個人住民税の非課税限度額とは何か 物価上昇で見直す必要はあるのか編

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

個人住民税には、所得が一定水準以下の人について税負担を求めない非課税の仕組みがあります。

このとき重要になるのが非課税限度額です。

非課税限度額は基礎控除と似ているように見えますが、役割は異なります。

基礎控除は課税所得を計算するときに所得から差し引く所得控除です。

これに対して非課税限度額は、一定以下の所得の人について個人住民税を課税しないための基準です。

物価上昇に合わせて所得税の基礎控除などを見直す仕組みが導入されたことで、今後は個人住民税の非課税限度額についても、物価変動をどのように反映するのかが重要な論点になります。

非課税限度額は住民税を負担する境界線

個人住民税には大きく分けて所得割と均等割があります。

所得割は前年の所得を基礎として税額を計算する部分です。

均等割は所得額に比例して増えるものではなく、一定額を負担する仕組みです。

ただし、所得の少ない人にまで同じように負担を求めると、最低限の生活に必要な所得にまで課税することになりかねません。

そこで一定以下の所得については個人住民税を課税しない仕組みが設けられています。

その境界となる金額が非課税限度額です。

つまり非課税限度額は、

どこまでの所得なら住民税を負担しなくてもよいのか

を決める重要な基準といえます。

基礎控除と非課税限度額は役割が違う

基礎控除と非課税限度額は混同されやすい制度です。

しかし、両者は税計算の中で果たしている役割が違います。

基礎控除は、所得から一定額を差し引いて課税所得を計算するための所得控除です。

たとえば所得から基礎控除や社会保険料控除などを差し引き、残った課税所得を基礎として所得割を計算します。

これに対して非課税限度額は、一定以下の所得であればそもそも個人住民税を課税しないという判定に使われます。

したがって、基礎控除を引き上げたからといって非課税限度額まで自動的に上がるわけではありません。

逆に非課税限度額を引き上げても、基礎控除そのものが増えるわけではありません。

同じように所得の少ない人の税負担に関係する制度でも、税制上は別々に考える必要があります。

所得割と均等割でも非課税基準は同じではない

さらに個人住民税を複雑にしているのが、所得割と均等割です。

個人住民税が非課税になるかどうかを考えるときには、所得割が課税されるか、均等割が課税されるかを区別する必要があります。

所得割については非課税でも、均等割については課税されるという場合があります。

一方、一定の基準を下回れば均等割も非課税になります。

一般に住民税非課税世帯という言葉が使われる場合には、こうした住民税の課税状況が社会保障制度などの判定にも利用されています。

そのため、非課税限度額を変更すると税額だけでなく、さまざまな制度に波及する可能性があります。

扶養人数によって非課税限度額は変わる

非課税限度額を考えるときに重要なのが扶養親族などの人数です。

単身者と、配偶者や子どもを扶養している人では、生活に必要となる金額が違います。

そのため、非課税限度額についても扶養親族などがいる場合には、その人数を反映する仕組みとなっています。

扶養する家族が増えれば、一般に非課税となる所得の範囲も広くなります。

また、障害者、未成年者、寡婦、ひとり親などについては、一定の所得要件の下で別の非課税措置が設けられています。

したがって、

年収がいくら以下なら住民税が非課税になるのか

という問いに一つの数字だけで答えることはできません。

本人の所得だけでなく、家族構成や所得の種類なども確認する必要があります。

給与収入と所得は同じではない

非課税限度額を理解するときには、収入と所得の違いにも注意が必要です。

会社員の場合、給与として受け取った金額がそのまま住民税の計算上の所得になるわけではありません。

給与収入から給与所得控除を差し引いて給与所得を計算します。

そして非課税判定では、この所得金額が重要になります。

そのため、非課税限度額が一定の所得金額として示されていても、それをそのまま給与年収と考えてはいけません。

給与所得者、自営業者、年金受給者などでは、収入から所得を求める方法が異なります。

非課税になる収入水準も所得の種類によって違って見えることになります。

物価上昇で非課税限度額の実質価値は下がる

現在の議論で特に重要なのが物価との関係です。

