家族や親しい人から「保証人になってほしい」と頼まれたとき、簡単には断れない人もいるでしょう。特に自分の子どもから頼まれれば、「名前を貸すだけなら」「本人がきちんと返せば問題ない」と考えてしまうかもしれません。しかし、保証、とりわけ連帯保証は、単なる信用の補強ではありません。場合によっては本人とほぼ同じように多額の支払いを求められる非常に重い契約です。保証人と連帯保証人にはどのような違いがあるのかを理解しておくことが、自分や家族の財産を守る第一歩になります。
保証人とはどのような立場なのか
お金を借りた人など、本来の債務を負っている人を主たる債務者といいます。
そして主たる債務者が約束どおり債務を履行しない場合に、その債務を履行する責任を負うのが保証人です。
たとえば、子どもが500万円を借り、その親が保証人になったとします。
子どもが返済できなくなれば、親が保証債務に基づいて返済を求められる可能性があります。
つまり保証人になるということは、
「本人が払えなければ、自分が払う可能性がある」
という法律上の責任を引き受けることです。
親子や兄弟、友人といった人間関係とは別に考えなければなりません。
保証契約には書面などが必要になる
保証契約には重要なルールがあります。
民法では、保証契約は書面でしなければ効力を生じないとされています。電磁的記録によって行われた場合についても書面による契約と同様に扱う規定があります。
これは保証人が非常に重い責任を負うためです。
口頭で気軽に引き受けたつもりだったというトラブルを防ぎ、保証する意思を明確にする必要があります。
だからこそ、保証契約書への署名は非常に重要です。
「形式的な書類だから」
「とりあえず名前だけ書いて」
と言われても、安易に署名すべきではありません。
署名するということは、将来、自分自身に請求が来る可能性のある契約を結ぶことだと考える必要があります。
保証人には催告の抗弁権がある
通常の保証人には、一定の範囲で自分を守るための仕組みがあります。
その一つが催告の抗弁権です。
債権者が主たる債務者に請求せず、いきなり保証人に支払いを求めてきた場合、保証人は原則として、
「まず本人に請求してください」
と主張できます。
保証人はあくまで主たる債務者の債務を保証する立場だからです。
ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けている場合や、その行方が知れない場合など、催告の抗弁権を使えないケースもあります。
重要なのは、通常の保証人にはこうした一定の防御手段が用意されていることです。
検索の抗弁権とは何か
もう一つ重要なのが検索の抗弁権です。
保証人が、
「本人には返済できる財産があります」
と証明し、さらにその財産への執行が容易であることを証明した場合、原則として債権者はまず主たる債務者の財産に執行しなければなりません。
たとえば主たる債務者に十分な預貯金や換価可能な財産があり、それを保証人側が具体的に示せる場合などが考えられます。
つまり通常の保証人には、
まず本人に請求してください
まず本人の財産から回収してください
と主張できる余地があります。
この二つが、催告の抗弁権と検索の抗弁権です。
連帯保証人には二つの抗弁権がない
ここが連帯保証の非常に重要なポイントです。
連帯保証人には、催告の抗弁権も検索の抗弁権もありません。
債権者から支払いを求められたとき、
「まず本人に請求してください」
「本人には財産があるので、そちらから回収してください」
と主張して支払いを拒むことができないのです。
そのため、主たる債務者に財産があったとしても、債権者から連帯保証人へ請求が来る可能性があります。
「本人が払えなくなった最後の最後に保証人が登場する」
というイメージで連帯保証を理解すると危険です。
法律上、連帯保証人はそれほど強い責任を負っています。
連帯保証人が複数いても安心とは限らない
さらに注意したいのが、保証人が複数いる場合です。
通常の共同保証では、一定の場合に各保証人が分割して責任を負う考え方があります。
一方、連帯保証では事情が異なります。
複数の連帯保証人がいるからといって、
「保証人が3人いるから自分は3分の1だけ払えばよい」
とは限りません。
契約内容などにもよりますが、債権者から大きな金額を請求される可能性があります。
「ほかにも保証人がいるから大丈夫」
