政府が2027年度予算の概算要求基準で、成長分野におけるシーリングを事実上撤廃する方針を打ち出したことで、「シーリング」という言葉がニュースで大きく取り上げられました。
しかし、この言葉を普段耳にする機会は多くありません。予算編成に関心のある人以外には、あまりなじみのない用語ではないでしょうか。
実はシーリングは、日本の財政運営を長年支えてきた重要なルールです。今回は、その仕組みや歴史、そして今回の見直しが持つ意味について解説します。
シーリングとは
シーリングとは、国の予算編成において各省庁が要求できる予算額の上限を定める仕組みです。
英語の「Ceiling」は「天井」という意味があり、その名のとおり予算要求の上限を示しています。
各省庁は本来、それぞれの政策を実現するため、できるだけ多くの予算を確保したいと考えます。
もし制限がなければ、要求額は毎年際限なく膨らんでしまいます。
そこで政府は概算要求基準を定め、要求できる金額の目安を示してきました。
シーリングは財政規律を維持するための重要な仕組みだったのです。
シーリングはなぜ導入されたのか
シーリングが導入されたのは1960年代です。
当時の日本は高度経済成長の真っただ中にあり、公共投資や社会資本整備が急速に拡大していました。
その結果、各省庁の予算要求も年々増加し、政府全体として財政管理が難しくなっていきました。
そこで政府は、各省庁に対して「要求できる金額には上限がある」というルールを設け、予算編成を効率的に進めるようになりました。
財政支出をコントロールするという意味で、シーリングは大きな役割を果たしました。
マイナスシーリングの時代
1980年代に入ると、日本は財政赤字の拡大という新たな課題に直面します。
この時代に導入されたのが「マイナスシーリング」です。
これは前年度予算よりも少ない金額で要求することを原則とする仕組みです。
各省庁は既存事業を見直し、新しい政策を実施したい場合には既存予算を削減する努力が求められました。
限られた財源をどう配分するかという考え方が、この頃から強く意識されるようになりました。
なぜシーリングは形骸化したのか
その後、日本経済を取り巻く環境は大きく変化しました。
少子高齢化への対応、防災、経済対策、デジタル化、経済安全保障など、新たな政策課題が次々に生まれました。
そのため、シーリングだけでは必要な政策に十分な予算を配分できない場面が増えていきます。
特別枠や重点枠など例外措置が設けられ、補正予算も頻繁に編成されるようになりました。
近年では、形式上はシーリングが存在していても、多くの例外が認められる状況となり、「形骸化している」と指摘されるようになっていました。
今回の見直しは何が違うのか
今回の概算要求基準では、AIや半導体、経済安全保障など成長戦略に関わる分野について、実質的に要求額の上限が設けられませんでした。
さらに、金額を記載しない事項要求も幅広く認められています。
これは単なる例外措置ではなく、「成長投資を優先する」という予算編成の考え方そのものが変わりつつあることを示しています。
一方で、予算の拡大が財政悪化につながるとの懸念もあり、市場は国債発行額や財政規律の維持を厳しく見ています。
今後は、自由度が高まる一方で、これまで以上に予算の使い道や成果が問われることになるでしょう。
税理士として感じること
企業でも、各部門が自由に予算を使えるようになれば、経営は効率化するとは限りません。
重要なのは、限られた資源をどこへ配分すれば最も高い成果が得られるかを見極めることです。
国の予算も同じです。
シーリングを撤廃すること自体が目的ではありません。
成長につながる投資へ重点的に資源を配分し、その成果を検証し続ける仕組みがあってこそ、積極財政は国民の理解を得られるのではないでしょうか。
結論
シーリングは、長年にわたり日本の財政規律を支えてきた予算編成の基本ルールでした。
しかし、社会や経済環境の変化に伴い、例外措置が増え、近年はその役割が変わりつつありました。
今回の見直しは、成長投資を重視する新しい予算編成への転換点といえます。
これからは「上限を設けること」よりも、「限られた財源をどの分野へ投資し、どのような成果を生み出したか」が、これまで以上に重要な評価基準になっていくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月31日 朝刊「概算要求、大幅膨張に危惧 財務相『もはやシーリングはない』 来年度予算、市場も注視」