相続税対策というと、多くの人は「相続が近づいてから考えるもの」と思いがちです。しかし、実際にはその考え方が最も大きな失敗につながります。
近年の税制改正により、相続税は一部の超富裕層だけの問題ではなくなりました。基礎控除額の引下げによって課税対象者は大きく増え、小規模宅地等の特例や生前贈与制度も改正が重ねられています。相続税対策は、亡くなる直前に慌てて行うものではなく、数年から十数年かけて準備する時代になったのです。
今回は、令和時代の相続対策において、なぜ「早く始めること」が最大の節税策になるのかを考えてみます。
相続税は昔より身近な税金になった
かつて相続税は、ごく限られた資産家だけが関係する税金という印象がありました。
しかし現在では、都市部で自宅を所有しているだけでも相続税の対象になるケースが珍しくありません。
その背景には、平成27年の基礎控除額の引下げがあります。
それまでより課税対象が広がり、土地や自宅を所有する一般家庭でも相続税の試算が必要な時代になりました。
さらに、不動産価格の上昇や株価の上昇も重なり、資産評価額が想定以上に増えている家庭も少なくありません。
つまり、「自分は資産家ではないから関係ない」と考えること自体が、大きなリスクになっているのです。
相続税対策は時間を味方につける
相続税対策には、大きく分けると次の三つがあります。
第一は、財産を減らすことです。
生前贈与などによって少しずつ財産を移転すれば、将来の相続財産を減らすことができます。
第二は、財産の評価を下げることです。
不動産の活用や小規模宅地等の特例などを利用すると、評価額を大きく下げられる場合があります。
第三は、相続税の特例を活用することです。
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、多くの制度は適用要件を満たす必要があります。
これらはいずれも、短期間では実現できません。
数年かけて準備することで初めて大きな効果を生みます。
節税策ほど準備期間が必要になる
例えば、生前贈与です。
毎年少しずつ財産を移転していけば、大きな財産でも時間をかけて承継できます。
しかし、相続が目前になってから多額の贈与を行えば、生前贈与加算などの影響を受ける可能性があります。
また、小規模宅地等の特例も、居住状況や事業の継続など様々な要件があります。
亡くなる直前になって土地の利用方法を変更しても、適用できないケースが少なくありません。
つまり、制度を知っているだけでは不十分であり、制度を利用できる状態を長期間維持することが重要なのです。
一次相続だけを考えると失敗する
相続対策で見落とされやすいのが、二次相続です。
配偶者には税額軽減制度があるため、一次相続では相続税がほとんど発生しないケースがあります。
そのため、多くの家庭では「税金がゼロだったので安心した」と考えます。
しかし、その後に配偶者が亡くなる二次相続では、基礎控除額が減少し、配偶者の税額軽減も使えません。
結果として、一次相続で節税した以上に多額の税負担が発生することもあります。
相続税対策は、一回の相続ではなく、夫婦二人の相続全体で考えることが重要です。
税制改正は毎年のように続いている
近年の相続税制は頻繁に改正されています。
小規模宅地等の特例では適用要件が見直されました。
相続時精算課税制度も大きく改正されました。
贈与制度も適用期限や非課税制度が毎年のように変更されています。
つまり、一度対策を立てれば終わりではありません。
定期的に制度改正を確認し、自分の相続対策を見直していく必要があります。
相続対策は「イベント」ではなく、「長期プロジェクト」と考えるべきなのです。
相続対策は節税だけではない
相続税対策というと、税金を減らすことばかり注目されます。
しかし、本来の目的は円満な資産承継です。
誰が自宅を引き継ぐのか。
誰が事業を承継するのか。
納税資金は確保できるのか。
家族間で十分に話し合われているのか。
これらを整理することも、相続対策の重要な役割です。
税金だけを減らしても、家族が争えば意味がありません。
財産だけでなく、家族の将来まで見据えた準備こそが、本当の相続対策といえるでしょう。
結論
令和時代の相続税対策は、「早く始めた人ほど有利」という特徴があります。
生前贈与、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減、相続時精算課税制度など、多くの制度は時間をかけて準備することで最大限の効果を発揮します。
また、税制改正が続く現在では、一度対策を立てて終わりではなく、定期的に見直す姿勢も欠かせません。
相続はいつ起こるか分かりません。だからこそ、元気なうちから家族と話し合い、長期的な視点で準備を始めることが、結果として最も大きな安心と節税につながるのです。
参考
東京地方税理士会 令和の資産家の相続税対策 近年の税制改正をふまえて 江本尚浩 講義資料