という判断は禁物です。
保証契約を結ぶときには、自分が最大でどの程度の責任を負う可能性があるのかを確認する必要があります。
なぜ連帯保証は危険なのか
連帯保証が怖い最大の理由は、自分ではコントロールできない他人の行動によって、自分の財産が危険にさらされることです。
自分自身の借金なら、
いくら借りるのか
何に使うのか
毎月いくら返すのか
現在の残高はいくらなのか
といったことを自分で管理できます。
しかし、他人の債務を保証した場合、その人が将来どのような経済状態になるのかを完全には管理できません。
現在は収入が安定していても、失業、病気、事業不振などによって返済できなくなる可能性があります。
まして借金や金銭トラブルを繰り返している人であれば、リスクはさらに大きくなります。
家族の連帯保証が特に難しい理由
連帯保証の問題では、家族だからこその難しさがあります。
自分の子どもから、
「今回だけ助けてほしい」
「絶対に迷惑はかけない」
「保証人がいないと解決できない」
と言われれば、親として断ることに罪悪感を持つかもしれません。
しかし、保証契約は親子愛を確認する書類ではありません。
法律上の債務を負う契約です。
子ども本人に返済能力がなくなれば、親の預貯金や老後資金から支払うことになる可能性があります。
場合によっては自宅などの財産にも影響が及びます。
家族を助けたいという感情と、保証契約を締結するかどうかは分けて考える必要があります。
特に老後の連帯保証は慎重に考える
50代、60代、70代になってから連帯保証人になる場合は、さらに慎重な判断が必要です。
若いころと違い、失った資産を労働収入で取り戻せる期間が短くなるからです。
退職金として2000万円を受け取ったとしても、1000万円の保証債務を負えば、老後資金の半分を失う可能性があります。
その後の年金生活では、その1000万円を再び蓄えることは簡単ではありません。
老後には生活費だけでなく、医療費、介護費、住宅修繕費なども必要になります。
そのため、
「子どもを助けるためだから」
という理由だけで老後資金を危険にさらすことは避けるべきでしょう。
その場で署名しないことが最大の防御になる
突然、家族の借金や不祥事が発覚し、債権者から保証人になるよう求められることもあります。
こうした場面では冷静な判断が難しくなります。
だからこそ、自分の中でルールを決めておくことが有効です。
多額の債務に関する保証契約には、その場では署名しない。
契約書を持ち帰る。
保証する債務額を確認する。
保証する範囲を確認する。
主たる債務者の資産や返済能力を確認する。
必要なら弁護士などの専門家に相談する。
少なくとも、これらを確認してから判断するべきです。
相手から急かされたとしても、数百万円、数千万円の責任を数十分で決める必要はありません。
保証人になることと家族を助けることは別
家族を助ける方法は、連帯保証人になることだけではありません。
本人の債務状況を整理したり、弁護士などへの相談に同行したり、返済計画を一緒に考えたりすることも支援です。
必要であれば債務整理を検討することもできます。
むしろ連帯保証によって親まで債務問題に巻き込まれれば、一つだった問題が二つになってしまいます。
本人を支援することと、本人の債務を自分の債務として背負うこと。
この二つは明確に区別する必要があります。
結論
保証人と連帯保証人は似た言葉ですが、その責任には重要な違いがあります。
通常の保証人には原則として催告の抗弁権や検索の抗弁権があります。
一方、連帯保証人にはこれらがありません。
そのため債権者から請求を受ければ、「まず本人から回収してください」と主張して支払いを拒むことができません。
連帯保証人になることは、単に家族や知人を応援することではありません。
場合によっては自分自身が多額の債務を支払う覚悟を伴う契約です。
特に子どもの借金や金銭トラブルでは、親として助けたいという気持ちが先に立ちます。
しかし、家族を助けることと連帯保証人になることは別です。
保証を求められたときは、その場で署名せず、最悪の場合に全額を自分が支払うことになっても生活を維持できるのかまで考える。
連帯保証では、それくらい慎重な判断が必要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月9日朝刊
「息子の連帯保証、母の苦悩 債務巡る請求訴訟」
民法