取引先に売掛金や貸付金があり、その債権に抵当権や質権などの担保が設定されている場合、「取引先が倒産したから貸倒損失にできる」と考えるのは早計です。
担保が付いている債権では、その担保から回収できる可能性があるため、税務上は担保の価値も含めて回収可能性を判断する必要があります。
今回は、担保付き債権の貸倒損失について、その考え方を解説します。
担保がある限り回収可能性は残っている
担保とは、債務者が返済できなくなった場合に備えて、債権者が優先的に弁済を受ける権利です。
代表的なものとして、
・抵当権
・根抵当権
・質権
・譲渡担保
などがあります。
これらの担保が設定されている場合には、債務者が返済不能となっても、担保を処分することで回収できる可能性があります。
そのため、担保付き債権は無担保債権よりも貸倒損失として認められにくい傾向があります。
担保の有無ではなく価値が重要
担保が設定されているからといって、必ず回収できるとは限りません。
例えば、不動産を担保としていても、
・地価が大きく下落している
・先順位の抵当権が多額である
・売却が極めて困難である
といった事情があれば、実際には十分な回収ができないことがあります。
税務上も、担保の存在だけではなく、実際にどの程度回収できるのかという経済的価値が重要になります。
回収できない部分だけ貸倒損失になる
担保評価の結果、債権全額は回収できなくても、一部だけ回収できるケースがあります。
例えば、
債権額 1,000万円
担保処分による回収見込額 300万円
この場合、残る700万円について回収不能と判断できれば、その部分について貸倒損失が認められる可能性があります。
つまり、貸倒損失は「全額かゼロか」ではなく、回収不能部分だけを計上する考え方が基本です。
担保評価は客観的資料で行う
税務調査では、「その担保は本当に300万円しか価値がなかったのか」といった点が確認されます。
そのため、
・不動産鑑定評価
・固定資産評価額
・路線価
・競売結果
・売買事例
など、客観的な資料に基づいて担保価値を評価しておくことが重要です。
単なる社内の見積りだけでは、税務上の説明として十分ではない場合があります。
担保権を放棄するときは注意が必要
担保があるにもかかわらず、担保権を実行せずに債権放棄を行う場合には注意が必要です。
合理的な理由がなく担保権を放棄すると、
「回収できたにもかかわらず、自ら回収を放棄した」
と判断される可能性があります。
その結果、貸倒損失が否認されたり、別の税務上の問題が生じたりすることもあります。
担保権を放棄する場合には、その経緯や経済合理性を十分に説明できるよう資料を整備しておくことが重要です。
税務調査では回収努力も確認される
担保付き債権では、担保評価だけではなく、実際に回収努力を行ったかどうかも確認されます。
例えば、
・担保権を実行したのか
・競売や任意売却を検討したのか
・担保提供者と交渉したのか
など、担保から回収するための対応が行われていたかが重要になります。
こうした記録を残しておくことは、貸倒損失の適正性を説明する上で大きな意味があります。
結論
担保付き債権では、債務者が倒産しただけでは貸倒損失は認められません。
担保からどれだけ回収できるかを客観的に評価し、それでもなお回収できない部分について初めて貸倒損失を検討することになります。
貸倒損失の判断では、担保の有無だけでなく、その実際の価値や回収努力の内容が重要なポイントになります。担保評価の根拠資料や回収経過を適切に保存しておくことが、税務調査に備える上でも欠かせないでしょう。
参考
税のしるべ 2026年7月27日
連載「不良債権に係る税務上の取扱いの再確認」第4回/債権者集会などで協議決定等があった場合
法人税法
法人税基本通達9−6−1
民法(担保物権)
国税庁 法人税基本通達・法人税法関係資料