「20年以上前に親からもらった土地について、今になって親の滞納税金との関係が問題になることがあるのか」
今回の公表裁決を読むと、この疑問を持つ人は少なくないでしょう。
問題となった土地の贈与は平成14年です。
一方、父親が死亡したのは令和4年、長男に第二次納税義務の納付告知処分が行われたのは令和6年でした。
贈与から20年以上が経過しています。
それでも国税不服審判所は、国税徴収法39条に規定する第二次納税義務の成立要件を満たしていると判断しました。
ここで重要なのは、単純に、
「贈与から何年経過したか」
だけを見る制度ではないということです。
国税徴収法39条では、滞納国税の「法定納期限」と無償譲渡等が行われた時期との関係が重要になります。
今回は、第二次納税義務の時間的な要件について見ていきます。
第二次納税義務は過去のすべての贈与を対象にする制度ではない
税金を滞納している人が過去に誰かへ財産を贈与していたとしても、その贈与がすべて国税徴収法39条の対象になるわけではありません。
もし何十年も前のあらゆる財産移転を無制限に対象にできるのであれば、財産を受け取った側の法律関係が極めて不安定になってしまいます。
そこで国税徴収法39条では、対象となる無償譲渡等について一定の時間的な範囲を設けています。
その基準となるのが「法定納期限」です。
法定納期限とは何か
法定納期限とは、法律によって定められた国税を納付すべき期限です。
税金には、それぞれ申告や納付について期限があります。
例えば所得税や法人税などでは、一定のルールによって申告期限や納期限が決められています。
国税徴収法39条を検討するときには、問題となっている滞納国税について、
法定納期限がいつなのか
を確認することが非常に重要です。
財産を贈与した日から現在まで何年経過しているかだけでは判断できません。
基準は法定納期限の一年前の日である
国税徴収法39条では、一定の無償譲渡等について、滞納国税の法定納期限の1年前の日以後に行われたものが問題になります。
つまり、時間関係を考えるときには、
滞納国税の法定納期限
そこから1年前の日
財産を譲渡した日
を並べて確認する必要があります。
例えば、ある滞納国税の法定納期限が令和8年3月31日だったとします。
単純化すれば、その1年前の日以後に行われた無償譲渡等であるかどうかが一つの重要な判定要素になります。
現在から一年前という意味ではない
ここは特に誤解しやすいところです。
「1年前の日以後」と聞くと、
税務署が処分した日の1年前
審判所が裁決した日の1年前
現在から1年前
などと思ってしまうかもしれません。
そうではありません。
基準になるのは、対象となる滞納国税の法定納期限です。
したがって、
「20年以上前の贈与だから39条の対象外だ」
とは単純には判断できません。
贈与が古いか新しいかではなく、対象となる滞納国税の法定納期限との位置関係を見る必要があります。
今回の裁決では平成14年の贈与が問題になった
今回の公表裁決では、父親が平成14年4月9日に複数の土地を長男へ贈与しました。
その後、一部について同月16日、残りについて同年5月2日に、贈与を原因とする所有権移転登記が行われています。
そして令和6年6月27日、原処分庁は長男に対して第二次納税義務の納付告知処分を行いました。
表面的に見ると、
平成14年の贈与
令和6年の納付告知
ですから、非常に長い期間が経過しています。
しかし審判所は、本件贈与について「本件滞納国税の法定納期限の1年前の日以後に行われている」と認定しました。
そのため、国税徴収法39条の時間的要件を満たしていると判断しています。
贈与から告知処分までの年数だけでは判断できない
今回の裁決が示している重要なポイントです。
仮に、
「贈与から5年以内なら対象」
「10年以上前なら対象外」
という制度であれば、今回の平成14年の贈与が令和6年に問題になることは考えにくいでしょう。
しかし国税徴収法39条は、そのような単純な経過年数だけで対象となる財産移転を決めているわけではありません。
滞納国税の法定納期限との関係が基準になります。
したがって、第二次納税義務を検討するときには、贈与の日付だけを見ても十分ではありません。
なぜ法定納期限を基準にするのか
国税徴収法39条は、滞納者が財産を無償で第三者へ移すなどした結果、国税の徴収が不足する場合に一定の受益者へ責任を負わせる制度です。
そこで重要になるのが、
税金の納付義務と財産移転の時間的な関係
です。
国税について何らの関係もなかった非常に古い時期の財産移転まで無制限に対象とするのではなく、法定納期限との関係によって対象範囲を限定しています。
つまり39条は、滞納者の過去の財産処分をすべて巻き戻す制度ではありません。
一定の範囲の財産移転を対象とする制度なのです。
贈与の日付を確認することが重要になる
国税徴収法39条の適用を検討する場合には、無償譲渡等がいつ行われたのかも重要です。
不動産の場合には、
贈与契約の日
所有権移転登記の日
実際に財産の権利が移転した時期
など、複数の日付が登場することがあります。
今回の公表裁決でも、
平成14年4月9日に贈与
一部は4月16日に所有権移転登記
残りは5月2日に所有権移転登記
という経過が記載されています。
税務では「何年の取引か」だけでなく、具体的にいつ財産移転が行われたのかが重要になることがあります。
法定納期限と実際の滞納時期は区別する
もう一つ注意したいのが、
