戸建て住宅というと、駅から少し離れた住宅街に建つ家をイメージする人も多いかもしれません。
一方、駅前や駅近の住宅といえばマンションが中心でした。
駅周辺では土地価格が高く、限られた土地に多くの住戸を供給できるマンションのほうが事業として成立しやすいためです。
しかしマンション価格が大幅に上昇したことで、住宅購入者の選択が変わり始めています。
マンション並みの交通利便性を確保しながら、より広い居住空間や土地を持ちたいと考える人にとって「駅近戸建て」が選択肢になっています。
東京の住宅価格が高騰する中、戸建てだから駅から遠い、マンションだから駅に近いという従来の区分だけでは住宅市場を説明できなくなっています。
駅近戸建てとは何か
駅近戸建てについて、法律上の明確な定義があるわけではありません。
一般には鉄道駅から徒歩で移動しやすい場所に建つ戸建て住宅を意味します。
不動産広告では徒歩何分という表示が重要な情報になります。
住宅購入者から見れば、駅までの距離は毎日の生活に直接影響します。
通勤。
通学。
買い物。
外出。
駅まで歩く時間が短ければ、日々の移動負担を小さくできます。
特に鉄道利用が生活の中心になる東京圏では、駅への近さが住宅の大きな価値になります。
なぜ駅近はマンションが多かったのか
駅周辺の土地は一般に需要が高く、土地価格も高くなりやすい傾向があります。
高額な土地に一戸だけ住宅を建てれば、一世帯が土地代をすべて負担しなければなりません。
一方、マンションなら一つの土地の上に多数の住戸をつくれます。
高額な土地のコストを多数の住戸で分担できるわけです。
そのため駅前や駅近の好立地ではマンション開発が行われやすくなります。
駅近の利便性を求めるならマンション。
広さや独立性を求めるなら駅から少し離れた戸建て。
これが従来の典型的な住宅選択でした。
マンション高騰で前提が変わった
ところが東京ではマンション価格が急速に上昇しています。
東京カンテイが2015年1月から3月期を100として価格を指数化したところ、2026年4月から6月期には新築マンションが207、中古マンションが263となりました。
これに対して新築戸建ては173です。
戸建ても値上がりしていますが、マンションの価格上昇はさらに大きくなっています。
その結果、駅近マンションを購入しようとしていた世帯が、同じ予算で購入できる戸建てを探す動きが出てきます。
マンション価格の上昇が、駅近戸建ての相対的な魅力を高めているのです。
駅近戸建てでは土地を小さくする
駅に近い土地は高額です。
そこで駅近戸建てでは、広い土地を購入するのではなく土地面積を小さくすることで住宅価格の総額を抑える方法があります。
例えば広い土地を一定の条件のもとで複数区画に分け、それぞれに住宅を建てます。
土地面積が小さくなれば、そのままでは十分な居住面積を確保できません。
そこで3階建てなどにして、土地を縦方向に利用します。
駅近。
狭小地。
3階建て。
建売住宅。
これらは東京の都市型戸建てで組み合わされやすい要素です。
同じ予算ならマンションより広い場合がある
駅近戸建ての魅力の一つが居住面積です。
例えば同じ1億円でも、マンションでは専有面積が70平方メートル程度なのに対し、戸建てなら3階を合計して90平方メートル程度の床面積を確保できるといったケースが考えられます。
もちろん実際の面積は物件によって異なります。
それでもマンション価格が上昇するほど、同じ予算で得られる広さの違いは重要になります。
子ども部屋が欲しい。
在宅勤務用の部屋が欲しい。
収納を増やしたい。
こうした世帯にとって、駅への利便性を維持しながら広さを確保できる戸建てには魅力があります。
通勤時間は毎日積み重なる
駅からの距離が重要なのは、通勤時間が毎日積み重なるためです。
例えば駅まで徒歩5分の住宅と徒歩20分の住宅では、片道15分の差があります。
往復なら30分です。
年間200日通勤すると仮定すれば、単純計算で年間100時間の差になります。
住宅には何十年も住む可能性があります。
そのため駅まで数分の違いでも、長期間では大きな時間差になります。
住宅価格が多少高くても駅近を選びたいという需要が存在するのは、毎日の時間に価値を置く人がいるからです。
共働き世帯ほど交通利便性を重視しやすい
駅近住宅の需要を支える存在の一つが共働き世帯です。
夫婦二人が通勤する家庭では、住宅から駅までの距離が二人の生活に影響します。
さらに子どもの保育園への送迎や買い物などもあります。
通勤時間が長くなれば、その分だけ家事や育児に使える時間が減ります。
住宅価格だけを考えれば郊外のほうが安くても、時間まで含めて考えると駅近に価値を感じる家庭があります。
高所得の共働き世帯ほど、お金だけでなく時間を重要な資源として考える傾向があります。
駅近なら自動車を持たない選択もできる
交通利便性の高い地域では、自動車を所有しなくても生活できる場合があります。
