足することもあります。
いわゆる黒字倒産が起きる理由の一つです。
そのため企業の資金運用では、損益計算書だけを見るのではなく、いつ現金が入り、いつ現金が出ていくのかを把握する必要があります。
そこで重要になるのが資金繰りです。
必要運転資金はどのように考えるのか
必要運転資金は企業によって大きく異なります。
現金商売を中心とする企業であれば、売上代金を早く回収できるため、比較的少ない運転資金で事業を回せる場合があります。
反対に、売掛金の回収期間が長く、大量の在庫を抱える企業では、多額の運転資金が必要になります。
さらに季節変動も考えなければなりません。
年末商戦の前に大量の商品を仕入れる小売業であれば、一時的に必要資金が増加します。
賞与を支払う月や法人税を納付する月にも大きな資金流出が発生します。
企業が必要とする現金は一年を通じて一定ではありません。
したがって余剰資金を判断するときには、現在の銀行残高だけではなく、将来の資金繰りを予測する必要があります。
余剰資金をどのように判定するのか
余剰資金を判断するときには、まず将来の入金と出金を予測します。
例えば現在100億円の現預金を持つ企業があるとします。
今後数カ月の給与、仕入代金、税金などとして30億円が必要になるとします。
さらに半年後の設備投資として20億円を予定しているとします。
加えて予想外の売上減少や支払いに備えて20億円を手元に残しておくとします。
この場合、
100億円から30億円、20億円、さらに20億円を差し引いた30億円について、当面使う予定がないのであれば、運用を検討できる余剰資金になる可能性があります。
もちろん実際には将来の売上や仕入れ、借入金返済なども考慮する必要があります。
重要なのは、現金残高そのものではなく、将来の資金需要を差し引いて考えることです。
余剰資金にも種類がある
余剰資金だからといって、すべて同じ方法で運用する必要はありません。
資金をいつ使う予定なのかによって運用方法を変える必要があります。
例えば3カ月後に使用する可能性がある資金であれば、安全性と流動性を優先する必要があります。
一方、数年間使用する予定のない資金であれば、より長い期間の運用を検討する余地があります。
企業の資金管理では、資金を期間別に分けて考えることが重要です。
すぐに必要になる資金。
数カ月程度は使わない資金。
数年間使う予定のない資金。
このように資金の性格を分けることで、運用商品も選びやすくなります。
短期運用では何を重視するのか
短期運用で最も重要なのは、収益性よりも安全性と流動性です。
例えば3カ月後に仕入代金として支払う予定の10億円を株式で運用したとします。
支払い直前に株価が20%下落すれば、必要な資金を確保できなくなる可能性があります。
そのため短期資金では価格変動の大きな金融商品は適していません。
普通預金や定期預金、CP、譲渡性預金、国庫短期証券など、比較的短期間で資金を回収できる商品が候補になります。
今回、企業によるCP投資が増えているのもこのためです。
数カ月間使用しない資金について、普通預金より高い利回りを得ながら短期間で回収するというニーズがあります。
長期運用では選択肢が広がる
数年間使用する予定のない資金であれば、運用の選択肢は広がります。
例えば比較的期間の長い債券などを利用することも考えられます。
ただし企業の余剰資金運用と個人の資産運用は目的が異なります。
個人であれば老後資金を20年、30年という期間で株式に投資することもできます。
企業の場合には、突然M&Aの機会が生じたり、大規模な設備投資が必要になったりすることがあります。
経済危機によって売上が急減する可能性もあります。
そのため長期運用であっても、事業活動に支障が生じない範囲で行うことが重要です。
安全性と流動性と収益性のバランス
企業の資金運用では、大きく三つの要素を考える必要があります。
安全性です。
元本を大きく毀損しないことが重要です。
次に流動性です。
必要になったときに現金化できることが重要です。
そして収益性です。
安全性と流動性を確保したうえで、可能な範囲で利回りを高めます。
企業の資金運用では、この順番が重要です。
高い利回りを得ることが第一目的ではありません。
企業の本来の目的は事業を継続し、利益を生み出すことです。
資金運用によって本業に必要な資金が不足してしまえば、本末転倒になります。
金利上昇で余剰資金管理の重要性が高まる
超低金利時代には、企業が余剰資金を普通預金に置いていても、他の短期金融商品との利回り差はそれほど大きくありませんでした。
そのため積極的に資金を動かすメリットも限定的でした。
しかし金利が上昇すると状況は変わります。
普通預金とCPなどの間に明確な金利差が生まれれば、多額の現金を持つ企業ほど運用方法による収益差が大きくなります。
100億円を保有する企業では、金利差がわずか0.5%でも年間5000万円の差になります。
一方で利回りを追い求めすぎれば信用リスクや流動性リスクが高まります。
金利のある世界では、企業財務部門には以前より高度な資金管理が求められることになります。
結論
企業の余剰資金とは、単に銀行口座に残っている現金ではありません。
給与、仕入代金、税金、借入金返済などの運転資金に加え、設備投資など将来必要になる資金や不測の事態への備えを確保したうえで、当面使用する予定のない資金が余剰資金になります。
そして余剰資金についても、いつ使う可能性があるのかによって短期資金と長期資金に分けて考える必要があります。
短期資金では安全性と流動性を重視し、長期間使用しない資金については一定の収益性を求める余地があります。
金利上昇によって、企業は現金をただ持っているだけではなく、必要資金を確保しながら余った資金をどう働かせるかを考える時代になっています。
企業のCP投資が増えているのは、その変化を象徴する動きといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月 企業の短期社債保有が倍増 17年ぶり水準 金利上昇、預金から回帰