法定納期限
実際に税金を滞納している時期
を区別することです。
例えば納期限が到来しているのに税金を支払わなければ滞納となります。
しかし国税徴収法39条の時間的要件を考える際に基準となるのは、単に、
「税務署が督促を始めた日」
「差押えを行った日」
「第二次納税義務を告知した日」
ではありません。
問題となる滞納国税について、その法定納期限を確認する必要があります。
第二次納税義務にはほかにも要件がある
もっとも、
「法定納期限の1年前の日以後に贈与した」
というだけで、直ちに第二次納税義務が成立するわけではありません。
国税徴収法39条では、ほかの要件についても検討する必要があります。
今回の公表裁決でも審判所は、
本件贈与が無償譲渡等の処分に該当すること
告知処分時点で滞納国税について徴収不足が認められること
その徴収不足が本件贈与に基因すると認められること
本件贈与が時間的要件を満たすこと
などを確認しています。
これらを踏まえて、長男に第二次納税義務が成立すると判断しました。
徴収不足がなければ39条の問題にはならない
例えば、税金を滞納している人が子どもへ土地を贈与したとしても、滞納者本人に十分な預金やほかの不動産が残っていて、そこから滞納国税を全額徴収できる場合を考えてみます。
この場合には、「徴収不足」という重要な要件との関係を検討する必要があります。
国税徴収法39条は、家族への贈与を一般的に禁止する制度ではありません。
無償譲渡等によって財産が移転し、そのことによって滞納国税の徴収不足が生じるという関係が重要になります。
したがって、時間的要件だけを満たしていれば39条が適用されるというものではありません。
贈与と徴収不足との因果関係も必要になる
今回の裁決では、
「当該徴収不足は本件贈与に基因すると認められる」
と判断されています。
この点も重要です。
例えば滞納者が財産を贈与したとしても、その贈与とは全く別の事情によって徴収不能になった場合には、39条との関係を慎重に検討する必要があります。
無償譲渡等があったことと、徴収不足が生じたことの間に関係が必要になります。
つまり、
財産を贈与した
だから自動的に第二次納税義務
という単純な制度ではありません。
昔の贈与だから資料がないという問題が起こる
今回のように20年以上前の贈与が問題になると、実務上大きな問題が生じます。
当時の資料が残っていない可能性があるからです。
例えば、
贈与契約書
土地の評価資料
固定資産税評価証明書
不動産会社の査定書
当時の土地利用状況を示す資料
農地関係の書類
などが必要になっても、長期間が経過すれば入手が難しくなります。
今回の裁決で土地の時価について大きな争いが生じたことを考えると、重要な財産移転に関する資料を長期間保存しておく意味は小さくありません。
古い取引ほど時価の立証も難しくなる
第二次納税義務では、「受けた利益」の額も重要になります。
土地の贈与であれば、贈与時点における土地の時価を求める必要があります。
今回の事案では平成14年の土地価格を、令和になってから検証する必要がありました。
現在の土地価格を調べればよいわけではありません。
当時の、
周辺の取引事例
土地利用状況
地価水準
法令上の規制
などを再現しなければなりません。
そのため審判所は、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼しています。
財産移転から長期間経過しているほど、時価を巡る立証は難しくなります。
納付告知の時点も重要になる
今回の公表裁決では、審判所は「本件告知処分の時点」で滞納国税について徴収不足が認められると判断しています。
つまり第二次納税義務では、
財産を移転した時点
法定納期限
納付告知処分の時点
など、複数の時点が登場します。
それぞれについて何を判断するのかを区別することが重要です。
単純な年表を作成して、
いつ税金が発生したのか
いつ法定納期限が到来したのか
いつ財産を移転したのか
いつ滞納処分が行われたのか
いつ第二次納税義務が告知されたのか
を整理すると、39条の構造を理解しやすくなります。
結論
国税徴収法39条の第二次納税義務について、「何年前の贈与まで対象になるのか」を現在からの単純な経過年数だけで判断することはできません。
重要なのは、対象となる滞納国税の法定納期限と無償譲渡等が行われた時期との関係です。
39条では、滞納国税の法定納期限の1年前の日以後に行われた一定の無償譲渡等が問題になります。
今回の公表裁決では、土地の贈与は平成14年、第二次納税義務の納付告知処分は令和6年でした。
20年以上の期間が経過していましたが、審判所は本件贈与が滞納国税の法定納期限の1年前の日以後に行われているとして、時間的要件を満たすと判断しました。
ただし、この要件だけで第二次納税義務が成立するわけではありません。
無償譲渡等に該当することに加え、滞納国税について徴収不足が存在し、その徴収不足が財産移転に基因することなども重要になります。
では、この「徴収不足」とは具体的にどのような状態なのでしょうか。
滞納者に少しでも財産が残っていれば第二次納税義務は成立しないのか、それとも全額を徴収できなければ成立するのか。
次回は「徴収不足とは何か」として、第二次納税義務が成立するための重要な要件を詳しく見ていきます。
参考
税のしるべ 2026年8月3日 【公表裁決】原処分庁の主張額は審判所依頼の鑑定評価額の範囲内、処分は適法