仮に非課税限度額が長期間変わらない一方で、物価と賃金が上昇したとします。

ある人の所得が100から105に増えたとしても、物価も同程度上昇していれば実質的な生活水準はほとんど変わっていないかもしれません。

しかし、非課税限度額が100のままであれば、その人は基準を超えることになります。

名目所得が増えただけで住民税の課税対象になる可能性があるわけです。

物価上昇が長く続けば、固定された非課税限度額の実質的な価値は少しずつ小さくなります。

これは基礎控除が固定された場合に起こる問題とよく似ています。

基礎控除だけ物価連動させればよいのか

所得税では、物価上昇に応じて基礎控除などを見直す仕組みが導入されました。

個人住民税でも基礎控除を物価に連動させるかどうかが検討課題となっています。

しかし、基礎控除だけを物価連動させれば十分なのかという問題があります。

基礎控除を引き上げれば、課税所得が減ることで所得割の負担を軽くできます。

一方、非課税限度額が固定されたままであれば、名目所得の増加によって非課税から課税へ移る人が出てくる可能性があります。

つまり、

基礎控除の物価連動

と、

非課税限度額の物価連動

は別々に検討する必要があります。

どちらか一方だけを見直すと、制度全体として整合性が取れなくなる可能性もあります。

非課税限度額を引き上げると社会保障にも影響する

もっとも、非課税限度額を引き上げることには大きな影響があります。

非課税となる人が増えれば、自治体の個人住民税収は減少します。

それだけではありません。

住民税非課税という区分は、さまざまな社会保障制度や給付制度で利用されています。

非課税限度額を引き上げることで住民税非課税となる人が増えれば、こうした制度の対象者も増える可能性があります。

つまり、

非課税限度額の引上げ

住民税非課税者の増加

地方税収の減少

社会保障や給付の対象者の増加

という複数の影響が同時に生じる可能性があります。

税制改正だけを見て判断できない理由がここにあります。

物価が下がった場合にはさらに難しい問題が生じる

物価連動を導入するのであれば、物価が上昇した場合だけを考えるわけにはいきません。

物価が下落した場合をどうするのかという問題があります。

物価上昇時に非課税限度額を引き上げるのであれば、完全な物価連動を採用する場合、物価下落時には非課税限度額を引き下げるという考え方も成り立ちます。

しかし、非課税限度額を引き下げれば、それまで住民税非課税だった人が課税される可能性があります。

さらに住民税非課税を要件としている給付や負担軽減の対象から外れる可能性もあります。

単なる税負担の増加以上の影響が生じるわけです。

そのため、物価連動を採用するとしても、

上昇時だけ見直すのか

下落時にも見直すのか

一定以上の変動があった場合だけ動かすのか

といった制度設計が必要になります。

非課税限度額は税と社会保障をつなぐ数字

非課税限度額は、一見すると地方税の細かな計算ルールのように見えます。

しかし、実際にはそれ以上の意味を持っています。

個人住民税をどの所得水準から負担してもらうのかを決めると同時に、住民税非課税という区分を通じて社会保障制度にも影響するからです。

物価上昇が続く時代には、固定された金額基準を長期間維持すること自体が実質的な制度変更になる場合があります。

金額を変えないことが、必ずしも制度を維持することにはならないのです。

結論

個人住民税の非課税限度額とは、一定以下の所得の人について住民税を課税しないための基準です。

基礎控除が課税所得を計算するための所得控除であるのに対し、非課税限度額は住民税を課税するかどうかを判断する基準であり、両者は異なる制度です。

また、非課税限度額は扶養親族などの有無によっても変わるため、単純に一つの年収基準だけで説明することはできません。

物価と賃金が上昇する中で非課税限度額を固定すれば、実質的な生活水準が変わっていない人でも非課税から課税へ移る可能性があります。

一方、非課税限度額を物価に合わせて引き上げれば、地方税収だけでなく、住民税非課税を基準とする社会保障や給付制度にも影響します。

個人住民税の物価連動を考えるのであれば、基礎控除だけではなく非課税限度額まで含めて考える必要があります。

非課税限度額は、税金を負担する人と支援を受ける人の境界にも関わる、非常に重要な数字なのです。

参考

税のしるべ 2026年8月10日 物価に連動した基礎控除等の引上げに関連して総務省の検討会が今後の個人住民税での対応を検討

タイトルとURLをコピーしました