駅が近く、スーパーや病院なども徒歩圏内にあれば、鉄道や徒歩を中心に生活できます。
自動車を所有すれば、
購入費
自動車保険
税金
車検
燃料費
駐車場代
などが必要です。
駅近住宅の価格が多少高くても、自動車を持たないことで家計全体の支出を抑えられる場合があります。
住宅価格だけではなく、交通費まで含めて比較する視点が重要です。
駅近は将来の売却でも重要になる
住宅を資産として考える場合にも駅からの距離は重要です。
自分が住宅を購入するときに駅近を便利だと感じるのであれば、将来その住宅を買う人も同じように考える可能性があります。
特に人口減少社会では、住宅需要がすべての地域に均等に残るとは限りません。
利便性の高い地域には需要が残る一方、交通の不便な地域では住宅需要が弱くなる可能性があります。
駅近という条件は、将来の売却可能性を考えるうえでも重要になります。
戸建ては土地価値との関係が大きい
戸建てでは建物が古くなっても土地が残ります。
築30年、築40年になれば建物の市場価値が低下する可能性があります。
しかし駅近の土地に強い需要があれば、土地として売却できる可能性があります。
購入者が古い住宅を取り壊して新しい住宅を建てることもできます。
そのため長期的な資産価値を考える場合、駅近戸建てでは建物より土地の価値が重要になることがあります。
新築時には建物に目が向きますが、30年後には立地が価値を左右する可能性が高くなります。
駅近なら何でも資産価値が高いわけではない
ただし駅から近ければ必ず良い住宅とは限りません。
駅周辺には商業施設や交通量の多い道路がある場合があります。
鉄道の騒音。
自動車の騒音。
繁華街。
日照条件。
こうした問題があることもあります。
また土地が極端に小さかったり、形状が特殊だったりすれば、将来の建て替えや売却に影響する可能性があります。
駅からの距離だけではなく、土地そのものの条件を確認する必要があります。
駅近戸建てでは道路条件も重要になる
戸建ての場合には、土地がどの道路に接しているかも重要です。
住宅を建築するには接道について一定の条件があります。
また前面道路が狭い土地では、建て替え時に利用できる土地面積に影響が出る場合があります。
現在建っている住宅だけを見るのではなく、将来建て替える場合にどのような建物を建てられるのか確認することが重要です。
特に駅近の狭小住宅では、限られた土地を最大限利用しているケースがあります。
将来の資産価値まで考えるなら、建物だけでなく土地と道路の関係も見る必要があります。
駅距離と住宅価格のバランスを考える
駅に近づけば一般に土地価格は高くなります。
そのため駅徒歩3分の住宅にこだわれば、住宅価格が大幅に上昇する可能性があります。
一方、徒歩10分や15分まで範囲を広げれば、価格が下がったり土地が広くなったりすることがあります。
重要なのは「駅に最も近い住宅」を買うことではありません。
価格。
広さ。
通勤時間。
生活環境。
将来の資産価値。
これらを総合して、自分にとって最もバランスのよい駅距離を考えることです。
郊外でも駅近の価値は高まりやすい
東京23区の住宅価格が上昇すると、購入者は横浜、川崎、千葉、埼玉などへ移ります。
その場合でも、すべての郊外住宅が同じように選ばれるとは限りません。
郊外ほど駅近の重要性が高くなることがあります。
都心まで電車で40分でも駅徒歩5分なら通勤しやすい。
一方、都心まで電車で40分に加えて駅までバスで20分かかれば、毎日の負担は大きくなります。
郊外への住宅需要が広がるほど、鉄道駅に近い住宅と遠い住宅の選別が進む可能性があります。
結論
駅近戸建てとは、鉄道駅から徒歩で移動しやすい場所に建つ戸建て住宅です。
これまで駅近住宅はマンションが中心でした。
高額な駅前の土地を多数の住戸で利用できるマンションのほうが、土地を効率的に利用できるためです。
しかしマンション価格が戸建て以上に上昇したことで状況が変わっています。
同じ予算なら、マンションより広い戸建てを選ぶ。
管理費や修繕積立金のない戸建てを選ぶ。
土地を所有できる戸建てを選ぶ。
こうした選択をする購入者が増える可能性があります。
さらに駅近という条件は、現在の生活利便性だけでなく将来の資産価値にも影響します。
人口減少が進めば、住宅は立地によってより厳しく選別される可能性があります。
そのとき駅から近く、都心への交通利便性が高い土地には需要が残りやすいと考えられます。
住宅を購入するときには建物の新しさや広さだけではなく、30年後に建物が古くなったときにも、その場所を欲しい人がいるかを考えることが重要です。
駅近戸建ての本当の価値は、現在の通勤の便利さだけではなく、長期的な土地の需要にもあるといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月13日朝刊「新築戸建て9000万円台続く 7月東京23区 マンション高騰で需要増」