毎年夏になると、「各省庁が概算要求を提出した」というニュースが流れます。しかし、概算要求がどのような役割を持ち、その後どのような流れで国の予算が決まるのかを知っている人は意外に多くありません。
国の予算は、単に財務省が金額を決めるだけではありません。各省庁の政策と財政規律、そして国会での議論を経て、約1年をかけて作り上げられます。
今回は、概算要求から予算成立までの流れを整理し、日本の予算編成の仕組みを解説します。
概算要求とは
概算要求とは、各省庁が翌年度に必要と考える予算を財務省へ提出する手続きです。
毎年夏に政府が「概算要求基準」を示し、それに基づいて各省庁が必要な事業や政策を整理し、予算を要求します。
概算要求は「最終的な予算」ではありません。
各省庁の要望をまとめた出発点であり、この段階では実際に認められる金額よりも大きな要求となることが少なくありません。
そのため、概算要求額が過去最大になったという報道があっても、それがそのまま翌年度予算になるわけではありません。
各省庁はどのように要求するのか
概算要求では、各省庁が所管する政策ごとに必要な予算を積み上げます。
例えば、厚生労働省であれば社会保障や医療、文部科学省であれば教育や科学技術、防衛省であれば防衛力整備といったように、それぞれの行政分野について翌年度に必要となる経費を見積もります。
近年では、AIや経済安全保障など政府が重点分野と位置付ける政策について、通常の枠とは別に要求できる仕組みも設けられています。
こうした制度により、政府全体の政策目標を予算へ反映しやすくなっています。
財務省査定とは何か
各省庁から提出された概算要求は、そのまま認められるわけではありません。
財務省は要求内容を一つひとつ精査し、本当に必要な予算なのか、事業効果は十分なのか、重複する事業はないかなどを確認します。
この作業を「財務省査定」と呼びます。
査定では、各省庁との間で何度も協議が行われます。
要求額が減額されることもあれば、制度の見直しを条件に認められることもあります。
予算編成の中で最も重要な調整作業といえるでしょう。
政府案はどのように決まるのか
財務省査定が終わると、政府としての予算案が取りまとめられます。
例年12月ごろに政府案が決定され、閣議決定を経て正式な予算案となります。
この段階では、税制改正や経済対策なども合わせて公表されることが多く、翌年度の政府方針が明らかになります。
そのため、年末は経済政策に関するニュースが集中する時期でもあります。
国会で予算は成立する
政府案が決まっても、それだけでは予算は成立しません。
予算案は通常国会へ提出され、衆議院、参議院で審議が行われます。
予算委員会では、政策の必要性だけでなく、財源や事業効果についても幅広い議論が行われます。
最終的に国会で可決されて初めて、その年度の予算として執行できるようになります。
つまり、概算要求から予算成立までには、およそ半年以上の時間をかけて多くの調整と議論が行われているのです。
最近の予算編成で変わってきたこと
近年は、経済安全保障やデジタル化、防災、少子化対策など、新たな政策課題が増えています。
また、物価上昇や人件費の増加にも対応しなければならず、従来のように前年度予算を基準とした配分だけでは対応が難しくなっています。
そのため、重点投資枠や事項要求など柔軟な制度が拡大し、予算編成も以前より政策重視の色彩が強くなっています。
一方で、国債発行額や財政規律への市場の視線も厳しくなっており、「何に使うか」と「どう財源を確保するか」の両方がこれまで以上に重要視されています。
税理士として感じること
企業でも、年度予算は各部門が要望を提出し、経営陣が全体のバランスを見ながら調整します。
国の予算編成も基本的な考え方は同じです。
限られた財源を、どこへ優先的に配分するのかを決める経営判断そのものです。
だからこそ、概算要求額だけを見て財政が膨張したと判断するのではなく、その後の査定や国会審議まで含めて見ることが重要だと感じます。
結論
概算要求は、国の予算編成の出発点となる重要な手続きです。
各省庁が政策実現に必要な予算を示し、その後、財務省査定、政府案の決定、国会審議を経て翌年度予算が成立します。
ニュースでは概算要求額の大きさが注目されがちですが、本当に重要なのは、その後の調整を経て限られた財源がどの政策へ配分されるかです。
予算編成の流れを理解することで、経済ニュースの背景もより深く読み取れるようになるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月31日 朝刊「概算要求、大幅膨張に危惧 財務相『もはやシーリングはない』 来年度予算、市場も注視」