破滅的医療支出とは何か WHOが注目する医療費負担編

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病気になれば医療費がかかるのは当然です。しかし、その医療費が家計を圧迫し、生活そのものが成り立たなくなるほどの負担となれば、大きな社会問題になります。

世界保健機関(WHO)は、このような状況を「破滅的医療支出(Catastrophic Health Expenditure)」と呼び、各国の医療制度を評価する重要な指標の一つとしています。

日本では国民皆保険制度や高額療養費制度が整備されているため、破滅的医療支出は少ないと思われがちです。しかし、高齢化や高額な新薬の普及などを背景に、そのリスクは決して他人事ではありません。

今回は、破滅的医療支出の意味と、日本の医療制度との関係について考えます。

破滅的医療支出とは

破滅的医療支出とは、医療費の支払いによって家計が著しく圧迫され、生活に重大な支障が生じる状態をいいます。

WHOは、医療費の自己負担が家計の支払能力に対して一定割合を超えた場合を、破滅的医療支出として国際比較に用いています。

単に医療費が高いというだけではありません。

生活費や教育費、住宅費など、日常生活に必要な支出を削らなければならなくなることが問題なのです。

なぜWHOは重視しているのか

WHOが掲げるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の考え方では、すべての人が必要な医療を、経済的困難に陥ることなく受けられることが重要とされています。

そのため、医療へのアクセスだけでなく、「医療を受けた結果、生活が破綻しないか」という点も重視しています。

どれほど優れた医療技術があっても、高額な医療費のために患者が治療を諦めたり、生活困窮に陥ったりするようでは、望ましい医療制度とはいえません。

破滅的医療支出は、医療制度が本当に国民を守れているかを測る重要な物差しなのです。

日本でも発生する可能性がある

日本には高額療養費制度があります。

そのため、欧米の一部の国のように数千万円もの医療費を自己負担することは通常ありません。

しかし、それでも破滅的医療支出が起こる可能性はあります。

例えば、長期間にわたるがん治療では、高額療養費制度を利用しても毎月一定額の自己負担が続きます。

さらに、差額ベッド代や先進医療の技術料、通院交通費、付き添い費用などは制度の対象外です。

病気によって休職や退職を余儀なくされ、収入が減少すれば、医療費の負担はさらに重くなります。

高額療養費制度見直しとの関係

2026年から高額療養費制度の自己負担上限額が段階的に引き上げられています。

政府は医療保険財政を維持するために必要な見直しと説明しています。

一方で、患者団体は、負担増によって治療継続を断念する患者が増えれば、破滅的医療支出が拡大する可能性があると懸念しています。

実際、低所得層を中心に、制度改正前でも一定割合の患者が破滅的医療支出に該当するとの研究結果も報告されています。

制度の持続可能性と患者保護の両立が、今後の大きな課題となっています。

海外ではさらに深刻な問題

世界には公的医療保険が十分に整備されていない国もあります。

医療費を全額自己負担しなければならないケースでは、病気になっただけで貯蓄を失ったり、借金を抱えたりする家庭も少なくありません。

その結果、医療費を支払えず治療を断念する人もいます。

WHOがUHCの実現を重視する背景には、このような世界的な課題があります。

医療費が原因で貧困に陥る人を減らすことは、世界共通の目標となっています。

家計全体で考えることが重要

医療費だけを見ていては、本当の負担は分かりません。

病気になると、収入が減少する一方で、交通費や介護費、日用品費など新たな支出も増えます。

家族が仕事を休んで看病すれば、その分の収入減少も発生します。

そのため、破滅的医療支出を考える際には、医療費だけでなく、家計全体への影響を総合的に見ることが重要です。

社会保障制度も、こうした視点から設計されることが求められています。

医療制度を評価する新しい視点

従来は、平均寿命や医師数、病床数などが医療制度の評価指標として重視されてきました。

しかし近年では、「経済的理由で必要な医療を諦める人がいないか」という視点が重視されています。

そのため、破滅的医療支出は、医療制度の公平性や持続可能性を評価する国際的な指標として定着しています。

日本でも制度改正を議論する際には、財政面だけでなく、患者や家族の生活への影響を検証することが重要になるでしょう。

一人ひとりが制度を知ることも大切

高額療養費制度や限度額適用認定制度、多数回該当など、日本には患者負担を軽減する仕組みが数多くあります。

しかし、制度を知らなければ利用できません。

また、民間の医療保険や就業不能保険などを活用し、収入減少への備えを考えることも重要です。

社会保障制度と自助努力を組み合わせることで、万一の病気への備えをより充実させることができます。

結論

破滅的医療支出とは、医療費によって家計が深刻な打撃を受け、生活そのものが維持できなくなる状態を指します。

WHOは、医療制度を評価する重要な指標として、この考え方を重視しています。

日本には国民皆保険制度や高額療養費制度があり、世界的に見ても医療費負担は抑えられていますが、長期療養や収入減少などが重なると、破滅的医療支出に陥る可能性はゼロではありません。

今後は、制度の持続可能性を確保しながら、誰もが経済的不安なく必要な医療を受けられる環境を維持することが重要です。そのためには、制度改革の議論においても、財政だけでなく患者の生活実態を踏まえた視点が欠かせないでしょう。

参考

・日本経済新聞 2026年8月2日 朝刊「高額療養費の患者負担引き上げ 保険料の軽減は限定的」

・世界保健機関(WHO)「Universal Health Coverage」

・世界保健機関(WHO)「Tracking Universal Health Coverage」

・厚生労働省「我が国の医療保険制度について」

・OECD「Health at a Glance」

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