税金を滞納している父親が子どもへ土地を贈与したとします。
その土地が高額なものであれば、
「子どもに第二次納税義務が生じるのではないか」
と考えるかもしれません。
しかし、親族への財産贈与があっただけで、国税徴収法39条の第二次納税義務が自動的に成立するわけではありません。
重要な要件の一つが「徴収すべき額に不足すると認められる場合」です。
つまり、まず本来の納税義務者である滞納者について、滞納処分によって徴収できる財産を確認し、それでも滞納国税の全額を徴収できないと客観的に認められることが必要になります。
さらに、その徴収不足が問題となった贈与などに「基因する」ことも必要です。
今回の公表裁決でも、この二つが確認されたうえで長男の第二次納税義務が認められました。
今回は、国税徴収法39条の重要な成立要件である「徴収不足」について見ていきます。
第二次納税義務は本来の納税義務者とは別の人に負わせる制度である
税金は、まず本来の納税義務者から徴収するのが原則です。
所得税であれば所得を得た本人、法人税であれば法人など、本来税金を納めるべき人がいます。
第二次納税義務は、その原則に対する特別な制度です。
一定の要件を満たした場合に、本来の納税義務者以外の人にも滞納国税について納税義務を負わせます。
そのため、
「滞納者が財産を贈与した」
という事実だけで第三者に納税義務を負わせるわけではありません。
まず滞納者自身から税金を徴収できるかどうかが重要になります。
徴収不足とはどのような状態なのか
国税徴収法39条では、滞納者の国税について滞納処分をしても、なお徴収すべき額に不足すると認められる場合が問題になります。
国税徴収法基本通達では、この徴収不足について具体的な考え方が示されています。
判定する時点で滞納者に帰属する財産のうち、滞納処分によって徴収できるものの価額が、滞納国税の総額に満たないと客観的に認められる場合です。
したがって、単純化すれば、
滞納国税が3000万円
滞納処分によって徴収可能な財産が1000万円
であれば、2000万円について徴収不足が生じるというイメージになります。
財産が少しでも残っていれば第二次納税義務が成立しないわけではない
ここは重要なポイントです。
例えば滞納者に500万円の預金が残っていたとします。
その一方で滞納国税が3000万円あったとします。
この場合、
「滞納者にはまだ500万円の財産があるから第二次納税義務は成立しない」
とはいえません。
500万円を徴収できたとしても、残り2500万円を徴収できない可能性があります。
国税徴収法39条で問題となるのは、滞納国税の総額と徴収可能な財産の価額との関係です。
全額を徴収できるかどうかが重要になります。
滞納者の財産がゼロである必要もない
徴収不足という言葉から、
「滞納者に財産が全くなくなった場合だけ第二次納税義務が成立する」
と考えてしまうかもしれません。
しかし、そうではありません。
例えば、
滞納国税5000万円
徴収可能な財産2000万円
であれば、滞納者に2000万円の財産があっても全額を徴収することはできません。
このような場合にも徴収不足が問題になります。
したがって、財産があるかないかという二者択一ではなく、
滞納国税を完納できるだけの徴収可能財産があるか
という視点で考える必要があります。
徴収可能な財産を基準に考える
滞納者が財産を持っているとしても、その帳簿上の金額を単純に合計すればよいわけではありません。
重要なのは、滞納処分によって実際に徴収できる財産なのかという点です。
例えば不動産があっても、そこに国税より優先する担保権などが存在すれば、その不動産の価額すべてを滞納国税へ充てられるとは限りません。
5000万円の不動産を所有していても、優先する債権との関係から国税が実際に回収できる金額が500万円ということも考えられます。
したがって、
財産の表面的な時価
ではなく、
その財産から国税としてどの程度徴収できるのか
という観点が重要になります。
実際にすべての財産を差し押さえる必要はない
では、税務署は滞納者のすべての財産を実際に差し押さえ、公売し、それでも不足額が出たことを確認してからでなければ第二次納税義務を追及できないのでしょうか。
必ずしもそうではありません。
国税徴収法基本通達では、徴収不足の判定について、滞納処分を現実に執行した結果に基づいて行う必要はないという考え方が示されています。
つまり、
預金はいくらあるのか
不動産はいくらで換価できるのか
優先債権はいくらあるのか
その他に徴収可能な財産があるのか
などを調査した結果、客観的に全額徴収できないと判断できればよいということです。
すべてを売却して最後の1円まで不足額を確定しなければ第二次納税義務を追及できない、という制度ではありません。
いつの時点で徴収不足を判断するのか
徴収不足を判断する時点も重要です。
国税徴収法基本通達では、納付通知書を発する時の現況によって判断する考え方が示されています。
つまり、無償譲渡が行われた時点だけを見て判断するわけではありません。
例えば10年前に土地が贈与されたとしても、第二次納税義務について納付通知を行う時点で滞納者に十分な財産があり、そこから滞納国税を全額徴収できるのであれば、徴収不足の要件との関係が問題になります。
反対に、納付通知時点で徴収可能な財産が滞納国税の総額に満たなければ、徴収不足の検討が必要になります。
今回の裁決でも告知処分時点が確認された
今回の公表裁決では、父親から長男への土地贈与は平成14年に行われています。
一方、長男に対する第二次納税義務の納付告知処分は令和6年6月27日でした。
審判所は、
「本件告知処分の時点で本件滞納国税につき徴収不足が認められる」
と判断しています。
つまり、20年以上前の贈与時点だけを見て判断したわけではありません。
第二次納税義務を告知する時点における徴収可能性が検討されています。
