地方税は、私たちの生活に最も身近な税金です。固定資産税や個人住民税、自動車税、不動産取得税など、日常生活や事業活動のさまざまな場面で課税されています。
しかし、地方税であっても、「行政が必要と考えれば自由に課税できる」わけではありません。
地方税にも、国税と同様に厳格なルールがあります。その根底にあるのが「租税法律主義」です。
今回の講義資料で紹介された個人事業税事件や不動産取得税事件、固定資産税評価事件は、一見すると異なる税目の裁判ですが、いずれも租税法律主義という共通の原則に基づいて判断されています。
今回は、この地方税訴訟に共通する考え方について解説します。
租税法律主義とは
租税法律主義とは、
税金は法律に基づかなければ課すことができない
という憲法上の原則です。
日本国憲法第84条では、
新たな租税を課したり、既存の租税を変更したりする場合には、法律または法律の定める条件によることが必要とされています。
つまり、
行政機関だけの判断で課税範囲を広げたり、新たな税負担を生み出したりすることは認められていません。
この原則は、国税だけでなく地方税にも等しく適用されます。
地方税も法律に従わなければならない
地方税は都道府県や市町村が課税します。
そのため、
「地方自治体なのだから独自に判断できるのではないか」
と思われることがあります。
しかし、
地方税も地方税法という法律に基づいて課税されています。
条例によって税率などを定める場合でも、
その根拠は地方税法にあります。
したがって、
地方自治体が法律にない課税を行うことはできません。
個人事業税事件が示したもの
カイロプラクティック事件では、
神奈川県は、
地方税法の「請負業」に該当するとして個人事業税を課税しました。
しかし東京高等裁判所は、
施術契約は請負契約ではなく準委任契約であると判断しました。
さらに、
地方税法は課税対象業種を限定列挙している以上、
準委任契約まで請負業に含めることはできないと判示しました。
これは、
租税法律主義に基づき、
法律に書かれていない範囲まで課税対象を拡大してはならないことを明確に示した判決でした。
駐車場業事件も同じ考え方で判断された
コインパーキング事件でも、
課税庁は土地所有者を駐車場業と判断しました。
しかし裁判所は、
契約内容や事業の実態を詳しく検討し、
実際に駐車場業を営んでいるのは運営会社であると判断しました。
形式だけを見て課税するのではなく、
地方税法が予定している課税対象に本当に該当するのかを厳格に審査したのです。
ここにも租税法律主義の考え方が貫かれています。
固定資産税評価でも法律が基準になる
固定資産税評価事件でも、
裁判所は市場価格を独自に判断したわけではありません。
審査対象となったのは、
- 地方税法
- 固定資産評価基準
- 評価手続
に従って適正に評価されたかどうかです。
つまり、
行政の裁量があるように見える評価制度であっても、
法律と評価基準に基づかなければならないという考え方が採られています。
裁判所は行政の判断を尊重するだけではない
税務訴訟では、
「行政の判断だから正しい」
という前提で裁判が行われるわけではありません。
裁判所は、
- 法律の文言
- 制度趣旨
- 判例
- 立法経緯
などを総合的に検討し、
行政の課税が法律に適合しているかを判断します。
行政実務が長年続いていたとしても、
法律に適合しなければ違法と判断されることがあります。
これも租税法律主義があるからこそ可能となるのです。
税理士に求められる視点
税理士は、
税務署や自治体の説明をそのまま受け入れるだけではなく、
その課税に法的根拠があるかどうかを確認する姿勢が求められます。
実務では、
- 地方税法の規定
- 政令・省令
- 通達
- 判例
- 学説
を総合的に検討することが重要になります。
特に新しいビジネスや新しい取引形態では、
従来の実務だけでは判断できないケースも増えています。
そのような場面では、
租税法律主義という原点に立ち返ることが適切な判断につながります。
地方税訴訟が果たす役割
地方税訴訟は、
単に個別の税額を争うだけではありません。
地方税法の解釈を明確にし、
全国の課税実務を統一する役割も果たしています。
今回取り上げた判例も、
その後の自治体実務や税務実務に大きな影響を与えました。
判例が積み重なることで、
納税者にとっても行政にとっても、
より公平で予測可能な税制が実現されていきます。
結論
地方税訴訟に共通する最も重要な原則は、租税法律主義です。
地方税であっても、行政は法律に基づいて課税しなければならず、法律に定めのない範囲まで課税対象を拡大することは認められません。
今回紹介した個人事業税、不動産取得税、固定資産税評価の各裁判例は、それぞれ異なる税目を扱っていますが、いずれも「法律に基づく適正な課税」という共通の考え方に立っています。税理士には、この基本原則を理解した上で、法令と判例に基づく的確な助言を行うことが期待されています。
参考
近畿税理士会研修会(周辺専門講座)
「地方税をめぐる最近の動向等―注目すべき裁判例の検討を中心に―」
講師 和歌山大学経済学部教授 片山直子先生
日本国憲法第84条
地方税法
東京高等裁判所令和2年11月18日判決(個人事業税・カイロプラクティック事件)
東京高等裁判所令和3年8月26日判決(個人事業税・駐車場業事件)
固定資産税評価に関する講義資料