徴収不足だけでは39条は成立しない
ここでもう一段重要な要件があります。
滞納者について徴収不足が存在するだけでは、国税徴収法39条の第二次納税義務が当然に成立するわけではありません。
その徴収不足が、
「無償譲渡等の処分に基因すると認められる」
必要があります。
つまり、
財産贈与がなかったとしても同じように徴収できなかった
というケースと、
財産を贈与したから徴収できなくなった
というケースを区別する必要があります。
基因するとはどういう意味なのか
国税徴収法基本通達では、「基因すると認められるとき」について考え方が示されています。
簡単にいえば、
その無償譲渡等がなければ、現在の徴収不足は生じなかったであろう場合
です。
例えば滞納者が5000万円相当の土地を持っていたとします。
その土地を所有したままであれば、差押えと公売によって滞納国税を徴収できた可能性があります。
ところが、その土地を子どもへ無償で贈与しました。
その結果、滞納者にはほとんど財産が残らず、税金を徴収できなくなりました。
この場合には、
土地の贈与
徴収不足
との間に因果関係が認められる可能性があります。
贈与がなくても徴収不能ならどうなるのか
反対に、贈与した財産からもともと国税を徴収できなかった場合を考えてみます。
例えば時価3000万円の土地に、国税より優先する4000万円の担保債権が設定されていたとします。
仮にその土地を公売して3000万円で売却できても、優先債権との関係から国税へ配当できる金額がないというケースです。
この土地を贈与したとしても、
「贈与がなければ国税を徴収できた」
とは必ずしもいえません。
国税徴収法基本通達でも、国税に優先する債権を担保する担保権が設定され、その被担保債権額が譲渡時の財産価額を上回る場合には、特段の事情がない限り、徴収不足がその譲渡に基因するとは認められないことに留意するとされています。
第二次納税義務は財産隠しだけを対象とするわけではない
第二次納税義務というと、
「税金を払いたくないから家族に財産を隠した」
という悪質なケースだけを対象とする制度と思われることがあります。
しかし、国税徴収法39条の条文上は、単純に本人の主観的な動機だけで判断する制度ではありません。
重要なのは、
一定の無償譲渡等が存在する
徴収不足が存在する
その徴収不足が無償譲渡等に基因する
その他の要件を満たす
という客観的な法律関係です。
通常の相続対策や事業承継として行った贈与であっても、要件を満たせば問題となる可能性があります。
今回の農地贈与も農業承継の制度を利用していた
今回の公表裁決では、長男は父親から農地の贈与を受けています。
しかも贈与税について、農地等の贈与税の納税猶予制度を利用していました。
つまり、贈与税の制度上も正式に申告された農地の贈与です。
それでも審判所は、
本件贈与が無償譲渡等に該当する
徴収不足が存在する
徴収不足が本件贈与に基因する
などとして第二次納税義務の成立を認めました。
贈与税上適法に処理された財産移転であることと、国税徴収法39条が適用されるかどうかは別問題なのです。
第二次納税義務の責任額にはさらに上限がある
徴収不足が3000万円あったからといって、財産を受け取った人が必ず3000万円全額を負担するとは限りません。
国税徴収法39条では、「受けた利益」が責任限度に関係します。
例えば、
滞納国税の徴収不足3000万円
贈与によって受けた利益1000万円
だった場合を考えます。
受益者が無制限に3000万円を負担するという制度ではありません。
第二次納税義務は、無償譲渡等によって受けた利益との関係で責任範囲が限定されます。
今回の公表裁決で土地の鑑定評価額が大きな争点になったのも、このためです。
徴収不足と受けた利益は別々に考える
ここは整理しておくと分かりやすいでしょう。
まず、
本来の納税義務者からいくら徴収できないのか
という問題があります。
これが徴収不足です。
次に、
財産を受け取った人がいくらの利益を得たのか
という問題があります。
これが「受けた利益」です。
第二次納税義務では、この二つを混同してはいけません。
滞納額が1億円あったからといって、1000万円相当の財産しか受け取っていない人へ当然に1億円の責任を負わせる制度ではありません。
結論
国税徴収法39条の第二次納税義務が成立するためには、本来の納税義務者である滞納者について「徴収すべき額に不足すると認められる場合」であることが重要な要件になります。
徴収不足とは、納付通知を行う時点の現況において、滞納処分などによって徴収できる財産の価額が滞納国税の総額に満たないと客観的に認められる状態をいいます。
滞納者に財産が全くないことまで必要ではありません。
一部の財産が残っていても、滞納国税を全額徴収できなければ徴収不足が問題になります。
また、すべての財産を実際に差し押さえ、公売してからでなければ徴収不足を認定できないわけでもありません。
さらに国税徴収法39条では、徴収不足が存在するだけでは足りず、その徴収不足が問題となった無償譲渡等に「基因する」ことが必要です。
今回の公表裁決でも、告知処分時点で徴収不足が存在し、その徴収不足が父親から長男への土地贈与に基因すると認定されました。
第二次納税義務は、単に「滞納者の家族だから税金を払う」という制度ではありません。
滞納者からどの程度徴収できるのか、なぜ徴収できなくなったのか、誰がどの程度の利益を受けたのかを順番に検討する制度です。
そして次に重要になるのが、「基因する」という因果関係です。
財産を贈与した事実があっても、その贈与がなければ本当に滞納国税を徴収できたのかによって結論が変わる可能性があります。
次回は「徴収不足が無償譲渡に基因するとは何か」として、財産移転と徴収不能との因果関係を詳しく見ていきます。
参考
税のしるべ 2026年8月3日 【公表裁決】原処分庁の主張額は審判所依頼の鑑定評価額の範囲内、処分は適法